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婚約破棄?結構です。では国家運営は自己責任で ~辺境が黒字化したら王都が困り始めました~  作者: 雪乃フィオナ
第1部 秤の王国

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第35話 修正と代償

 法案は、三日間の調整を経て採決にかけられた。


 軍需帳簿全国統一法案――修正版。


 公開範囲は縮小。

 特権倉庫は「三年以内の段階廃止」。

 地方裁量は「軍需に限定」。


 当初案より、明らかに後退している。


 議場は静まり返っていた。


「採決を行う」


 王太子カイルの声が響く。


 賛成と反対の札が上がる。


 数が、拮抗する。


 やがて、最終票が読み上げられた。


「賛成、多数。よって可決」


 拍手は、まばらだった。


 歓声もない。


 だが、否決でもない。


 それが現実だ。


 議場を出たエリアスは、悔しさを隠さなかった。


「削られすぎです!」


 廊下で声を荒げる。


「これでは意味が半減する!」


 アレクシスは足を止める。


「半減はしていない」


「しかし!」


「完全を求めれば、ゼロになる」


 低く、だが厳しい声。


 エリアスは唇を噛む。


「私は……もっと変えられると思っていました」


「思うことは悪くない」


 アレクシスは静かに続ける。


「だが、政治は足し算ではない。削り合いだ」


 勝った部分と、失った部分。


 両方を見る。


 それが現実。


 夜。


 王太子の私室。


 カイルは、可決された法案の写しを見つめていた。


「完全ではない」


 独り言のように呟く。


 そこへセシリアが入る。


「それでも前進です」


「侯爵の支持は揺らぐ」


「覚悟は?」


 問いは静かだが鋭い。


 カイルは顔を上げる。


「私は国家を選ぶと言った」


 迷いは、以前より少ない。


「ならば、代償も受け入れねばなりません」


 セシリアは頷く。


 政治は常に、何かを失う。


 同じ頃。


 侯爵邸。


「通ったか」


 ルーファスは報告を聞き、目を閉じる。


「完全な敗北ではありません」


 側近が言う。


「段階廃止なら、時間はある」


 侯爵はゆっくりと頷いた。


「時間は、武器だ」


 彼は焦らない。


 改革は進んだ。

 だが完全ではない。


 揺り戻す余地は残る。


 翌朝。


 王都の市場では、噂が広がる。


「軍の帳簿が変わるらしい」

「貴族の倉庫も整理されるとか」


 期待と不安が入り混じる。


 アレクシスは、城の高窓から街を見下ろした。


 完全勝利ではない。


 だが、確実に動いた。


「代償は」


 背後から、セシリアの声。


「受け入れます」


 彼は振り返らずに答える。


「止まるよりは、進む方がいい」


 法案は通った。


 だが戦いは終わっていない。


 修正は、前進でもあり、妥協でもある。


 政治は常に、その中間にある。


 そして今――


 国家は、ゆっくりと形を変え始めていた。

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