36.真犯人①
「さあ!調査に行こうか」
「なんで貴方が仕切っているの?」
「少しでも君の負担を減らしたかったんだけど……ダメだったかな?」
「……いいえ。別に。行きましょうか」
あの後。森から帰ってきたらお昼になっていたので、昼食を作って食べて、動けるようになったといったところでサミュエルの発言だった。
なんだか今までの態度と180度違っていて、ちょっと気持ち悪いし調子が狂う。事情を知らないクラウスもそう思ったようでサミュエルのことを怪訝な目で見ていた。
しかしサミュエルがおかしな行動をとるのはいつものことである。私の全焼した家までの道を歩いていくうちに、クラウスはサミュエルの今のこの妙に私に優しい態度に慣れたのか、なんの反応も示さなくなっていた。
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「サミュエル、お願い。暫くクラウスの意識を逸らしておいて」
「……仰せのままに」
焼け跡に帰って来た直後。私はすぐにサミュエルに頼みごとをした。
私は今から、ブレメンス王国の魔法を使う。
別にクラウスを信用していないわけではないが、出来るだけ正体がバレるようなリスクは犯したくなかったのだ。そして丁度良いと私の正体が既にバレているサミュエルに協力してもらうことにした。
頼られたのがよほど嬉しかったのか、恭しく頭を下げてそのまますぐにクラウスにウザったい絡みをしに行くのが見えた。
クラウスに解析魔法をかけてもらったあの資料を読んだ結果、どんな上位のものを使っても、この国の魔法では何一つ犯人につながる証拠は見つからなかった。それは即ち、《《この国の魔法では解析しきれない魔法を使用されている》》ということである。
この国と違う魔法。十中八九ブレメンス王国のものだろう。あの国は元々神が背後に付いていた国ということもあり、他の国とは魔法の系統が全く違う。私もポッシェ村に来た直後は魔導書を読んだ時に驚いた程度だったが、今ならわかる。フィオレント帝国……いや、ブレメンス王国以外の住人にとって、ブレメンス王国で使用されている魔法は異質なものだ。まあ、使える人数は非常に少ないのだが。
基本的に、フィオレント帝国とその他の周辺諸国の魔法のタイプは系統的には同じだ。地方や地域によって少しづつ違うらしいが、大きく変わることはない。方言のようなものらしい。
しかしブレメンス王国の魔法は《《根本的に違う》》のだ。使い方や発動方法、魔術式なんかも違う。原理さえ理解すればどちらの国の人間も同じ様に使用することは出来るだろうが、そもそもブレメンス王国の技術が外に漏れることがなかったので、今まで交わることがなかったのだろう。
とにかく、フィオレントの魔法ではブレメンスの特殊すぎる魔法は解析に引っかかることがないのだ。
例えば、鍵穴①と鍵穴②があるとする。これはそれぞれ別の鍵①と鍵②がそれぞれ対応している。鍵穴①と鍵穴②は鍵穴の型自体が違うので、鍵穴①を鍵②の方で開けようとしても開くことができない。その逆も然りだ。
要はフィオレントの魔法でブレメンスの魔法を解析出来ないが、フィオレントの魔法でブレメンスの魔法を解析することもできない。
私も今でこそブレメンスの魔法との差異に戸惑ったが、最初の頃は慣れなさ過ぎて、一部向こうの魔法と魔術式がごちゃ混ぜになってしまうこともあった。
けれど良いこともある。
私は既にブレメンス王国で使っていた魔法――私オリジナルのものも含め――とフィオレント帝国で学んだ魔法の良い部分のみを抽出して、一つにすることに成功している。
しかもそれは魔道具にも組み込めることを確認済み。原理さえ説明してしまえばこのポッシェ村の住人にもその技術を伝授することが出来た。私にとっては普通の事でも、この国では普通ではない。だからこそ私はこの国でも上手くやっていけている。
しかしあの国の出身であるという過去が、こんなところで柵になるだなんて思っていなかった。
「一括解析・転写――」
持って来た書類サイズの紙を持ち、目を閉じながら使用する魔法を一気にイメージする。
使うのは、隠された魔法を強制的に暴くものとその結果、そして魔法の使用者の容姿を紙に転写する魔法。後者に関してはオリジナルで開発していたものだ。
そして目を開いた時には結果が紙に映し出されていた。




