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66 ゴブリン狩り 2

 朝、白み始めた村で、俺は一人テントの外で甩手スワイショウをしていた。

 村の民家ではもうすでに煙突から煙が出てる家もある。少し離れた場所では軍の炊事班の人たちがすでに朝食を用意し始めている。


 魔力操作の訓練として別に隠さなくても良いかななんて思ってるし、太極拳は朝のルーティンになり、やらないと気持ち悪いまである。

 

 甩手スワイショウは太極拳の準備運動に行われる。腕振りともいわれ、手を振る時の遠心力を利用して体をほぐしていくような体操になる。太極拳の準備運動や練習はその先生や団体によって色々分かれる。「八方五歩」や「八段錦」「ぷるぷる気功」「初級太極拳」など様々なものがある。


 甩手で体をほぐすと站椿功タントウコウを始める。


「スー。ハー」


 太極拳は呼吸が大事だ。春とは言え朝の冷たい空気が肺をキュッとさせる。クワを曲げ重心を少し下げ目を閉じゆっくりと呼吸を整える。俺はこの時目を閉じて瞑想のような気分に浸るのが好きだ。


 目を閉じ、ずっと同じ体勢を維持することで、微妙にふらふらとしながら段々と一番体の楽で安定した状態に落ち着いていくと言う話もある。太極拳の立ち方の理想形を求める練習とも言える。そしてそこが太極拳での体の使い方の基準になる。

 

 吸う時に体の魔力を開放するように全身に行き渡らせる。そして、吐き出す時に魔力溜まりに貯めるようにする。握って開いて……。そんなイメージだ。

 時間にしたら五分程度だろうか、心地よすぎて放って置くといつまでもやってしまう。


 ある程度で満足すると収勢シュウシーをして目を開ける……。


「いっ!」


 目を開けると目の前にはファラド将軍が切り株に腰を掛けて俺を見つめていた。


「お、おはようございます……」

「おう」

「……えっと?」

「今のは?」

「魔力操作の練習、ですかね?」

「毎日やってるのか?」

「あ、はい」

「面白いな」

「そ、そうですか?」

「どうやるんだ?」

「えっと……」


 別にこういうのは隠すつもりはない。特にファラドは俺も大好きなキャラだ。呼吸のやり方から、体の体勢の作り方、そして魔力の移動イメージなどを丁寧に教えていく。


「これはいつからやってる?」

「一年くらい前ですかね」

「なるほどな……」


 いや、流石だ。魔力視を通して見れば、ファラドは一発で完ぺきにこなしている。テントから俺達のやり取りを見ていたアドリックやセヴァも呼ばれて一緒に始める。

 そのまま、ハティやリュミエラまで合流するしまつだ。


「二十四式もあるよね」

「ハティ?」


 ここらへんはもうハティにも教えている。と言ってもハティは性格的にすぐに飽きてしまう為、ちゃんとはやっていないが、見てはいる。

 別に二十四式も教えていくのは良いと思ってるのだが、今はゴブリン狩りに来ている立場だ。教えるのも面倒だし今日は站椿功だけでいいと思ってたのに……。


 そんな話をすれば、おじさんは絶対に食いつく。


「二十四式?」


 ほれみろ……。


「あ、はい……」

「見せてみろ」

「今、ですか?」

「おう」


 興味津々のファラドの前で二十四式太極拳を披露する。あえて手は抜かない。魔力操作まできっちりと気を使ってやりながらこなす。

 収勢をして終わらせると、しばし考え込んだファラドが訊ねる。


「それはどこで?」

「えっと、なんていうか……。昔、うちの前に倒れていた老人がいまして。介抱したところ、ワシにはこれくらいしかお礼が出来ない……と、教えてくれたんです」


 よし、俺は前々から準備していた太極拳の出どころを説明する。ファラドはそれを聞いて興味津々だ。きっと信じたに違いない。


「その老人は名乗ったのか?」

「いえ、名乗るほどの者では無いと、頑なに」

「不思議な話だな。ふうむ。それは俺達にも教えに来てもらえるか?」

「しょ、将軍に?」

「ああ、うちの兵士たちにも教えたいが、良いか?」

「良いとは、思いますが……、今日は時間が無いかと」

「そうだな、後日で構わない」


 なんとなく話が大きくなってきてビビるが、エクスハントはアドリックに付き従う軍だ。将来的にアドリックを完全に更生させる予定の俺としては、仲間の軍となる。

 魔力操作はちゃんとできるようになると、体のコントロールも良くなるため、絶対に無駄ではないとは分かっている。


「だけど、ハントの皆さんはちゃんと魔力操作は出来るんじゃないですか?」

「お前ほどちゃんと出来る人間など見たこと無いわ」

「……はい?」


 そうなのか? 見てればそれなりに魔力を動かして皆戦っているように思えるが。


「わからぬか?」

「みんな普通に手や足に魔力を動かして戦っていますよね?」

「動かすことはな」

「えっと?」

「お前は動かした魔力が自然にその部位に馴染んでいる。普通はその部位で体に馴染んで生きる魔力など2割が良いところだぞ?」

「へ?」

「気がついておらんかったか……」

「は、はあ……」


 それはそうだ。魔力の馴染なんて……。自分の動きが見えるわけじゃないからどれだけ馴染んでいるかなんて……。


 俺は手に魔力を移しながらそれを魔力視で凝視する。


 ん?


 ちょっと違うかな?


「おい。ジャック!」


 俺が悩んでいると、ファラドが横を歩いていた一人の兵士に声を掛ける。兵士はビシッと止まりファラドに向かい直る。


「手に魔力を集めてみろ。なるべくきちんと馴染ませるようにな」

「は!」


 ジャックと呼ばれた兵士はファラドに言われるがままに、俺がやっていたように手に魔力を集めていく……。


「あっ……」


 俺は慌てて自分の手を見る。


 ……確かに違う。


 説明は難しいが、ジャックの手に集まる魔力は単純に手に魔力が集中しているような感じだ。それに対して俺の方はよく混じっているというか、手自体が魔力を放っているような、説明は難しいがなんか違うのが分かる。


「わかるか?」

「な、なんとなく」

「それを教えて欲しい」

「は、はい」


 そう言えば……。初めてスコットに会った時の事を思い出す。ちょうど太極拳をやっているときだったな。スコットも割と驚いていたが、あれは年齢的なギャップの話かとは思っていたのだが……。


 なんとなく、俺の魔力操作はいい感じなのかもしれないな。と、少し自信が持てた。


 ……。


 その後、朝食を済ますと俺達は早速ゴブリンの集落を目指して移動し始める。ここからは歩きになる。

 案内は集落に住む、元冒険者という壮年の男だった。エクスハントに依頼をする前に集落の位置だけはなんとか調べたという。


 彼の先導のもと俺達は森の中へと入っていく。



 ゴブリンは単体なら問題はないとはいえ、かなりの数が居ればその難易度は飛躍的に上がる。それは知恵を持つ亜人系の魔物ということで、仲間同士の連携をするというのがネックになる。


 歩きながらもファラドには、俺達はパーティーで常にまとまって動くようにと言い聞かされた。

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