66.
「本当に!魔導車が壊れるかと思ったのよ!!」
「……すまん。サミュエルに煽られて、思わず我を失った」
「アイツが全部悪い。俺は悪くないから謝らねえ」
確かにサミュエルは悪かったし、現在も罰を与えているからこの場にはいない。だが、この2人の喧嘩っ早さもどうかと思う。
事の経緯は、この魔導車に乗った直後の事だ。この魔導車は移動速度と効率を重視したようで、寝台部屋シャワー室、食事兼休憩部屋のみがついている自動運転車だ。魔力を吸収する腕輪を乗車している人間のうちの誰かの腕に付け、そこから吸収することで寝ている間も移動し続けてくれる。走り続ければ3日ほどでブレメンスだ。
まだ眠る時間ではないということで、最初は休憩部屋の方に全員で乗り込んだのだ。そして備え付けてあったソファーに座ろうとした時に争いが起きた。
ソファーは2人掛けであり、机を挟んでもう一個2人掛けのものがあるという配置だった。
特に何も言うことなく、私の隣に腰を下ろしたハルトリッヒ。そこにサミュエルが絡んだのだ。『ソフィアの隣は僕だから、どいてくれ』と。曰く、自身が3人の中では一番魔力探知に優れているから、守れるのは自分だということらしい。正直まだ暫くはフィオレント国内だし、危険はそこまでない。もし何かあっても、私であれば避けることは出来る。だからただ単に隣に来たいだけだろう。
そんなサミュエルをハルトリッヒは『めんどうくさい』で一蹴し、無理矢理退かそうとしたサミュエルとそれに対抗するハルトリッヒの争いが始まった。そしてそれを止めようとしたクラウスが今度は『じゃあ、クラウスとハルトリッヒが隣同士に座ればいい。クラウスは別にソフィアの隣に座りたくなんてないみたいだしね』というサミュエルの言葉に反抗して、争いが大きくなったことで今に至る。
諸悪の根源であるサミュエルは、現在魔導車の外側――魔導車の魔力を吸収する腕輪を付けた上で天井に縛り付けてある。怒ったハルトリッヒとクラウスがそれをした。少しやりすぎかとは思ったが、まあ静かになったので私は何も言わなかった。時折くぐもった叫び声が聞こえてくるが、問題ないだろう。きっと反省してくれるはずだ。
「とりあえず、サミュエルを外に出しておけば盗賊や魔物の襲撃はないでしょう。今後は外への警戒は交代制でやるとして……少ししたらサミュエルを魔導車の中に戻しておいてね」
それだけ言って寝台の方へ移動した。
寝っ転がりながら、ブレメンスの王都の地図を開く。もしもの辞退の時の避難経路の確保や、戦う時の陣形を考えておきたかったからだ。
一応はサミュエルやクラウスと言ったフィオレントで立場がある人間がこちらにはいる。だから、平和的に済ませられるように二人の方から書状は既に出されており、今回は正式な訪問ということになっているのだ。これが吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。
しかし私はそう簡単に解決する問題ではないと考えていた。サミュエルについてもきっとそうだろう。だから彼はきっと盗賊や魔物ではなく、ハルトリッヒのようなブレメンスからの刺客を警戒している。正直言い方は良くはなかったが、彼の懸念は私もしていることだ。
ブレメンス国内の内情や王侯貴族の汚さを分かっていないクラウスやハルトリッヒは分かっていない。
戦闘用の強力な使い切りの魔道具や武器、防具を人数分用意しながら空間拡張魔法を使った袋にそれぞれ詰めていた時の事。魔導車が外側から大きく揺らされた――。




