俺は会長?
リュウが飴の入った鍋をかき混ぜリンシャが火加減を調節している。
「どうしたんだいリュウ?今日はやけにがんばってるじゃないか。」
「お鍋をかき混ぜるのも一生懸命やれば剣の修行になるってお城の騎士様に言われたんだって。」
「修行して強くなるのかい。」
「そうだよ、強くなるんだ。強くなれば戦わなくていいから。」
「ほぅ、どういう意味だい?」
「分からないけど父さんがそういってた。」
「へぇ、そうなのかい。」
「ばぁちゃんわかる?」
リュウの父親ゴルドバーグは戦のない世界を創ろうとして力を求めた。
その理念には一点の曇りも無かった。
戦わないで済む力ねぇ、おれとゴルドバーグがその目的で組めばあの国はそこそこ豊かで平和な国になっていたはずだが、ゴルドバーグは他国を吸収して更に強くなろうとし、俺は俺であのあと、理念も何も無くこの世界に無かった最低の力を振るってしまった。
ピシッ!
「おあずけ!」
オストラントの八百屋の店先で通りかかったマイアのお尻を触ってお預けを食らった。
「あんた達仲がいいねぇ、そこの豆一袋とイモを二篭もらおうかしら。ところで子供はまだなの?」
「いやぁ毎晩がんばっているんですがこれがなかなか。」
なじみ客のおばさんにそう問いかけられて頭を掻く俺と赤くなるマイア。
「そっちの子供じゃないよチュータノモシ会よ。」
「あぁあれですか。」
おれは店の壁に貼られたこのおばさんから買わされたお札を見た。
「まだ本部にも行ってないんですよ、店が忙しくって。」
「早く行って子作りがんばっとくれよ、もうかるんだからね。」
怪しいことを言っておばさんは上機嫌で帰っていった。
他の子会員ががんばっているらしく、一人くらいできの悪いのが混じっていてもまぁいいだろうということらしい。
チュータノモシ会の子札を親から銅貨1枚で買うと本部で更に1枚払って会員になり、子札を5枚もらうことが出来る。
子札が全部売れると銅貨3枚の利益になる。
ここでよく考えて止めておけばまだ救いがあるのだが・・
子札をもらうときに更に銅貨2枚払うと、親札がもらえ、子が次に親札を買うときに半分の銅貨を1枚本部から受け取ることが出来る。ここで子が5人勧誘できたら親札1枚あたり銅貨が3枚の利益になる。
更に孫から受け取るには更に銅貨を追加して・・・
ねずみ講とか無限連鎖講と呼ばれるれっきとした犯罪である。
俺はこの世界にその悪魔を持ち込んだ。
”子が増えれば必ず儲かる”
うそがつけない念話でこう語られればこの世界の住人はすぐ信じてしまう。
増えれば、の前提がいかに脆いかも知ら無いでね。
銅会員以外に銀会員、金会員も出来て更に国境を越えて同盟諸国に広がり・・
膨張の限界に達した。
人口以上に広がるわけが無いじゃないか。
うぶな人々はそれに気が付かなかった。
会のトップにオストラントの欲の皮の突っ張った王族が付き人々の投資額は信用によって跳ね上がるが、半年ほどしたある日限界を迎える。
オストラント王の戴冠何周年かの記念日、祝賀の広場の中心で一人の男が焼身自殺した。
チュータノモシ会にのめりこみ借金してまで会費を払って回収できなくなり・・
「チュータノモシ会にだまされた!」
最期に男が放った叫びが心に冷や水をかけて、人々が冷静に思考を始めたときにはもう手の施しようも無かった。
「うちもねぇ、子会員がひとりもいないんですわ。いやぁ大損しました。」
俺の店の壁には親札が一枚。
銅貨わずか2枚の大損害である。
この会のいやらしいところは親札に追加されるのは子、孫と続く会員の名だけであるということだ。
いくら追加で支払いしているのかは本部の帳簿に記載されているだけで、それも夜逃げしたとあっては誰にもわからない。
オストラントでしっかり根を張っていた俺と部下達は被害者面で人々の不満をあおりたて、暴動の起きたオストラントは帝国第七軍の海からの急襲を受けほとんど抵抗することも出来ず、同盟国の救援も無いなか僅か3日で落城した。
金貨のいっぱいつまった船の上で帝国の旗が翻るオストラント城を見ながら俺はマイアを抱き寄せた。
ほとんど損害を受けず、富を強奪しながら一国をおとした。
その絶頂感に酔いしれ傲慢ゆえに俺は抱き寄せたマイアの心の冷たさをあえて無視し、とんでもない勘違いをしてしまっていた。
マイアは姫が俺に放ったスパイ兼処刑人だと思っていたんだ。
愛なぞ無くても俺が戦果を上げるうちはマイアは俺のものであり続けるだろう。
失敗すれば殺されてやるさ。
なんと、なんと傲慢なことであっただろうか。




