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【完結済み】妹が私の婚約者も立場も欲しいらしいので、全てあげようと思います  作者: 皇 翼
第三章:ポッシェ村

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58.

「1日振り、ね」

「……もう来ないかと思ってた」

「えっと、もしかしてだけど落ち込んでる?」

「んなわけねえだろ!!……もう逃げたんだと思ってたんだよ。俺は用済みだろ?もし野垂れ死にしてもお前には関係ない」


なんだか、急に最近人間に飼われ始めた野生動物みたいだ。

出会った頃は警戒心剥き出しで、こちらを親の仇のように見つめた上で命を狙ってきていたというのに、今はなんだかしゅんとしている。捨てられたとでも思ったのだろうか。きっと気のせいだとは思うが、少しくらいは感謝されているのかもしれない。


「回復しきる前に途中で見捨てたりはしないわ」

「……そう、か」


最近ハルトリッヒが見せるようになったこの笑顔。作ったご飯を目の前にした時だけではなく、最近は軽く雑談をしている時も表情が柔らかくなってきていた。

私がこれから話す話題はきっと、この笑顔を永遠に見られなくなるであろうことが予測できるが、話さないわけにはいかない。少し悲しいだなんて感じながらも、ハルトリッヒが今日の分の朝ご飯を食べおわったタイミングで話題を切り出した。


「私は貴方が回復しきったら、ジルド=ブレメンスに一度話をつけに行くわ。もし平和的に解決できないようなら、徹底的に抗戦するつもりよ。私の自由が約束されるまで」

「…………」


ハルトリッヒは私の言葉を聞くと、何かを考えこむように顔を俯かせてしまった。

急に襲い掛かってくる可能性も視野に入れて警戒していたのだが、その必要はなかったようだ。ほんの少しだけ肩の力を抜く。


「貴方には選択肢がある。回復した後に私を止めるために再度殺し合いをするか、それとも大人しくフィオレント帝国に保護されるか。後者に関しては既にサミュ――第二皇子から許可を取っているわ。前者に関しても貴方が全快するまでは私からは手を出さない。さて、どちらを選ぶ?」


出来れば無益な争いはしたくない。だから後者……保護される道を選んで欲しいのだが、ブレメンスでは私は叛逆者というか国の災厄の原因ということになっているらしいから、無理かもしれない。なにせ彼は私に差し向けられた暗殺者だ。

目を閉じて深く深呼吸をして、ハルトリッヒの返事を聞こうと彼の方を見た――のだが、目の前には予想外のものが飛び込んで来た。


大きく目を見開いて、どうすれば良いのか分からないとでも言うかのようなハルトリッヒの姿。まるで、迷子になった子供のようだった。

道が分からない、何を選べばいいのか分からない。言葉に出していなくても、その戸惑いは伝わって来た。


「私と敵対することを選んでも、別に責めたりはしないわ。さっきも言ったけど、すぐに殺そうとしたりもしない。ハルトリッヒ、貴方の選びたい方を選べば良いの。貴方はどうしたいの?」

「……分からない」


私を殺そうとした男と同一人物だとは思えない程にか細い声だった。

しかしその言葉に嘘は感じられない。彼は本当に分からないのだ。自分がこれからどうすれば良いのかが。自分の心が。


「俺はずっとブレメンスのためになることをするようにと育てられてきた。だから急に国を裏切って、今は災厄をばら撒いているお前を殺すべきだと思ってきたんだ。でも、お前を殺そうとしていた俺を、命を懸けてまで助けて、その後もずっと俺のために動いてくれているお前を……ソフィアを見ていたら、何が正しいのか分からなくなった」

「私が貴方を治療したのは、情報を引き出しておいてその一味に目の前で死なれるのは不平等だし、私がスッキリしないと思ったからよ。別に貴方を善意で助けたわけじゃない。私は自己中心的な人間だもの」

「そういうところだよ。俺には、お前がブレメンス(祖国)が言うような悪人だとは思えない。わざわざ他人を傷付けたり、不幸にしたりするような人間だとは思えないんだよ。それにお前が俺に作ってくれたものはどれも……優しい味がした。悪い人間があんなもの作れるはずがない」

「……美味しかったと思ってもらえるのは嬉しいけど、それだけで悪い人間ではないと思ってしまうのは良くないわ」


これ以上は、どう声を掛ければいいのか分からなかった。

私がブレメンスを見捨てたのは事実だし、もうあんな国どうとでもなれと思いもした。

事実と言えば、わざわざ破壊活動をしに行かなかっただけだ。私はあの国で必要じゃなくなったから追い出されただけの哀れな人間なのだ。

しかしそれを自分から言う気にはなれなかった。あの国の体制では今後立ち行かなくなることも私には分かっていたのだから。要は私は国の人間と書類上は家族であった者・婚約者達に捨てられたから、私も向こうを捨てた。それが一番正しい解釈なのかもしれない。


「少し……考える時間が欲しい」

「分かった」


限界だとでも言うようにベッドに寝転ぶハルトリッヒに対して、私は答えを出すのを先延ばしにするという選択肢しか与えてあげられなかった。


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