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第45話 樹液採取 3

 気温の関係なのか、二日目は初日より更に多くの樹液が採取できた。そんな事もすべてノートにメモしながら今後の事業のデータとして集める。

 地道ながらやってるとなかなか楽しい。


 樹液は一応一本につき、二日間集めることにしておく。樹液の出も穴を開けた日のほうが多い気がするため、だいたいそのくらいのペースでやる。そして金具を抜いた穴には穴と同じくらいの木の枝を突っ込んで封をしておく。


 そこら辺はやりながら行き当たりばったりに決めていく。

 その中で少し不安なのが、この樹液が集まるスピードが予想以上だということだった。もしかしたら用意した樽もいっぱいになってしまうかもしれない。そう考え、煮詰めてシロップにする作業も、当初は予定になかったがドマーネに教えていく。


「瓶も煮るってどういう事だ?」

「雑菌が入るとカビたりしちゃうからね、お湯で煮て殺菌した瓶に煮詰めたシロップをいれるの。そうすると傷みにくいから」

「んんん……。殺菌?」

「えっと。まあ長持ちするように。かな」


 俺が普通だと思う感覚も、微妙に擦り合わない部分もあるが、分からなくともちゃんと作業さえしてもらえれば問題ない。

 それを責任持ってやってくれる人間だと信頼できるのが彼ら三人だ。……たぶん。


 ……。


 それにしてもアレだけ集めた樹液も、煮詰めるとかなり量が少なくなってしまう。この量の格差もちょっと予想以上で悩ましいところだ。商売としてやるにはもっと多くの樹液を集めないといけないということだ。

 父親を説得できたら、もう少し規模も大きくしないといかんだろう。




 二日後、後の作業はドマーネ達に託して、俺はスコットやハティの三人で山を降りる。手にはしっかりとシロップを持ってだ。



 夕方、ようやく帰宅した俺はティリーを呼び出す。


「今日はパパはいる?」

「はい、今日はいらっしゃられます」

「よしっ」

「……? もしかしてそのままの格好で?」

「ん? 何か?」

「すぐにお風呂に入って下さい」

「えっと?」

「準備できましたらお呼びしますので」

「お、おう……」


 ティリーは文句を言わせない圧で、風呂の準備に向かう。まあ、確かに四日も風呂に入って無ければしょうがないだろう。しかも今日は大事なプレゼンをしなければならない。身なりを整えるのも大事だろう。


 ちょっと緊張してきた。あの父親をどこまで動かせるか。

 それで色々と俺の明るい未来像も曇ったりしてしまう。


 ……。


 ……。


「こんな時期に魔物でも狩りに行ってたのか?」


 ここ四日程外出していたんだ。リュミエラの事件から少し自由度が高くなったとはいえ、気にはしていたんだろう。夕食に俺が顔を出したのを見て父親が話しかけてくる。


「んと……。ちょっとパパに話があって」

「話?」

「う、うん……」

「なんだ?」

「えっと……。その。バッチャル地方の……砂糖ってどうなってるかなって」

「……お前がそんな事考えなくて良い」

「え……」


 俺が砂糖の話に触れた瞬間、父親は不機嫌そうに話を切ろうとする。


 くっそ。失敗したか。話のきっかけとしてそこから入るのが良いと思ったのだが、すでに予想以上にエリック達にやられているのかもしれない。


 でも、だからといって引き下がるわけにはいかない。


「そ、そいつって僕と同じ年何でしょ? だから……。ぼ、僕も……。そいつに負けないようにって、砂糖を作ろうって思って……」

「……何?」


 不機嫌を継続させながら父親は俺の方を見る。なんか天才少年と呼ばれたエリックに思いっきり嫉妬をしている少年っぽい感じが出てしまった。

 ただ、それが良かったのか父親は少し話を聞く雰囲気を出す。


「どういう事だ?」

「こ、これなんだけど……」


 俺は用意しておいたシロップの瓶を机の上に置く。父親はそれを訝しげに見つめる。その視線の中、俺は瓶の蓋を開け、スプーンで小皿にとって父親に差し出す。


「……何だこれは。砂糖ではないじゃないか」

「そ、そうなんだけど。味見をしてみてよ」


 そう言いながらもう一つ小皿にとって母親の前にも出す。

 確かに、エリックが作り出したのは砂糖だ。国が他国から輸入しているサトウキビとは原料が違うが間違いなくどちらも砂糖であり、シロップではない。

 砂糖を作ると言いながら、眼の前に出した品物はシロップ。気に入らないのだろう。父親は手に取ろうともしない。


 ……くっそ。頑固親父め……。


 どうやって口にさせようかと思った時だった。何も考えずに口をつけた母親が驚きの声を上げる。


「あら。まあ……。とっても美味しい!」

「む?」


 母親の反応を見て、父親が少し躊躇しながら小皿を取る。俺はそれをじっと見つめていた。


「ふむ……。確かに甘い」

「で、でしょ? コクもあるし、砂糖に負けてないと思うんだ」

「だが、売り物として砂糖には敵うとでも?」

「えっと……」


 いや、当然だ。日本だってメイプルシロップは十分な人気の商品ではあったが、砂糖にはとてもじゃないがシェアで敵わない。

 ただ、糖分がフルーツなどしか一般的でないこの世界でこのシロップの糖度は十分に勝負になると考えている。


 そして、もう一つ俺には作戦があった。


「パパ。ミルヴィナの雫って知ってる?」

「ミルヴィナ? ……エルフに伝わる神樹の雫だったか?」

「そう。僕が考えたのはそれなんだ。これも樹の樹液を集めて煮詰めた物なんだ」

「なに? これは樹液、なのか?」


 俺の言葉に父親が驚いた顔をする。もしかしたらどこかから手に入れた砂糖とか、マジックポーション等を加工して俺がさもシロップを作ったように見せているのだと、考えていたのかもしれない。


 ま、当然六歳の息子が突然砂糖を作ろうとして、このシロップを作り出したなんて言われたら普通はなにかの冗談だと思うだろう。



「僕達はアルカでしょ? アルカの僕達が売るなら絶対に砂糖より、この樹液を煮詰めたシロップのほうが商品価値は強くなると思うんだよ」

「……それで?」


 よし。予想通り父親は俺の話に耳を傾き始める。『ミルヴィナの雫』というのもアルカである俺達には十分にキラーワードとなる。それを狙った作戦だった。


 ◇◇◇


 ミルヴィナの雫は、古いエルフの伝説に出てくる逸話の一つだ。エルフの国に行った人間の王が、エルフからミルヴィナという神樹から採取したという液体を振る舞われる。

 その液体は、今まで王が口にしたことのない芳醇な香りと甘さを持った不思議な雫だった。エルフは、その雫を口にした人間は、寿命を十年伸ばすことが出来ると伝える。

 王は、滞在中に、一日一杯のミルヴィナの雫を飲み、10日間の滞在で、寿命を百年伸ばすことが出来た。という、ほぼ神話のような話だ。


 ◇◇◇


 それになぞらえ、この白樺のシロップを『ミルヴィナの雫』として売り出すというのが俺の狙いだ。


 庶民向けにはならないが、アルカを名乗る貴族たちには間違いなく売れると考える。


 エリックは一般人にも砂糖を手に入れられるようにと、値段も極力抑えて売っていた。一方、この白樺シロップは、エルフの伝説に絡めて付加価値をつけた値段で売る。


 それにエリックが個人の商売として砂糖生産をやっている以上、提供できる供給量には限界がある。その隙間を埋めるにはいい選択肢だと考えている。


 これならエリックの商売の邪魔にもならないし。父親が強引にエリックの商売を邪魔しないように誘導できるかもしれない。


 父親は俺のプレゼンに耳を傾け始めている。

 ここからが俺の腕の見せ所だった。

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― 新着の感想 ―
この6歳頭いいよな俺の幼児時代とはえらい違い 6歳「商品価値!」だもんな たまげるで 天才かよ
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