67 ゴブリン狩り 3
道中、俺はスッとファラドの隣に行く。
「領都の魔道具屋でおすすめのお店とかありますか?」
「魔道具? ふむ……。何が欲しいんだ?」
「えっと、自衛用の魔道具とかですかね」
「戦闘向けか?」
「どちらかと言えばそうですね。でもどんな魔道具があるかも分からないので……」
どうやら魔道具屋にも、日用品の魔道具を作る店と、冒険者向けの魔道具を作る店など、特徴によってだいぶ違うようだ。
「オーダーで作るならオルベアの店がおすすめだな」
「え。魔道具ってオーダー出来るんですか?」
「すべての希望が叶うわけじゃ無いだろうが、ある程度効果は刻む魔法陣で変わるだろ?」
「なるほど……」
オーダーか、原作でも魔道具担当のヒロインが色々と便利な物を作っていたが……。自由に選べるなら俺のタイプにあった魔道具を作れるのか。
それはそれで楽しみだが……。
「ちなみに、そういうオーダーってどのくらいで作れるんですかね」
「そうだな、一ヶ月もあれば形にはするんじゃないか? どんな魔道具を作るかで変わるがな」
うーん。一ヶ月だとやっぱり厳しいかな。
もしかしたら、こういう質問はもしかしたらスコットの方が得意かもしれないが、なんせしばらく留守にしているからな。なんとも言えない。
ただ、ガチムチのファラドもそういった魔道具屋事情に関しても明るく、色々と説明してくれた。
……。
……。
やがて、案内をしてくれた元冒険者という村人が隊列を止める。
振り向いて何やら手でこの先だと合図している。ファラドが頷きながら手招きをすると、村人はファラドの方へと近づく。
「ご苦労だった、助かる」
「将軍、俺が見たときより少し気配が少ないような気が……」
「気配が? どこかに狩りに行ってると?」
「わかりませんが、挟撃されないように気をつけて下さい」
「相手はゴブリンだろ?」
「はい。全部は確認していませんが、上位種は見かけませんでした」
「うむ……。あとは任せておけ」
ファラドが言うと村人は後ろへ下がる。そして、ピリッとした空気の中、俺達は荒れた藪の中を進んでいく。
ゴブリンは獣系の魔物ほどでは無いが、人間よりも耳などは良いという。ここからはなるべく音を立てないように行くのだが、キチンとした道もない中、進むのはなかなか厳しい。
先頭を歩く二人の兵士が、道を作る。一人がそっと邪魔な枝を掴むと、両手持ちの枝切りバサミのようなものでパスッっと枝を切っていく。そうしてなるべく音をたてないように進む。
ある程度進むと徐々に集落の様子が見えてくる。
藪の切れる辺りで、先頭の二人が手を止め、そこから集落を覗き込む。俺も気になって少し前に行くと、集落はこの先の少し低くなったところに広がる開けた土地に作られていた。
家も簡単なテントのような建物が並び、人間の物と比べれば質は悪いが、ちゃんとした集落として生活環境が揃っているのが感じられた。始めてこれを見る俺にはなんとも言えない気持ち悪さを感じる。
……気配が少ないって言っていたな。
俺も背伸びをして、同じ様に村を覗くが……。確かに少し集落の規模から見て動いているゴブリンの数が小さい気がする。
「ラド、どう思う?」
「聞いていたより少ないと思うけど、狩りに出ているんじゃなかって話をしてたよね」
「数というより、奴らの様子が変じゃないか?」
「変?」
ゴブリンの普通の行動というのは分からないが、どういうことだろう。アドリックは何かを感じたのか? うーん……。ちょっとなんとも言えないが、こういう集団の動きの違和感などは帝王学を学んでいるアドリックの方が分かるのかもしれない。
アドリックが振り向くとファラドがすぐに近づいていく。ファラドを確認したアドリックが俺にしたのと同じ問をする。
「どう思う?」
「確かに、怯え……ですかな?」
「何か別の魔物が?」
「その可能性はありますな。あの奥に魔素が濃いところがあります。魔素の噴き出している場所がおそらくあるのでしょう」
「魔素が?」
俺は話を聞いてハッとする。ファラドが言ってることは明らかに魔素溜りについてだったからだ。
「ええ。たまにそういった場所があるのです。地中から魔素が噴き出ている場所が」
ファラドの答えに俺は思わず口を挟む。
「もしかしたらダンジョンもどきですか?」
俺の問いにファラドがわずかに驚いた顔をする。
「冒険者たちの中には、魔素に誘われてその周囲に魔物が集まることから、そう言う者も居るようだな」
「前にスコットから聞いたことがあって……」
「なるほどな。そうか、リヴァンスハントの時も護衛に来てたしな」
「スコットを知ってるんです?」
「そりゃな。我々エクスハントは軍の中じゃ冒険者に一番近い位置にいるからな。特にA級の冒険者などそうはいない」
「本人は元冒険者って言ってますけどね」
「なんだ、まだそんなことを言ってるのか。あいつは」
どうやらファラドはスコットのことをそれなりに知ってるようだ。
ギルドからの無茶な依頼を受けたくないからいつも「元」と名乗って逃げてる。そう言う評判らしい。
なんか、スコットらしいなと俺は少し笑ってしまう。
「とは言え現状あいつらがあそこでああやって居ることは見過ごせないからな……。アドリック様のパーティーはここで――」
「それは無いぞファラド。俺たちは戦いに来たんだからな」
ファラドも何かを感じるところがあるのだろう。俺達はここで見てろとでも言おうとしたファラドにアドリックが不満げに言葉を封じる。
まあ、ここまで来たんだ。やるだけやろう。
俺もそういう気持ちになっていた。
ファラドはしばらくアドリックの顔を見ていたが、諦めたようにため息を付く。
「では、一気に潰します。案内人の話によればもう少し数がいたという話ですが、念の為周りに斥候を撒きますので」
「よし」
「では、三方向から参りましょう、アドリック様はここで動きをお待ち下さい。我々が動くのを見てから突撃するようお願いします」
「分かった」
ファラドは、部下に指示をすると、エクスハントの兵たちは集落を回り込むように左右に別れていく。それでも二人の兵士はここに残るようだ。
戦場のようピリッとした空気感に俺も少し緊張する。
……さすが魔物狩りのベテラン達だ。ファラドが手で合図をするとそれだけですぐに将軍の意を理解して動いていく。
「まだっすか?」
「もう少しお待ち下さい」
セヴァにはこの待機の時間がじれったいんだろうな。腰を低くし片膝をつくセヴァの立っている方の膝がカタカタと貧乏ゆすりをしている。その姿に笑いそうになっていると、セヴァの隣でハティも全く同じ体勢で、立てている膝をカタカタと貧乏ゆすりをしていた。
まったく……。
その時、左側の斜面をすっと流れるようにファラドが降りてくるのが見えた。それにタイミングを合わせるように右側からも兵士たちが集落に向けて降りていく。
「あ、良いっすね! あ、アドリック!」
態度には出していなかったが、アドリックもそうとうじれったかったのだろう、セヴァが兵士に訪ねた瞬間にアドリックは走り出していた。すぐにハティもそれに続く。
「ちょっ! ズルいぞ!」
慌ててセヴァもそれに続く、一緒に待機していた二人の兵士も同じ様に走り出す。
よし、俺も……。
……あ。
俺も一緒に出ようとしたところで、大事なことを思い出す。
リュミエラだ。
こういった襲撃戦の時にリュミエラがどう動くかなんて、今まで話したことなんてなかった。普通にパーティープレイとしてついていけば良いくらいの考えだったが、乱戦の中に飛び込むのって、どうなんだ?
「わ、わたしもっ!」
リュミエラも少し悩んだのだろうが、俺の視線を受けて気丈に言う。実際ここに一人残るのも怖いしな。一応護身用に持っているメイスをぐっと握りしめて俺を見る。そんな姿に俺は思わず笑ってしまう。
「無理はしないでいいよ。後衛の僕らはゆっくり行けば」
「そ、そうですか?」
「うん。何かあれば僕が守るから」
「は、はい!」
こうして、始まる乱戦に俺はゆっくりと二人で近づいて行った。




