63.
サミュエルとクラウスの戦闘スタイルは噛み合っていた。
サミュエルが接近戦を積極的に行うことで相手の注意を逸らす。クラウスは遠距離でサポート魔法や魔法攻撃を行いながらも敵の行動を分析しているようだった。
性格こそ噛み合わないかもしれないが、サミュエルの欠点である物事を考えずに特攻しているところをクラウスが代わりに思考することで補い、クラウスの欠点である次の強力な魔法を放つまでのスパンがあるという部分をサミュエルが手数の多い魔法で補う。
きっと長年一緒にいるうちに作られた役割分担なのだろう。そう察することが出来たほどに連携が出来ている動きだった。
きっとこの二人であれば、並大抵の敵に負けることはあり得ない。
しかし、今回は敵が悪すぎた。
何が起こっているのか分かったところで、よほどの奇策がない限り勝利を手にすることが難しい。
「クラウス!攻撃が通ってない」
「分かっている。当たっていないというよりは、当たる直前にかき消されている……いや、だが物理攻撃は違うな。何かに弾かれている。防護壁を貼っているのか」
流石に彼は私よりも戦闘を積んでいるらしい。
すぐに何が起こっているのかの予測を立てられていた。しかし分かったところでどうにかなるものでもない。それが分かっているのか、ハルトリッヒも余裕な表情を浮かべていた。
さて、二人はどうするのだろうか。ハルトリッヒが勝つことを前提のように見てしまっていて、サミュエルにもクラウスにも悪い気がしないでもないが、ハルトリッヒの強さは異常だ。高い魔力もある、使える魔法も強力。それなのに攻撃が何一つ通じない。
「サミュエル!!プランCだ」
そうクラウスが叫んだと思えば、サミュエルが空中に大きく飛び上がり、ハルトリッヒに対して大規模な爆炎を放った。遠く離れている私ですら熱を感じる魔法。ハルトリッヒでなければ、その身体は木っ端微塵になっていたことだろう。
そちらに気を取られていると、サミュエルとクラウスがこの場から消えていた――。
「ちっ!逃げられたか」
それから10分程経った頃だろうか。待っている間、森のいたるところからクラウスとサミュエルの魔法を感じたが、それは断続的に動き続けていた。何かを企んでいるのだろう。
暇になりはしたが、特に二人を探そうとしないハルトリッヒが地面に魔法で変な絵を描き始めた時だ。地面からハルトリッヒ目掛けてクラウスの剣が突き出してきた。私も遠隔から魔法でチラッと見たが意外と上手いななんて思ってじっと観察していただけに、地面が消えたと錯覚したほどに突然クラウスの攻撃がハルトリッヒに当てられた時には、正直心臓が止まりかけた。
そしてクラウスは一瞬勢いのまま滞空し、地面に降り立った直後にハルトリッヒの心臓目掛けて何か細工をしたように見えた。油断しきっていたハルトリッヒはきっと分かっていないだろう。
そしてそれと同時に遠くから魔法が放たれる気配を感じると共に、クラウスが目で追うのが難しい程の数の斬撃をハルトリッヒへ放った。
ハルトリッヒに打ち込まれる魔法と剣戟。剣は全身へくまなく、魔法はハルトリッヒの胸へと3センチほどのか細い光だが強力なものが浴びされ続けている。自動的に貼られ続けている防護壁があると言っても、まずいと思ったのだろうハルトリッヒはクラウスから距離を取る。しかしサミュエルが遠隔で放ち続けている魔法は場所を変えても途切れることはなかった。
「くそ!!なんだこれは!!?」
遠方から一点に向かって放たれ続ける魔法。
これであれば、サミュエルの方を潰せばいい。普通であればそう考えるが、そんな簡単な事態ではなかった。魔力の位置を探れば分かるが、サミュエルは移動し続けている。それでいて一点に向かって魔法を放ち続けているのだ。
その上逃げても逃げてもクラウスからの物理攻撃は止まない。
なるほど、と思った。全身の防護壁を剥がすのが無理でも、一点に向かってずっと放ち続けるのであればその部分だけが脆くなって破ることが出来る。ハルトリッヒが無意識の内に張っているというのもポイントだ。意識していないからこそ、貼りなおすのが難しいのだろう。
「さて、そろそろ剥がれるか?」
そう、決着が着きそうになって止めようとした瞬間。ハルトリッヒはニヤリと笑った。
「残念。自分の意志で張り直しも出来るんだよ」
「いや、一瞬触れられれば十分だ」
ハルトリッヒが防護壁を貼りなおすまでの一瞬で穴が空いた一点に向かってサミュエルが指を指し込み命令した。
「全ての魔法を解け」
その言葉で全てが終わった――。




