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「これが冒険者証……」
俺はキラキラと光る鉄のプレートをニヤニヤしながら眺めていた。プレートには魔法陣が組み込まれていてそれがICチップの様に個人の識別などが出来るようになっているらしい。
しかも、その作動にも本人の魔力波長に同調させている為、盗んだプレートでお金の引き出しなどが出来ないようになっているという。
とんだファンタジーだ。
その代わり、登録には結構な値段がかかる。
依頼料からの天引きなどのコースもあると言われるが、今は少し手持ちのある俺は、自分とハティの登録料をそのまま一括で支払った。
「あとは、そのプレートを下げるチェーンや、リングなどがありますが……」
プレートの持ち方は人それぞれの様だ。鎧に縫い付ける人もいれば、財布に入れているだけの人もいる。一般的には首からドッグタグの様に下げる人が多いらしく、ギルドにもそれ用の首から下げるためのチェーンや革製の腕輪などが販売されていた。確かにプレート単体じゃすぐになくしそうなため、俺とハティの分のチェーンを買う。
なんか、うまくむしり取られているような気もしないでも無いがしょうがない。
満足した俺が次は鍛冶屋にでも行こうかと振り向くと、ハティがスコットと一緒に必死に依頼の掲示板を眺めていた。
確かに冒険者登録したばかりだ、その気持ちは分かる。俺は苦笑いしながらハティに近づく。
「依頼は読めるのか?」
「何とか……ね」
「受けたいの?」
「うーん……。F級で受けれるのが、あまりない」
この国では冬には極端に依頼は減る。その為冒険者などは少し離れたところにあるダンジョンなどに行ったりすることが多いのだが。
スコットが言うには、街の中での日常的な依頼もある事はあるらしいが、スラムの子供たちがすぐに取ってしまうため、ほとんど残ってはいないという。
「ねえスコット、これってどういう草?」
「ん?」
掲示板を見ていたハティがとある張り紙を指さしてスコットに尋ねる。俺もつられてその依頼を見るが、「雪幻草」という草の採取依頼が出ていた。
「ああ……。なんていうかな。冬に死んだ魔物の死体に寄生する植物がいるんだ」
「冬に死ぬ?」
「ん? 魔物にも寿命はあるだろ? 厳冬期を越えられないのも居るんだ。その魔石から漏れる魔力を求めて寄生するって言われてるがな……」
なんと……。今まで魔物が自然に死ぬなんてことを考えたことは無かった。魔物は狩られたりしない限り減らないくらいに考えていたのだが、それはほとんど動物と同じじゃないか。
そして、その死骸に寄生する植物と言われると、冬虫夏草の様な物なのだろう。ファンタジーっぽい植物に俺は興味を抱く。
「それって、どこらへんに生えているの?」
「どこらへんと言ってもなあ。雪が積もってる山で……。たまたま魔物がそこで死んだりしていないとだな」
「へえ……。じゃあ、樹液の採取場所の近くでもあるかも?」
「まあ、もっと奥に行ったほうが確率は上がると思うけどな」
俺とスコットの話を聞いたハティが、声を上げる。
「ラドまた山に登るんでしょ? だったら私探す!」
「ん? ハティまた来るの?」
「なにそれ。駄目なの?」
「まあ、いいけど……」
「じゃあ行く! スコットも暇そうだもんね」
「は? 俺はそんな暇じゃ――」
「暇そうじゃん!」
「うっ……」
まあ、確かにあの場ではドマーネ達が一生懸命仕事しているしな。スコットは俺の仕事をぼーっと見ながらこっそり持ち込んだ酒を飲んでいるくらいだ。
「うーん。じゃあ、ハティ受けてみなよ」
「うん。やってみる」
雪幻草は割とレアな草のため、それなりに報酬も良い。何かの薬に使われるということで、この時期になると常時依頼が出ているようだ。
採取系は、一応上限は出ているがその依頼を受けるという宣言とかはいらないようだ。そのまま採ってきたら、別棟の買取カウンターで受取票をもらって提出すれば終わるらしい。
一応俺も暇な時にその雪幻草を探してみようかな。
……。
ギルドを出ると今度は鍛冶屋だ。樹液採取用の器具を追加で注文しようというのと、樹液を煮詰めるようにストーブの上に置く五徳が無いかなと思ったのだ。
今の直置きだと、焦げないようにシビアになるんだ。
驚いたのは、その鍛冶屋さんの対応だ
「ありがとうございます。はい。はい。もう、この金具はプロスパー様にしかおろしませんので……」
もうすでに口止めはし終わっているのだ。もみ手でペコペコと頭を下げる鍛冶屋の親父に俺は少し気まずい気分になる。
「あれ、商会から話しありました?」
「ええ……。さすが会長の息子さんですっ!」
「あ、う、うん……」
俺は改めて父親の行動の速さに肝を冷やす。
知らなかったのだが、父親はこの街の鍛冶屋ギルドの会長もしているということだった。ギルドの組合員は割とコントロール出来るのかもしれない。
……。
……。
その後俺達は、小屋に居る三人のために食材などを仕入れて館に戻る。
そして、次の日にまた山に登っていった。今回は父親が用意した商会の職員を一人連れていく。ベッドの数が六個しかなかったので連れて行くことに若干気になったが、毛布は余ってるのでベンチで寝てもらえばなんとかなるだろう。
俺としてはこのシロップ作りを永遠にやるつもりは無い。採取の目途が立てば、商会に事業を引き継いでもらいたいと思ってる。なんたって異世界転生したんだ、いろんなことを見てみたいじゃないか。
「オッツォと申します。ええ、会頭に言われてまいりました」
オッツォはまだ二十代といった若い男だ。父親に任されているのならかなり出来る男なのだろうが……。父親にどう命じられたのか分からないが口数も少なく、少し引きつったような明らかな作り笑いを浮かべる。
……ああ、不信感もってるのか?
父に言われたけど、こんな子供の遊びに付き合わされて雪山を登らされてって感じなんだろうな。
まあ、こういうのはこの仕事を見せるしか解決しないしな……。
……。
山に登ればドマーネ達はちゃんと仕事をしてくれている。
ここ二日ほど気温が上がったことも関係するのか、俺が先日見ていたときより樹液の採取高が伸びていた。
「オッツォさん。これが今回のデータを纏めたノート。来年以降に参考になればと思ってつけているけど」
「ノート、ですか? ちょっと見せてもらってよろしいですか?」
「うん。どうぞ」
オッツォは小屋に入った時から部屋の中に置かれた樹液を不思議そうに眺めていたが、俺がノートを渡すと「なんだ?」といった反応でそれを受け取る。
オッツォは受け取ったノートを見ると、ピクピクと眉が動く。そして、オッツォが数度ノートと俺に視線を行き来させ、その後は食い入るようにノートを見つめていた。
ま、大丈夫そうだ。
「ドマーネ。煮詰めたシロップを少し貰って良い?」
「あいよ。こんなもんでどうだ? もう少し濃い目に煮詰めたのもあるけど、あまり攻めると焦げそうで怖くてよ」
「どうだろう……」
俺はドマーネから預かった瓶にスプーンを入れ、小さなカップに出来たシロップを移す。
「オッツォさん、これが出来たシロップなんだ」
「あ、はい……」
シロップを口にしたオッツォは更に目を丸くする。
「これを……。ラドクリフ様が?」
「うーん。まあ僕とスコットでね」
まあ、あくまでも俺だけじゃなくスコットと二人でというのを出す。しかしスコットは呆れたように口を挟む。
「ほとんどお前だろ?」
「えっと……」
それを聞いて、オッツォは明らかに信じられないと言った顔をするが、もうその目は山を登っている時の目とは違った。
――信頼して貰えたようだ。
その後オッツォの態度が明らかに変る。完全にビジネスマンとして雰囲気がキリッとなる。俺はそんなオッツォの変化に満足し、きっちりと樹液採取からシロップへの煮詰める過程を説明した。
こういったビジネスは立ち上げが非常に楽しい。
ある程度形になったら、後は商会の人たちに受け渡してビジネスとして継続してもらうのが楽だ。きっと父親も俺の白樺シロップがビジネスとして行けると判断したのだろう、派遣してきたオッツォもおそらく切れ者だ。
今年の採取がある程度一段落したら、もう俺は手を引いていいかな。なんて考えていた。




