13.再会③
身体は硬直しながらも、なんとか顔には出さずに男の次の行動を伺う。
付き従う部下であろう顔を仮面で覆った騎士達に囲まれながら、こちらへ歩み寄ってくる男はサミュエル=フィオレント。フィオレント帝国の第二王子だった。
この男との出会いは数年前に遡る。
かつて聖女……そして第二王子の婚約者として仕方なく参加した他国が参加する舞踏会にて、彼は私にしつこく声を掛けて来た男だった。
彼女に婚約者がいると知っているくせに誘いの声を掛ける、軽薄で遊び慣れていることが一目でわかる浮ついた男。第一印象からあまりにも軽い言動と印象を受けたので覚えている。
確かに容姿は美しい男だったが、ソフィアはこういうタイプの人間が嫌いだった。愛だのなんだのという言葉を吐いて、簡単に裏切る。そもそも自身の母親のこともあって、そういうくだらない愛の言葉と言われるモノの類が大嫌いだった故に、後々彼の姿を見たり、果ては名前を聞くだけで不愉快な気分が溢れ出てくるようになったのだ。
特にその時は嫌なものに参加させられて、イラついていたのもあるかもしれない。彼女は誘いを受けた初対面の第一声で彼の耳元にこう囁いてしまった。
『私、貴方みたいな軽薄な男が死ぬほど嫌いなの。愛なんてくだらない感情を吐き出すくせに、その実、貴方の愛は偽物でしょう』
そこから何故か付きまとってくるようになったのは謎だったが、私はとにかくこの全ての言動が軽い男が嫌いだった。
……そんな男が今、目の前にいる。
正直、多少は面識のある人間と出会う可能性を考えなかったわけではない。
王都に行って、表彰式に出ると言っても、こんな至近距離で自身が苦手とする男と再会するなど予測していなかったのだ。
王族と国が認可している賞を与えられたとはいえ一般人である私。精々が遠目に見る程度だと思うのが普通だろう。心の準備など出来ている筈がない。
しかしそれらの心配は杞憂に終わる事となる。
一瞬、バレる!と内心焦りはしたが、サミュエルは私のことを見ても、何も反応しなかった。むしろ、誰だこの一般人?と言った様子で首を傾げていた。
その反応を見て、今更ながら思い出す。私は今現在、魔力を漏れ出ないように制御した上、性質を変化させている。容姿に関しても、顔は変わっていないが、黒髪に茶色の瞳という前の容姿と比較すると、一般的なものに変えていた。何よりも普通はこんな場所に聖女と呼ばれる一般的には身分が高いと言われる人間がいるわけがないのだ。
あんなに口説いて付きまとってきたくせに、気付かないのかと少しだけ呆れる心情と、バレていないという事実に内心安心する。
それにしても予想外の出来事だ……と驚きながらも、サミュエルの方に視線を向ける。
肩パッド――改めクラウスと話していたようだった。視線が交わると、彼はこちらを見てニコリと人好きする爽やかな笑顔を浮かべた。なんだか嫌な予感がする。
ぞっと鳥肌がたったが、気にせず軽く微笑んでおいた……のだが、微笑んだのは失敗だった。彼は微笑み返されると、ズンズンと近付いて来て、避ける間もなく私に視線を合わせた。
「さて、それで君は何者かな?」
私が苦手とする男――サミュエルに詰め寄られる。
顔だけであれば、彫像のように完璧かつ芸術的な美しさ。そしてタレ目で一見、優男風の風貌で弱そうに見えるが、この男は実際のところ滅茶苦茶強い。本当に認めるのは悔しいが、強いのは事実なのだ。




