75.
あの後。体調が悪くないのであれば夜風にあたりにいかないかとクラウスに誘われ、私は彼の手を取った。
「……ありがとう、な」
「え?」
「暴走しかけてた俺とサミュエルを止めてくれただろう。それに、ブレメンスの兵士たちも、ソフィアのおかげで誰も死なずに済んだんだ。……別に殺してやろうと思っていたわけじゃない。俺はーー」
なるほど、と納得する。クラウスは親しくなってからは相変わらず丁寧で律儀だ。
そもそもクラウスがあんな精神状態になってしまっていたのは私のせいだ。だからこそ止めて当然だと思っていたのだが、彼はそうは思っていない。自分自身が全て悪いと責めてしまっている。それは少し気に食わなかった。
「私、クラウスのことが好き」
「え……あ、はあ!?」
「もう!あの時も言ったでしょう!!私の一世一代の告白、忘れたっていうの?」
「忘れてない!断じて忘れてなんていないが……その、それは、友人として、か?」
「失礼ね!当然異性として、よ!だからこそ、私のためにっていう理由で人を殺させたくなかった。そのために、私にしては珍しく、先のことを顧みずに全員治したの。残りの魔力がからっからになるくらいに」
「夢、じゃないよな?」
人の本気の告白を夢扱いしようとしているクラウスの頬を軽く抓る。
そうすると『いって!……夢じゃない』と言いながらも彼は微笑んだ。夢であってたまるかと私も思っているのだ。肝心の彼に夢だなんて勘違いされたらたまらない。
「とにかく!私が好きになった人は、理由もなく他国の人間を傷つけたり、皆殺しにしようとするような人じゃないわ。わかってるから、自分を責めないで。結局誰も死んでなんていないんだから」
「っあり、がとう」
「え、泣いてる!?」
「泣いてない!!」
礼を言うと同時に私を抱きしめてくるクラウスの声は涙声だった。その珍しい泣き顔を拝んでやろうと、身体を離すために力を入れるがびくともしない。頭をグッと彼の肩に押し付けられているのだ。戦闘中よりも筋肉を使っているはずなのに、自分の首周りがプルプルと震えるだけで、おでこはクラウスの体温を吸い続けている。
「見るな!」
「やだ!見たい!!好きな人の泣き顔は見てみたいじゃない?」
「っ!好きだからって言われたってなんでも許すわけじゃない」
「私、クラウスのために命を懸けたのにな。それに感情さえも全て開示して……。クラウスは私に何も見せてくれないのね。悲しいわ」
「おま、え!それはずるいぞ」
私の言葉に動揺したのだろう、クラウスの腕の力が緩んだところで、私は顔を上げた。
そこにあったのは、目元を赤く腫らしながらも、それを拭って恥ずかしそうな顔をする愛おしい人の姿。
「全く、相変わらず強情で意地の悪い女だ」
「でも、そんな女のことが?クラウスはー?すー?」
「ああ!好きだよ!!誰よりも愛してるよ!!!悪いか!?」
やけくそになって、大きな声で愛を発するクラウス。
自分より大きな身体を持った男なのに、その言葉が嬉しく、頬を赤らめる姿が可愛いと思ってしまうのは、もう末期の症状なのだろう。
魔法でも治せない不治の病。実の母がその病に罹っている姿を見てから、私がずっと拒否していたはずのもの。
初めてのその感情は、私に暖かい仲間と優しい恋人、そして安心して帰ってこられる場所を与えてくれた。
X(旧Twitter)に小話載せてます。
今回はサミュエルとハルトリッヒの裏での話です。




