38.無敵の男①
相手の素性、そして対峙すると決まってからの行動は早かった。
解析した魔方式に残っていた魔力を利用して、逆探知する。残っていたものは微弱なものであり、本来であれば探知に使えるようなものではなかったので、大体の位置しか割り出すことは出来ないものだったが、それは私の魔法で魔力量を無理矢理増幅することで、なんとかなった。これに追尾型魔法を乗せてしまえば、確実に敵を叩くことが出来る。
こうして私の命を狙っている人間は、ポッシェ村の南東10キロほど離れた森に潜んでいることが分かった。
覚悟を決めたのであれば、やることは一つ。
該当の大体の位置に移動し、対象の魔力に狙いを定めて自動追尾の火球を放つ。するとそれは木の間を高速で駆け回りながら、一つの方向へ向かって行った。
サミュエルとクラウスを後ろに従えて、それを追っていくと、3分も経たない内に会敵した。
「よお、お姫様。命を捨てる覚悟は出来てるか?」
「貴方ね。私の命を狙っているのは」
綺麗な容姿の割に粗暴な話し方をする男。やはり実物を見ても、どこか異様な雰囲気を漂わせていて、少しだけ不気味だ。
「ほら、アンタが火なんてつけて煽るから、やっぱりバレてるじゃない!証拠隠滅も意味を成してないし。この下手くそ!!」
「は?俺はお前らにクドクド言われたから、仕方なく魔法使ったんだっての。別に本気で証拠を消したわけじゃねえし。だって、折角の獲物を戦いもせずに殺すなんて楽しくないだろ」
「ハル、その悪癖を何度も治せと言っているでしょう」
ハルと呼ばれた男の後ろから2つの影がぞろぞろと出てくる。
私より年上であろう派手なピンクの髪を高く結んだ女と、鼻の下に白髭を貯えた壮年の男。出てきた二人も見覚えのない容姿だった。
しかしこれだけは確実に分かる。全員が私の命を狙っている。
「でも今回はやっぱり大物だな。俺をちゃんと見つけ出した獲物なんて初めてだ」
ニコリと無邪気に微笑んでいるが、思わず背筋が凍る笑みだった。
顔は笑っているのに、先程までより一層増した殺気が向けられているのだ。ここまでのものはブレメンスに居た頃も向けられたことはない。緊張で背中の筋肉が収縮するのが分かった。
「さて、どれとやり合うかな。どうせなら3人纏めてかかってきてもらっても良いんだが――」
「クラウスは女の方、サミュエルは男の方を相手してきて」
見える相手の魔力量から二人に役割を分ける。
女の方は容姿に見合わずバリバリの物理型、男の方は魔法メインで戦うタイプでほぼ間違いないだろう。丁度3人いるのだ。1対1づつで相手をするのが最善策だろう。
声を掛けると同時に、サミュエルとクラウスは攻撃魔法を使い、相手を遠くまで吹っ飛ばしていた。
「無視か。良い度胸だ」
「貴方の相手なんて、私一人で十分。全員纏めてブレメンスの愚者どもに送り返してあげる」
二人きりになった初っ端から火球を創り出して男へ放つ。
火球に相手が包まれている間に、腰に携えていた剣で軽く腕を切りつけた――のだが、切られていたのは私の方だった。
「え……」
「お前の攻撃、ぬるすぎて当たってねえんだよな」
腹に燃えるような感覚。
いつの間にか男が持っていたナイフで胸の辺りを刺された上、そこに熱魔法を流し込まれていたようだ。肺が片方傷付いて、呼吸が苦しい。しかし私にはこんな攻撃は効かない。男が何故魔法も使った様子もないのに初手から無傷なのかはまだ分からないが、私は自分の身体であれば、傷を負っても無詠唱かつ一瞬で治し続けることが出来るのだ。
「貴方の攻撃だって効いてないわ」
「……へぇ。少しは楽しめるかもな」
男が少しだけ目を見開くのが分かった。
その隙に、至近距離で今度は氷漬けにする。そしてそのまま雷魔法で作りだした刃で真横に切り裂いた。隙を突いたのだ、今度こそは確実に当たっているだろう。
しかし今回も男のダメージは思っていたものとは全く違った。
立っていたのだ。男は口には薄らと笑みを浮かべながら、無傷で。




