第31話 選ぶ覚悟
王都の会議は、夜を越えて続いた。
円卓を囲むのは、王太子カイル、第一王女セシリア、軍需局次官ヴィクトル、財務官、そしてルーファス・オルデン侯爵。
「地方裁量の明文化は認められん」
最初に口を開いたのは、侯爵だった。
「国家は統一意思で動くべきだ。裁量を与えれば、地方は勝手をする」
「勝手をしているのは、例外です」
ヴィクトルが静かに言う。
「帳簿統一は、軍需上必須です」
「軍の都合で国家構造を変えるのか?」
「戦場は国家そのものです」
静かな応酬。
カイルは、全員の言葉を聞いていた。
そして気づいている。
この議論は制度の是非ではない。
誰が国家を握るか、だ。
「兄上」
セシリアが穏やかに言う。
「彼は権力を求めていません」
「だから信用できると?」
「少なくとも、奪う側ではない」
侯爵が笑う。
「理想論ですな」
だがカイルは、ゆっくりと顔を上げた。
「理想ではない」
全員が静まる。
「私は、辺境を見た」
崩れかけた町。
だが機能していた。
「例外がなくても、回る」
その事実が、重い。
「侯爵」
名指し。
「あなたは中央集権を守りたいのだろう」
「当然です」
「だが、中央が機能しなければ意味がない」
沈黙。
ヴィクトルが、低く補足する。
「制度を整えれば、逆に中央の責任は明確になります」
「責任、か」
侯爵の目が細くなる。
「責任が明確になれば、失敗も明確になります」
痛みは、中央にも及ぶ。
それが恐れだ。
カイルは、立ち上がった。
「軍需帳簿の全国統一は採用する」
決断。
「辺境制度の恒久保障も、法文化を検討する」
ざわめき。
「地方裁量については、限定的に導入する」
完全ではない。
だが一歩。
侯爵は、静かに言う。
「殿下は、彼を選ぶのですな」
カイルは、まっすぐ返す。
「私は、国家を選ぶ」
会議は終わる。
結論は、まだ半分。
だが動いた。
翌朝。
辺境へ向かう新たな書簡が作成される。
『条件の一部受諾。詳細協議を望む』
短い文。
だが、王都が譲歩した証だ。
数日後。
辺境の会議室で、封が切られる。
マルティナが笑う。
「食らいついたな」
リーゼロッテは、静かに言う。
「完全受諾ではありません」
「十分です」
アレクシスは、書簡を閉じた。
王都は、逃げなかった。
それだけで価値がある。
「どうする?」
問われる。
「協議に応じます」
戻るとは言わない。
だが拒まない。
「次は、私が王都へ行きます」
空気が変わる。
ついに、舞台は中央へ移る。
王都は覚悟を選び始めた。
そして辺境は――
静かに、主導権を握っている。




