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 父親から渡された金貨を机に置き、俺は計算をしながらお金の使い分けを悩んでいた。もちろん計算機などが無いので、ひたすら筆算をしているのだが……。


 するとノックの音がしてティリーが入ってくる。


「ん? どうした?」


 入ってきたティリーはなんかモジモジとしながら言葉を探している。夕食にもまだ時間は早い。俺はなにかと思い訊ねる。


「あの……。お坊ちゃま」

「なに?」

「わ、私を専属にと……。旦那さまから言われて……」

「ああ、最近ティリー以外にもこの部屋にメイドが出入りするように成ってきたからね。出来れば固定したほうが何かと楽かなって」

「は、はぁ……」

「……あれ? 迷惑だった?」

「その、迷惑という事でも……。でも、お坊ちゃまと私では……。その、年齢が……」


 ん? どうもティリーは困ってるようだ。俺はそんなティリーを見て嫌な予感が頭をよぎる。


 ――慣れてきたと思ってたが、もしかして嫌われていたのか?


 そう考えると一気に心がえぐられる。やばい、よく考えれば俺とティリーは雇い人と、使用人の関係だ。俺のことが嫌でも、嫌な顔をしないというのは確かにプロのやり方だ。

 それを……。勘違いして……。


「ご、ごめん。そっか。嫌だったよね。すぐにパパに無かったことに――」

「申し訳ありません! まだ私……。その、覚悟が出来なくて」

「そんな覚悟なんて、しなくていいから」

「しかし……。流石にお坊ちゃまはハティと同い年で……。まだそんな事知ってるとは思わずに……。ホント」

「……ん? そんな事?」

「は、はい。六歳で、その……。まだ早すぎるのではと……。私も、そのまだ……男性を知らなくて……。あの……。まだ……」


 ……あれ? ティリーは何を言ってるんだ?

 なんだか、ティリーの言ってることがおかしい。というより会話が噛み合ってないことに気がつく。なにか認識の齟齬が生じている。


 というか、父親のあの時の反応を思い出し少しだけ嫌な予感を持つ。


「えっと? 何? その男性とか……」

「え?」

「ティリーいったい何を言ってるの?」

「何をって……。その、まだ私はお妾になるには心の――」

「ぶっ!」


 ティリーの口から確信めいたワードが飛び出す。


「ちょっ。待て!」

「はい?」

「いや、僕が頼んだのはただ、他のメイドより気心がしれたティリーに配膳とかお願いしたいって言っただけだけど。この部屋には知らない人に来てほしくないから」

「……え?」

「お妾って何?」

「あ、あの……」

「えっと嫌?」


 ティリーが何を言いたいのか分かってしまった。ただ、ちょっとこれはない。おそらく、この世界で専属のメイドというと、色々と愛人的なポジションを意味する言葉なのかもしれないと思い至る。


 ……それは父親もああいう顔をするわけだ。


 俺は必死で無垢な少年を演じ、単に自分の専属でメイドやってよと言う流れで話が収束する。


 ティリーも、自分が勘違いしていたのに顔を真赤にして今の話は無かった体で苦笑いで誤魔化していた。俺はそれすらも気が付かないふりで話を流す。


 もうぐったりだった。


 ……。


 少し落ち着き始めた空気の中、俺は話題を変えるべき話を振る。


「えっと、また山に上がろうと思うんだけど……」

「は、はい、準備をいたしますね」

「う、うん……」


 ティリーが部屋から出ていくと、俺は天を仰ぐ。

 なんか、この世界の常識は色々と難しい。


 ……。


 ……。



 次の日、早速厩舎へ向かい、スコットに金を渡す。

 俺が今回のアイデアをスコットに色々相談してもらって進めた、という事で父親からだいぶたんまりと報酬が渡されている。その金額の中には、シロップ生産に関する権利を買い取るような意味合いまで入った金額だ。

 そう、大金だ。


 スコットはそれを見て目をパチクリさせていた。


「少しは貯めておきなよ。年取って動けなくなっても食っていけるようにね」

「……余計なお世話だ。というより俺はそこまでやってねえぞ」

「だって、僕だけであのシロップを思いついたなんていってもパパは信じないでしょ?」

「だから俺を使ったと?」

「そいうこと、これからもスコットには色々お願いしたいからさ、受け取っておいてよ」

「……くっそ。あまり無茶なこと言うなよ?」

「そんな無茶なこと言ったこと無いでしょ?」

「どの口が……」


 それでもスコットはその金をきっちり受け取る。かなりの金額とはいえ、スコットは元々A級冒険者としてやってきている。それなりの収入を得ていたはずだ。

 大金にも慣れているはずだ。


 そのまま俺はスコットと街に向かう。街までの道のりは、父親が馬車で行き来してたりすることもあるし、そこまで雪が積もってるわけではない。

 スコットに乗せてもらい馬で向かう。


 出ていく俺達を見かければハティも当然付いてくる。まだ馬に一人で乗れない俺と違い、ハティは普通に一人馬に乗る。子供用の馬具なんて無いのに平気で馬を乗りこなすハティを若干羨ましく感じる。


 そろそろ俺も馬に乗る練習をしたほうが良いのかもしれないな。


 ……。


 ……。


 冒険者ギルドでは、冒険者に対しての銀行業務も行っている。どういう仕組みか分からないが冒険者証のIDで金の管理も出来ているらしい。キャッシュカードに代わりにもなるようだ。


 冒険者ギルドは二回目だが、前回はかなりバタバタしておりゆっくり見学など出来なかった。

 改めて冒険者ギルドを見れば、その作りは「いかにも」と言った感じで、ライトノベルで描かれるギルド像によく似ている。

 ただ、バーのような施設はない。完全に冒険者業務の受付窓口といった感じだ。


 壁には依頼が貼られる掲示板があり、カウンターには依頼の受諾等をする窓口、銀行業務を受ける窓口がある。

 魔物の素材などの受付は無いかと探したが、そういった物は街の入口辺りに別の棟があるらしい。魔物の死骸など、匂いを発するものなどあり、そういったシステムに成っているようだ。そしてそこで鑑定を受けて、鑑定書をギルドのカウンターに提示することで、依頼の成功を登録できるといった流れだ。


「ねえねえ。冒険者って年齢とかあるの?」

「年齢? ……いや、ねえと思うけどな」

「じゃあさ、僕も登録したいんだけどっ!」

「は? いやいやいや。貴族の御曹司が何を言ってるんだ」

「だって、あのS級冒険者にも貴族は居るじゃないか」

「それはそうだけどよ……」


 冒険者は地元のスラムの子供達も仕事での給金をもらえるようにと、年齢制限は無いという。その代わり、若ければ仕事も制限があり、級が上がるのも難しく、危険な依頼は受けられないというのがあるようだが……。


 せっかくだ。俺も登録したいではないか。


 異世界転生だぞ? ギルドに登録しないラノベなんて殆どないじゃないか。


 俺はもう完全に登録するつもりに成っている。

 エリックだって、登録してるし、アドリックだってそうだ。


「私も登録する!」

「お、ハティもか? 良いじゃん良いじゃん」

「えっと、スコット。どうすればいいの?」


 ノリノリの俺とハティを見て、スコットはため息混じりに俺達をカウンターへと連れて登録をしてくれた。


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