第36話 揺れる支持基盤
法案可決の翌日、王都は静かにざわついていた。
軍需帳簿統一。
それは紙の上の改革でありながら、貴族社会にとっては現実的な脅威だった。
「次は税だ」
「いや、次は特権の剥奪だ」
過剰な噂が、酒場から広がる。
侯爵派は沈黙している。
それが逆に、不気味だった。
王宮の一室。
ヴィクトル・ハインリヒが報告書を置く。
「一部貴族が軍需協力を遅らせています」
「露骨だな」
カイルは苦く言う。
「表立っては反対しない。だが、協力もしない」
静かな抵抗。
これが政治だ。
セシリアが問いかける。
「兄上、どこまで押しますか」
「押す?」
「支持基盤が揺れています」
事実だった。
保守派の宴席に、王太子の姿は招かれなくなりつつある。
カイルは、ゆっくりと答える。
「私は支持を守るために座っているのではない」
以前より、言葉に迷いがない。
「だが孤立すれば、動けなくなる」
現実も理解している。
同じ頃。
アレクシスは、エリアスと対面していた。
「支持層を広げたいのです」
若手議員は真剣だ。
「改革派をまとめれば、次の法案も通せる」
「焦るな」
短い一言。
「改革は連鎖する」
「ですが、今なら勢いが――」
「勢いは敵も利用する」
エリアスは言葉を飲み込む。
政治は感情では回らない。
夜。
侯爵邸。
ルーファスは、静かに酒を傾けていた。
「殿下は成長された」
側近が言う。
「未熟さは消えつつあります」
「だからこそ、危うい」
侯爵は低く呟く。
「彼は理念に傾き始めた」
「理念は悪ですか」
「暴走すればな」
彼の目は冷静だ。
中央が弱まる未来を、本気で恐れている。
「次は世論を動かす」
静かな宣言。
数日後。
王都に新聞が出回る。
『地方優遇で王都負担増か』
根拠は曖昧。
だが印象は強い。
市場での会話が変わる。
「結局、税が上がるのでは?」
「辺境のために?」
揺らぎが生まれる。
高窓から街を見下ろしながら、セシリアが言う。
「始まりましたね」
「ええ」
アレクシスは静かに答える。
「制度の戦いは、議場だけでは終わりません」
政治は数字だけでなく、感情も動く。
法案は通った。
だが支持は盤石ではない。
国家は変わり始めた。
同時に、反発も形を持ち始めている。
揺れる支持基盤。
それを支えられるかどうかで――
次の一手が決まる。
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