Cold Steel - 0 -
「最近さぁ、千代ちゃんに彼氏が出来たらしいんですよね」
浮かない顔をしたサクヤがカフェラテを啜りながらボヤいている。
時間が空いたのでたまたま立ち寄ったラウンジでばったり会ったサクヤとつい話し込み、熱かった飲み物もいつの間にかだいぶ飲みやすい温度になった。こういう時間は嫌いじゃない。…話題はちょっとアレだけど。
「なんか昔からの知り合いみたいで『やっと会えたんです』って目をウルウルさせながら報告してくるんですよ。そりゃーね、ミーアは同期だけど年下で妹みたいなもんなんで、幸せになってくれるのはお姉さんも嬉しいですよ。でも…」
「でも?」
「私にだってそんな運命的な出会いがあってもいいと思わないですか?」
「ああ、そういう…」
「何よ!私だって女の子らしいトキメキを体験したってバチ当たらないでしょ!あーいいなー、私も一度でいいからドキドキしてみたい!」
だいぶストレスを溜め込んでいるのか、サクヤのキャラが崩壊している。一応私も男なんだから、そういう話はあまりあけすけにすべきではないと思うんだよなあ…。
「だったら誰かに恋すればいいんじゃない?」
「ナタリー⁉︎今の聞いてたんですか?」
さも通りすがりのように装ってナタリーが割り込んできた。お前、実は聞き耳立ててただろ。
「サクヤほどの美人なら引く手数多でしょうに」
いちいちこっちを見てニヤニヤするな。
「そ、そうだよ。サクヤならいい出会い必ずあるって」
「いや、そう言って貰えるのは嬉しいんだけど誰でもいいって訳ではなくて、コミュニケーションは難しいというか私の真意を分かってくれる人がいいけど分かってくれたらそれはそれで恥ずかしいし知らない人とは今更出会いといっても疲れそうだしというか…」
早口で捲し立てるように心情を説明されてもなあ。なるほど、こういう所がプライベートだと残念に見えてしまうのかもしれない。
「お、マコ!とサクヤにマルソー警部じゃん。珍しいな、どしたの?」
まーべるが現れた!かなりの確率で斉藤氏とつるんでいる私にとっては珍しくもないが、配属先の違う同期がラウンジに集まるのも珍しい。
「ああマーベル、たまたま一緒になったから話してただけだよ。千代ちゃんに春が来たって、サクヤが」
「おお!この前仲良さそうに2人で歩いてるのを見たぞ。お相手は強行班のムサシってコールサインの奴。顔も仕事もフツーなんだけど、なんかお侍さんって雰囲気なんだよな。千代ちゃんにはお似合いっていうか」
流石マーベル、凄い情報量だ。
「へえ、そうなんですね。じゃ、じゃあ私はそろそろラボに戻ろうかな…」
「そっか。サクヤ、またね」
「あっ!はい、ま、また…」
サクヤがパタパタと小走りで立ち去る様子をナタリーがニヤニヤしながら眺めていた。
「もしかしてサクヤ、マーベルのことが…?」
思わず呟いた声にナタリーが反応した。
「あんたってホント女心が分からない奴ね。信じられないわ」
「へ?」
「ほら、今日の午後はアタシのエスコートで史跡研修なんでしょ?行くわよ」
「はいはい。全く人使いの荒い…。マーベル、またね」
「ああ、またな」
私だって元々は女なんだし、この場で一番女心の分からなさそうなマーベルを差し置いて非難されるのは何かシャクだ。
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