65.
出発はあの3人の争いから1週間後。
移動するための魔導車やら、衣食住の準備やらをしていたら4人分ということでかなりかかってしまった。まあ、私はそっちの準備は殆どしていないが。クラウスが一人で文句を言いながら苦労していたのを見ていただけだ。
しかし私の荷物は小さいが口の部分が大きいバッグのみ。しかしバッグにしっかりと仕掛けをした。内部の空間を拡張する魔法だ。
以前から構想はあったが、魔法式が細かすぎて中々実現には至らなかったもの。それを1週間ほぼ寝ずに作業をすることで創り上げた。
「じゃ、いっちょ帰省といくか!」
「久しぶりだなー、ブレメンス」
「初めて行くのは俺だけか。あまり聞いたことはないが……そういえば、どんな国なんだ?」
「魔法を使える人間にとっての地獄」
各々ブレメンスに対して述べている中、クラウスだけは何も知らないようだった。
だから行ったことがあるサミュエルに向けた問い。それに私のブレメンスに対する意見をそのまま述べておいた。
魔法使いが労働をしたとしても報酬をほぼ与えずに、飼い殺しにするような国だ。国民の生活水準は一部の魔法使いのおかげで悪くはなかったはずだが、私たちにとっては地獄だった。
「俺は文化や環境、産業、規模なんかを聞きたかったのだが。お前のような優れた魔法使いが産まれた国だからな」
「魔法はほとんど発達していないわ。そもそも魔道具もないしこれで興味が失せたんじゃない?」
「……否定はできないな」
「クラウスは魔道具バカだからね。仕方ないよ」
クラウスと魔道具の話で盛り上がってしまう私もそれは含まれてしまうのだろうか。
サミュエルの言葉に少し引っ掛かるものを感じながら、バカと言われてサミュエルに文句を言うクラウスとそれを揶揄う姿勢をとるサミュエルのやり取りを見つめる。
結局巻き込んでしまった。ハルトリッヒは私を殺そうとした前科があるから、巻き込んでもそこまで罪悪感はないが、サミュエルもクラウスも本来であれば私の事情には関係のない人間だ。
「まだ僕らを巻き込んだーって悩んでるの?」
「俺らが勝手に巻き込まれに行ったんだから気にするな……って言ってもお前は気にするんだろうな」
私が完全に黙ったことに気付いたのだろう。サミュエルとクラウスがこちらに近付いてくる。相変わらず二人とも私のことをよく見ている。
「じゃあ、帰ってきたらデートで旅行に行くっていうのはどう?フィオレントの東側に有名な温泉があるんだ」
「ガルレアの温泉か。俺も行く。あそこは食べ物も美味しいしな」
「……クラウスは来なくていいんだけど」
「死亡フラグ立ててんじゃねーよ。バカども」
「じゃあ君は来ないんだね、ハルトリッヒ。邪魔者が一人減ってラッキーだ」
「やっぱ行くわ。なんかこいつムカつく」
ハルトリッヒの言葉にサミュエルが肩を落として、クラウスとハルトリッヒが忍び笑いを漏らしていた。
全員一緒に置いていくと言ったせいだろうか。
なんだか以前よりは3人の間に流れる空気がマシなものになっているような気がした。1週間前に気になった懸念については少しは安心できそうだ。
「おっ!魔導車来たな」
「……格好いいな、これ。動物が先頭についてないなんて、動物にも優しい」
魔導車に乗るのは初めてらしいハルトリッヒが目を輝かせる。
なんだかんだ言いながら、ハルトリッヒは純粋な男だった。この後、魔導車の中で誰が隣に座るかで一悶着があるということをまだ知らない私は、少しだけこの自由への旅が楽しくなりながら魔導車に乗り込んだのだった。




