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64 魔素の発生源

 次の日の朝にはグレゴリーは王都へと帰っていった。


 使用人の噂によると、父親にも挨拶もせずに出ていこうとしたようだ。昨日あれだけきついことを言っていたが、それでも父親は父親なのだろう、出ていこうとするグレゴリーに馬車を使えと言ったようだ。


 ていうか、そもそも馬車もなかったら、どうやって行くつもりだったのだろう。

 まあ、庶民は徒歩で王都まで行くことなんて普通にあるだろうけどな。指の治療をしたばかりだとちょっときついと思うんだ。


 そんなわけで、ティリーの自宅療養も結局一日で終了する形になる。ちょっとあっけなかったがこれはこれで良いことだから。まあ、良しとする。


 ……。


 ということで、ようやく館の中も落ち着き、俺はゆっくりと調べ物をしていた。

 例の、魔素の発生源についての調べ物をした本だ。


 その中で記された「魔素溜り」は、先日のダンジョンもどきにかなり酷似している。こういった呼び名は場所場所で違ってくるのは当然だ。特にテレビのような広域での共通メディアなどが無い世界だ。

 方言のように、場所場所の言葉というのは必ず出来てくる。現に本の中では、場所によっては「魔泉」と呼ばれていると書いてあった。


 作者はこの世界には魔脈という大地の地下深くに、魔素が滞留し、ゆっくりと流れる地脈があるという仮説を立てていた。

 しかもライフワークのようにこの世界を歩き回って調査したようで、この世界の地図に何本かの魔脈の線を書いた図まで乗っている。


 おそらく発見された魔素溜りや、ダンジョンの配置から想定されるのだと思うのだが、魔脈のラインの一つが、このファルデュラス領を通っている。 


 なんていうか、まるで日本の地震の予測に使われる構造線のようだった。


 本によると、そういった魔素溜りは大抵が、しばらくすると収まっていくようで、地下に魔素が貯まると再び同じ様に魔素が溢れるというような記述をしていた。


 そして、その流れが強く何らかしらの原因でダンジョンになったりする、といった事が書かれている。

 そして、そのダンジョンの作りというのは、かなり恣意的な構造になっており、神や悪魔のような超常的な何らかの意思が働いているのではと考えていた。



 ……魔脈か。面白いな。


 原作の設定を全部覚えているわけじゃないが、多分そんな話は出ていなかったと思う。気になって、窓から外を見るが目に魔力を集めてもそんなのは全くわからない。


 ただ、魔素溜りの報告箇所が、ある程度場所が固定されていることを考えるとありなんだと思う。

 まあ、それがダンジョンとなると、悪魔の意思で出来ると言うより、原作者の意思が働いているとか考えてしまうのは、俺の立場だからこそなんだろうな。

 同じ転生者枠のエリックだって、原作ありきの世界に転生したわけじゃないからな。



 なんだかんだいって一日じっくりと本を読んでしまった。仮説ばかりで、どこまで真実か分からないが、この学者はかなり面白い。


 ……あれ?


 改めて作者の名前を見ると、マフナ・コナとある。俺はこの名前にはなんとなく覚えがあった。書かれたのは五十年近く前だから、原作にこのマフナという学者が出てくるとしたら、結構な年配のはずだ。


 ……違うな。マフナじゃなくカフナだ。


 カフナとは、学院に入学してエリックと知り合う女の子の一人だ。いわゆるオタク系陰キャ研究者肌のメガネっ子キャラ枠を担当しているヒロインの一人だ。

 なんとなく、今の俺とキャラが被っている気がするのがアレだが……。あの属性は嫌いじゃない。


 そう。カフナ・コナ。多分それであっている。確かにおばあちゃんが学者だという説明もあった。その血を継いで、カフナも研究者肌の女性という設定だ。


 なるほど、カフナの祖母になるのか。


 そんな事を考えると、少しうれしくなる。たまたま手に取った本が、あのカフナの祖母が書いた本なんだ。原作のヒロインの一人に繋がる物がこんなところで。


 しかも、このカフナ、そしてマフナは原作では非常に重要な存在となる。

 何巻だったかは忘れたが、カフナの祖母であるマフナ(たぶん)を探し、たどり着くのがエルフの集落という流れ。この本の様に魔脈を追って大陸をくまなく旅して歩いた後にエルフまでたどり着いたのだろう。


 ……この世界を十二分に楽しむには、決して無視できない存在なのだ。


 そして、裏には自筆で「グフタス・プロスパー 様へ」とある。

 グフタス・プロスパーは俺の祖父になる。今は引退をして南の暖かい地方でのんびりと暮らしているはずなのだが。これを見る限り知り合いなのだろうか。


 ということは、この本は父親の物でもないよな。祖父はもう余生を楽しむ立場でこんな寒い土地には帰ってこないだろう。


 ふふふ。これは俺の部屋の木箱の本棚の大事な蔵書にさせてもらおう。


 ……。


 ……。


 兄が居なくなれば、夕食の食堂も気楽に行ける。

 姉は相変わらずペチャクチャと母親となにかに盛り上がっていた。寡黙な父親や俺とは違い、女性陣はパーリーピーポーで、当然俺ともあまり絡みがない。


 そんな事を思っていたのだが。食事時姉が珍しく俺に話しかけてきた。


「ラド。あなた本当にミルヴィナの雫を考えたの?」

「考えたと言うか、スコットと一緒にね」

「スコット? 誰よそれ」

「ああ、剣の先生だよ。元A級冒険者なんだ」

「ええ? そこでなんで冒険者が出てくんの? わけわかんない」

「えっと、それはまあ、色々あってね」

「色々って何よ。……まあ、そんなことより私もミルヴィナの雫飲んでみたいんだけど、もう無いの?」


 なぜ突然ミルヴィナの雫の話をするのかと思っていたが、どうやら姉も飲んでみたかったようだ。


「え、あれは……。もうお父さん達に任せちゃってるからわからないよ」

「えー。何よそれ。王都じゃあっという間に売りきれてほとんどの人が飲めてないのよ?」

「今年はまだお試しに近いからね。来年はもっと量産できると思うよ」

「それもあなたが?」

「そこまでは僕には出来ないよ。それは商会の人がやると思うよ」

「ふうん……」


 そうか、家族の分くらい残しておけばよかったのか。特に今年はまだ量も取れず、噂が噂を呼んで一気に売れてしまったらしい。

 それは良いことだけど。姉にこう言われてしまうとそこまで考えてなかった反省する。


「確か、事務所に少しだけ残っていたと思う。明日にでも届けさせよう」

「え? マジ? やっぱパパ大好きー」


 お、おう……。それはそうか。取り扱ってるのが父親だからな。

 父親はクラリッサにお礼を言われ、少しだけニヤッとしたのを俺は見逃さなかった。


 ……。


 食事も終わり皆がそれぞれ食堂から出ようとしたときだった。

 そっとクラリッサが俺に近づいてくる。そして、小声で囁いて来た。


「それでだけど、あなた色々気をつけなさいよ?」

「へ? 気をつける?」

「きっとグレゴリーはあなたのこと恨んでると思うのよねー」

「ああ……。でももう王都に行っちゃったし。勉強頑張っているんじゃない?」

「勉強? あいつが? ないない。学院でもチョー評判悪いのよ。私だって恥ずかしいくらい」


 クラリッサが恥ずかしいと思う閾値はどのくらいなのだろう……。


「評判? 成績とか?」

「学院外で、色々とね。学院の不良グループってやつ? 他にも色々と悪い人たちと付き合ったりして、グレゴリーに喧嘩を売るとそういう人に突然襲われたりって、あるみたいなのよ」

「え……」


 そう言えば、先日父親にエリックを痛い目に遭わせるとかそんな事を言ってたな。ヤバい奴らって危険な組織とかなのか?


 姉に言われるとちょっと怖さをリアルに感じてしまう。そんな様子を見た姉は笑って言う。


「でも、王都からこんな田舎になにかやるって事は無いわよねー」

「う、うん……」


 そうだよな。流石に兄弟だぜ? そんなヤバいことは無いだろ?


 ……うん。

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