57.ソフィアの告白
ポッシェ村の私達の仮住まいに帰ってから、私は全てを話した。
私がブレメンスの聖女だったこと、身体にはその聖女の刻印が刻まれていること、サミュエルには聖女だったころに出会ったこと、婚約者がいたが妹と婚約者が結ばれたことで追い出されてしまったこと、身分を失ってからは『フィーア=アドライン』という偽名を使って魔道具を作っていたこと、そしてこの間襲ってきた襲撃犯たちは元聖女の私を殺すためにブレメンスから差し向けられたという事実を――。
途中でサミュエルがクラウスを見ながら何度も溜息を吐いていたが、それは無視した。どうせくだらない嫉妬だろう。サミュエルはクラウスが知らないということに優越感を持っていたようだから。相変わらず性格が悪すぎる。
「これで全部よ。もし聞いて後悔したならすぐに王都に戻って。全てが終わったら知らせるから、安全なところに居た方が良いわ」
そう。私は私の命を狙っている元をこれから処理しに行くつもりだ。せっかく治療したハルトリッヒとはきっとまた敵対することになるのだろう。今回は彼の仲間から彼らへの依頼内容を聞き出したから、その対価を支払うためにも彼を助けた。情報だけ抜き出して、見殺しは私の正義ではないから。しかし私の前に立ちはだかるというのであれば、彼をまた倒す覚悟が私にはある。私だって死にたくはないのだ。
だから、それらの処理が全て終わったら、秘密を知ってしまったクラウスの安全も確保されるだろう。だからそう言った……のだが。
「俺は後悔なんてしていない」
クラウスから返ってきたのは、こちらを真っすぐに見つめる瞳だった。
初めて出会った時と同じ意思の強さを秘めた瞳。もしかしたらクラウスは私がこの国の人間ではない、別の国、別の立場を持つ人間だということに気付いていたのかもしれない。それか私の秘密について、既になんとなく知っていたか。そう疑っていたが――。
「正直、フィーアがソフィア=トリプレート……聖女だったことには驚いた。だが、俺が想定していたほどの秘密ではなかったから、安心もした」
「……私、どんな秘密を抱えてると思われていたの」
「過去に償い切れない程の犯罪を犯した、とかか?あとは国の一つや二つは滅ぼしてそうとも思っていたな。魔法の研究のための大量虐殺とか、遊び感覚で街に魔物を誘導したとか」
「えっと、私ってクラウスにそんなに嫌われていたの??」
なんて男なんだ。犯罪者だの国を滅ぼしてそうだのと、私に対して持っているイメージが酷すぎやしないか?
私の気のせいでなければ、私はこの男から愛の告白を受けた気がするのだが。正直返事を求められると困るが、確実に嫌われてはいないと思っていただけに、こんなイメージを持たれていたのは若干ショックだ。
私はそんなに犯罪を犯しそうなのだろうか。これでも品行方正に生きてきたつもりなのだが。
「お前……ソフィアの力だったら出来るだろう。国を滅ぼすだのの下りは冗談として、あんな刻印を刻まれたような人間たちが差し向けられているくらいだ。何かしらの事情があって、とんでもないことをしでかしているのではないかと疑ってはいた」
「ちなみに私が大犯罪者だった場合はどうしたの?」
「そう、だな。それがどんなものだったとしても、一生をかけて一緒に罪を償うつもりだったさ」
「……クラウスは相変わらず真面目ね」
彼の答えを聞いて、少しだけ安心した。
クラウスはやはり正常な倫理観を持っている。彼であればきっと、私が人間としての道を踏み外しそうになったとしても止めてくれるのだろう。そんな気がする。
「うん。クラウスは真面目だし、厳しすぎるよ」
「うっわ、びっくりした。急に復活しないで」
先程までしぼんでいたサミュエルが急に会話に横入りしてきた。暫くは静かだろうと思っていただけに驚きも大きい。
「好きな女が身体を壊しそうになりながら悩んでいたんだ。当然、その気持ちを軽くするためにもできることはするだろう」
「本当、僕とは真逆のタイプだ!」
「お前はむしろ、一緒に罪を犯しそうだな」
「ええー!ひどい!!」
この二人は相変わらず仲がいいなと思う。二人ともがお互いのことを熟知している。
しかしサミュエルについては私も思ったことだ。もしも道を踏み外しそうになった場合、クラウスは止めてくれる人間だが、サミュエルは共に堕ち続ける人間だろう。本当に真逆な二人だと私も思う。しかしそんな二人だからこそ、相性が良いのかもしれない。
そんなことを感じながら、未だに言い争っている二人を置いて、今夜の食事を用意するためにキッチンへ向かった。今日は私が美味しいものを作ろうと思う。
Twitterにおまけ載せてます。
なんかクラウスとサミュエルの会話文みたいなやつです。




