37.真犯人②
「誰、この人」
魔法の解析結果は、強力な炎の魔法の魔術式とそれを上書きするように使われた証拠隠滅のための魔法。この解析魔法で分かったということは、これを使ったのはブレメンス王国の人間だということだ。なにせ魔法式は読み通り全てブレメンスのものだったから。
そして一番の問題点は、紙に映し出されていた見知らぬ男である。これは確実に人の家に火を放った張本人。
しかし見覚えはない。あの国の騎士や魔法を扱える者は騎士連中や貴族を通して色々嫌がらせなどもされていたので、大体知っている筈なのだが、この人はそのどれにも当てはまらなかった。
第一印象としては、綺麗な顔だなという我ながら非常に危機感のないものだった。
この魔法、無駄に高機能で実は写真のように映し出されるというものなのだが、私の目から見て、その人間は『人間』だと思えない程に完成された美を持っていた。闇と同化しそうな漆黒の髪に白銀のメッシュが1本入っている。それがより『人外』感を出していた。そして瞳には溶けそうな月が埋め込まれている。左目の方は義眼だろうか、何かしらの魔術刻印が刻まれていた。
クラウスやサミュエルも確かに綺麗な顔をしているなとは思うが、この人間の美しさは異様で、規格外だった。
「誰、こいつ。もしかして浮気!?」
「いや、これ放火犯。あとそもそも付き合ってない」
「相変わらず照れ屋だな。今までの調査で証拠を掴めなかったということは、ブレメンスの人間?知り合い?」
「ええ、でも知らない人」
紙をガン見していると、後ろから私と同じような疑問を持つ声。
私よりも面裏合わせて色んな人間の情報を持っているはずのサミュエルですら知らない人間のようだ。と言っても、この男はきっとブレメンスの人間であろうことが既にわかっているので、不思議ではない。
相変わらず距離感が近いサミュエルを軽く手を上に払って遠ざけていると、クラウスも私の背後に戻ってくる。
「見るからに怪しいやつだな。それに、この国の人間じゃないだろう」
「なんで二人とも一目でこの国の人間じゃないって分かるの?少し気持ち悪いんだけど」
「左目。フィオレントでは危険性の面などの問題から魔術刻印を身体に埋め込むことは禁止されている。違法行為だし、見つかれば即刻罰則を食らう上に魔術刻印を取り上げられる。それをこんな堂々と刻んでいるところだな」
クラウスのその発言に少しビクリとなる。
なにせ私も身体に聖女の刻印というそれに近しいものが刻まれている。流石にサミュエル経由でバレることはないだろうが、少し冷や汗をかいてしまった。またバレてはいけないことが増えてしまった。
これ、この国では違法だったのかなんて遠い目をしながらも話を続ける。
「とにかく、私はこの男と対峙しなければならないわ」
ブレメンスの人間であるということは、私の命を狙ってきていることはほぼ確実。
あの国の人間達のことだ。どうせ最近国内の情勢が怪しいのは私のせいだと思っているに違いない。捕まれば、私は酷い目に遭うどころじゃないだろう。
この放火に関しても、牽制や予告、脅迫などが含まれているのだろうとなんとなく予測している。
ただの放火犯にそこまでするのかと少し引いているクラウスと私の事情を既に半分以上わかっているであろうサミュエル。二人の温度差が傍から見ていても激しかったが、どう思われようと私はもうあの国に縛られたくなどないのだ。




