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婚約破棄?結構です。では国家運営は自己責任で ~辺境が黒字化したら王都が困り始めました~  作者: 雪乃フィオナ
第1部 秤の王国

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第32話 帰還

 王都の城門は、辺境のそれよりも高く、そして冷たい。


 石壁は白く磨かれ、衛兵の鎧は光っている。


 だが、歓迎の喧騒はなかった。


 アレクシス・フォン・グランツは、静かに馬車を降りる。


 視線が集まる。


 好奇。

 警戒。

 露骨な不快。


「戻ってきたぞ、左遷された男が」

「辺境の改革者だそうだ」

「中央をかき回す気か」


 囁きは、隠そうともしない。


 マルティナは同行していない。

 リーゼロッテもいない。


 今回は、単身。


 それが象徴だった。


 王城の大広間。


 第一王女セシリアが待っている。


「おかえりなさい、とは言いません」


 微笑みは柔らかいが、距離は保たれている。


「帰る場所は、まだ決まっていませんから」


「ええ」


 アレクシスは一礼する。


「王都は、以前と変わりましたか」


「揺れています」


 端的な答え。


「あなたの条件で」


 廊下を進む。


 かつて日常だった場所が、今は別の舞台に見える。


「兄上は覚悟を固めつつあります」


「侯爵は」


「本気です」


 短い会話の中に、全てが含まれている。


 議場へ入ると、空気が一段冷えた。


 貴族議員たちが並ぶ。


 中央壇上には、王太子カイル。


 視線が交わる。


 以前より、迷いが少ない。


「中央顧問としての暫定参加を認める」


 形式的な宣言。


 拍手は、まばら。


 その時、一人の若い貴族が立ち上がった。


「エリアス・ノルデンです!」


 勢いのある声。


「私は改革案を支持します!」


 周囲がざわつく。


「軍需統一は必要だ! 地方裁量も――」


「落ち着け」


 アレクシスが低く言う。


 エリアスは一瞬言葉を詰まらせる。


 議場は戦場だ。


 勢いだけでは足りない。


 ルーファス・オルデン侯爵が、ゆっくりと立つ。


「歓迎しよう、グランツ卿」


 声音は穏やか。


「だが一つ問いたい」


 静寂。


「あなたの制度は、理想だ。だが理想で国家は守れるのか」


 真正面からの問い。


 拍手も嘲笑もない。


 全員が答えを待っている。


 アレクシスは、一歩前に出た。


「理想ではありません」


 静かな声。


「実証です」


 辺境の黒字。

 軍需の改善。


「国家は、恐怖でも特権でも回りません」


 わずかなざわめき。


「機能で回ります」


 言い切った。


 侯爵の目が細くなる。


「では、機能を失った時はどうする」


「整え直します」


 即答。


「中央であれ、地方であれ」


 空気が張り詰める。


 王太子は、黙って聞いている。


 議場は静かだが、確実に割れている。


 賛成。

 反対。

 様子見。


 アレクシスは理解していた。


 ここからは、帳簿ではない。


 言葉と覚悟の戦いだ。


 王都への帰還は、祝福ではなかった。


 だがそれでいい。


 静かに、確実に。


 制度は、議場に持ち込まれた。

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