第37話 理想の代償
議場外の小会議室で、エリアス・ノルデンは熱弁を振るっていた。
「保守派は変化を恐れているだけです!」
「国家の敵と言っても過言ではありません!」
若手議員たちが頷く。
だがその場に、記者が一人混ざっていた。
その言葉は、翌朝の紙面に載る。
『改革派議員、保守派を“国家の敵”と断言』
王都は即座に割れた。
「やはり改革派は過激だ」
「中央を分断する気か」
侯爵派は沈黙したまま、反論しない。
その沈黙が、炎を煽る。
王宮の執務室。
王太子カイルは新聞を机に叩きつけた。
「未熟だ……!」
セシリアは冷静だ。
「若さです」
「だが火種になる」
改革派の支持は揺らぎ始める。
その頃。
王国南部の港湾に、急報が届いた。
帝国が発表。
『鉄鉱石の輸出を一時停止する』
理由は「国内需要の増大」。
だが誰も信じない。
軍需局が騒然とする。
「価格が三割上昇しています!」
「予備在庫は三ヶ月分!」
ヴィクトルが歯を食いしばる。
「狙い撃ちだ」
同時刻。
帝国北部要塞。
将軍レオニード・ヴァルガは報告を受けていた。
「王国は内部改革中とのこと」
「揺れているか?」
「はい。世論が分裂しています」
将軍は小さく笑う。
「恐怖は統一を生む」
彼の信条は明確だ。
「地方裁量など、戦場では毒だ」
静かに命じる。
「補給線の監視を強化しろ」
王国。
王城会議室。
ミレーヌ・グランベル財務総監が初めて姿を見せる。
「鉄価格上昇は一時的ではありません」
落ち着いた声。
「帝国は価格操作に入っています」
視線がアレクシスへ向く。
「対応策は」
問われる。
彼は数秒沈黙する。
ここで初めて、迷いが見えた。
「……備蓄放出は一時的解決に過ぎません」
「では?」
「国内鉱山の再稼働」
ざわめき。
「コストは高い」
ミレーヌが即座に返す。
「短期的には」
アレクシスは静かに言う。
「だが依存は、より高くつきます」
沈黙。
王太子が問う。
「時間は」
「急ぐべきです」
その瞬間、第二報。
国境付近で商隊が襲撃。
物資を奪われる。
偶然か。
違う。
王国は、内と外から同時に揺さぶられた。
エリアスの失言で世論は割れ、
帝国の経済圧力で軍需が揺れる。
セシリアが低く呟く。
「均衡が崩れましたね」
アレクシスは窓の外を見る。
王都の灯りはまだ多い。
だが風向きが変わった。
「恐怖でまとめるか」
小さく呟く。
「機能で耐えるか」
国家は、試されている。




