俺は悪魔?
リンシャやリュウに俺は倫理を説く資格があるのか。
俺はないと断言できるが、それでも俺は二人に伝えなければならない。
この異世界にとって帝国時代のおれは、異世界から来た悪魔そのものだった。
なんの力もないくせに、なんの信念もなかったくせに・・
人を殺すことは悪だ。
日本人の最重点禁止事項である。
この実際に戦争を行っている世界において、味方も敵も人的被害を最小限にとどめること、それが最善のことだと信じていた。
帝国が全てを支配すれば戦は無くなりアイシャのような難民は無くなるだろう。
俺はそう信じていた。
殺すことに比べれば、そのほかのことなんて。
俺立ちの船はオストラントの陥落の報が諸国に届く前に、湾岸同盟のある広大な湾の出口にあるダルレーンの近くに着き何も無い小さな入り江に停泊した。
長大なリアス式海岸線の端にあるダルレーンは外海への出口という交易の要衝にありながら人が住めるのは入り江に僅かな土地があるだけである。
ただし急峻な崖で守られた入り江は天然の良港で湾岸同盟諸国の艦船の基地になっていて造船所や補給所がある。
俺と部下3名は夜に海流に乗って小船でダルレーンの港に入り、あらかじめ潜入させてあった部下ライルの用意したアジトに隠れた。
この部下は俺が渡した投石器などの兵器の図面をダルレーンに持ち込みここを要塞化に成功していた。
ここは帝国軍が攻めてきても絶対に陥落しない。
その功によってライルはよそ者でありながら領主達の信用を得た。
「あの小船、昨日まではなかったが何であんなところにいるんだ?じゃまじゃないか、」
「係留してあったのがロープでも切れて流されているんじゃないのか?このままだとラルーの船にぶちあたるぞ。」
ラルーは湾の一番奥の大国でダーラン救援に兵士を乗せて来た船が何隻も停泊している。
「この辺で見ない形の船だな、おっ、ラルーの艦から何人か小船に飛び降りたぞ。」
俺もすっかり野次馬に溶け込んでこの騒ぎを見ていた。
「おぉぅ~」
群集からどよめきが上がる。
小船から一人兵士がジャンプして元の艦に戻ったのだ。
垂直方向に6メートル水平方向に15メートル、身体強化魔法か風魔法を使えるものならたやすくやってみせる芸当でありそのことでみんなが驚いたのではない。
兵士の跳躍の頂点で艦のほうから炎の魔法が打ち出され兵士を火達磨にしたのだ。
兵士は炎に包まれたまま艦に乗り込むが舷側から海へ投げ落とされた。
そして艦は錨を巻き上げることもせず鎖を断ち切り、オールを出して出港していく。
それに他に繋留されていたラルー艦も続く。
「なにがあったんだ?」
人々は戸惑いざわめく。
「お前ラルー艦の乗員だよな。念話もできたよな。なにがあった?」
問いかけた兵士の相手にみんなが注目する。
「念話が切られた。艦と連絡が取れない」
精神を集中していた兵士の呟きに静まり返っていた場のざわめきが大きくなって戻った。
「とにかく、船に戻ろう。」
軍艦などというものは住みづらいものだ。
それでほとんどの船はラルーをふくめ、乗員の半数を休暇を兼ねて陸に上げている。
ラルー艦は陸に上がった乗員に待機命令を出したまま出港して行った。
更に事態は深刻化する。
ラルーと仲の良かったルシアと最大の艦隊戦力を誇るスパルニアスも黙って出港し、人々の不安は更につのっていく。
「あいつら、帝国に寝返ったんじゃないだろうか?」
「馬鹿な、乗員を半数置いているんだぞ。」
「ここは外からは難攻不落だが・・・な・・・」
「馬鹿な・・・いゃ、司令部に相談してみる。」
「テミスの陸戦隊が三国の乗員を拘束したらしいぞ。」
「いくらテミスがここの治安担当だといってもやりすぎだろう。」
「名目は拘束じゃなくて保護だ。ラルーの乗員も抵抗しなかったらしいぞ。」
「それは良かった、こんなときに仲間割れって目も当てられないからな。」
「おぃ、沖に出たブロワースの商船が三国の艦隊に拘束されたらしいぞ。」
「あいつらまだ沖に居たのか、それでブロワースの船はどうなった。」
「三国の艦隊が居るってっ連絡してきたきりだってさ。」
「それもしかして、沈められたんじゃないのか?」
「まさか・・」
そして事態は急展開する。
「何があった?」
「通関士のヨハンが死んだらしい。」
「それでどうしてテミス兵が出張るんだ?」
そして野次馬の取り巻く中、真っ赤な炎が上がる。
「キャーーーーーーー!!」




