第46話 プレゼンテーション
「それで、なぜおまえがこれを思いついた?」
そう、問題はそこだ。当然回答は考えて来ていたが、間違う訳にはいかない。
「本で。ミルヴィナの話を見て、その。同じような木が無いかって思ったんだ」
「思ったからといってすぐに出来る物でもないだろう」
「だ、だから色々調べたんだ。樹の樹液には虫とかが集まるでしょ? 木の樹液って甘いんだと思って。それから……。スコットはほら元冒険者だから色々知ってるんだ。春の山で飲み水の集め方に、こういう雪解けの時期だけ樹に穴を開けると飲み水を得られる時期があるとか……」
「……それでこれを?」
「う、うん。煮詰めれば甘いのが濃くなるかなって思って……」
「ふむ……」
一応は納得しているのか? 俺は考え込む父親をじっと観察する。それでもまだ疑問に思う事があるのか質問は続く。
「なぜ、ここまでしようと思った?」
「え? ……えっと、砂糖を作ってるのが僕と同じ年齢の子だって言ってたし……」
「負けたくないと?」
「それもあったけど……。たぶんそいつ、僕が王都の学校に行くようになったら、たぶん同じ学年になるんじゃないかって」
「ん? ……まあ、そうだな」
「その時、そんなすごい奴だったら友達になりたくて……」
俺の「友達」という言葉に父親がピクっと反応する。やはり少し強引な事を始めているのだろう。
腕を組み考え込む。
「そうか、友達になる機会もあるのか……」
父親は根っからの商売人だ。将来、息子が作るコネクション的な事なども頭の中で計算しまくっているのだろう。俺はじっと父親の結論が出るのを待つ。
やがて、俺にシロップの採取についての質問をし始める。
「それでは、今年はデータを取る事を主眼においてると」
「うん。春先に樹液が一杯上がってくる時期があるっていう話なんだけど、実際どのくらいの気温の時に採れる量が多いとか、そういうの分かったほうが良いかなって」
「ふむ……。ん? 気温?」
「あ……」
「もしかして、おまえ……」
げ。忘れてた……。
「あの、データー取るのにどうしても必要でっ」
「……まあいい。採れるのは春先だけなのか?」
「そ、そうみたい、新芽を作る時期に一杯水分を吸い上げるみたいで」
お? ちょっと怒られると思ったがあまり気にしていないようだ。むしろ父親は、そのシロップの採取についての情報の方を知りたがる。
おれは、なるべく丁寧に今の状況などを説明する。
「その器具はお前が?」
「えっと、スコットと二人で……」
「金はどうした?」
「えーと……。去年リュミエラを助けたときの謝礼とか、あとスコットに借りたり……」
「ふう……。自分の雇ってる教師に借りるなんて。とりあえず必要な額を出せ。今山で雇ってるのも冒険者なんだろ?」
「う、うん……」
「今年の分をもう少し増やせるのなら人員をよこすが……」
さすが商人だ。父親は決めるとテキパキと必要な部分を出していく。特に樹液を採取する金具に関しては結構細かく依頼した鍛冶屋等を聞いてくる。
その技術に関しての口止め等をしないといけないと考えているのかもしれない。
食事が終わり、話もある程度付いた頃、父親が立ち上がりながら俺に一言告げる。
「そろそろ七歳の肖像画を描かせないといけないが……。樹液採集が終わってからにしたほうが良いか?」
「え? あ、ああ。そうだね。一応一ヶ月もかからないと思うけど……」
「わかった、そのくらいに手配をしておく」
それだけを言うと自分の書斎へと消えていった。
あ、なるほど。あの絵を……。
俺は暖炉の上に飾られている六枚の肖像画を思い出す。その風習はよくわからないが父親が必要だと思うのなら逆らうこともない。
それにしても、春も終わりに成ればいよいよ俺がこの世界に来て一年が経つのかと、改めて感じていた。
……。
父親の性格を考えれば、こういう事は速いほど良い。
早速その日の食後から今回の樹液採集に掛かった明細を作り始める。一応日記にそこら辺の値段のメモはしてあるので、それを眺めながら作る。
明細はスコットやドマーネ達三人に払う給金や、採取量を増量する場合の金具の増産等を考慮した予想される金額なども別に用意する。
一応、リュミエラの件で、ドマーネ達に賞金首の権利を全部譲ったとか、それで安く動いてもらって、そういう部分で本を売ったお金の所を分からないようにごまかす。
……バレたら怒られるかもしれないが、なんとなく父親はこの六歳の俺の采配に不満を感じていないらしく、ちょっと不透明な部分も見逃してくれてる気はしている。
次の日、朝食を食べている父親に早速それを見せる。
昨日の今日にここまで纏めたことに驚いていたが、もう今さらだ。満足気に明細に目を通すと、俺に何か欲しいものがあるか? と聞く。
「え? たぶんそのお金があれば今年は大丈夫だと思うけど……」
「そうじゃない。なんだ、その褒美的な物だ。なんでも言え」
俺はこれには驚いた。今まで父親が俺にそんな事を聞いたことはラドクリフ少年の記憶と合わせても一度もない。
厳密にはリュミエラの件で、気を良くした父親が杖を用意するか? と聞いたくらいだ。その時は俺はサーベロの杖を貰っていいかと返事をしたくらいだし。
今回は俺も少し思うことがある。
何度も言うようだが、リュミエラ救出は本当に色々と環境を変える事件だったんだ。アレ以来、家の使用人の態度も大分普通になってきたし。そのため、ティリーが他の仕事をしているときには他のメイドも俺の部屋に食事を運んだりするようになった。
……うん。もう俺にはティリーだけで良いというのが正直なところだった。
「あのさ。ティリーいるじゃん?」
「……ああ、馬番の娘か?」
「う、うん。ティリーを僕の専属とかに出来ない?」
「専属だと?」
「……だめ?」
俺のお願いが、かなり意外だったのだろうか。父親は少し驚いたような顔をして、それからニヤリと笑う。
「ふっ。良いだろう」
「あ、ありがとう」
「失魔症からだったか、妙に大人びたと感じていたが……。そうか、そっちまでな」
「……え?」
「一応専属の話はティリーに聞いておく。だが無理矢理はやめておけ。順をふむんだ。女性の扱いは、丁寧にだぞ?」
「……は?」
「ふふふ。ティリーの父親は先代から家にいるんだ……。あまり無理強いは出来ないのはわかるな?」
「む、無理には……うん」
「そうだな。確か書庫にそういう本もあったからな。探してみろ。だがあまり背伸びはするなよ」
「えっと……」
何やら父親はニヤニヤと笑いながら立ち上がり仕事へと向かう。
俺は明らかに誤解があるのを感じながら、それを指摘できずに固まってしまっていた。それには父親が今まで見せたこともない反応への驚きもあったが……。
それ以上に。
……そういう本。売ってしまってたわ。
売った本が、父親が目を通していた本だと知り、お金が出来たら買い戻さないとまずいかもと、内心ビビっていた。
そして、父親の動きは相変わらず早い。
その日のうちに俺宛に金貨の入った革袋が父親から届いた。
ありがとうございます。
すいません。あまりにも反応なくてアップ忘れてましたw




