ピースオブケイク
「…じゃあ、白菊の上撰と百万石乃白、あと白駒の吟醸で」
「まいどあり!届いたら持ってくるよ」
休憩時間にペコから酒の注文を頂いた。この前の飲み会で地元の地酒をいたく気に入ったらしく、私の分を送ってもらう時に一緒に頼んでほしいとお願いされたのだ。いいぞ、どんどん注文してくれ!
今日はペコが珍しくガサ入れに参加するらしい。「ピースオブケイク、ってやつだよ〜」と笑っているが、不慣れな作戦で不安なんだろう。ブカブカのアサルトプレートキャリアをしきりにいじっていた。
落ち着かないのか収まりが悪いのか、傍目に見ても何でこんなにフィット感のないプレキャリを…あ!
もしかして、と思いペコに聞くと
「キツいから大きめのプレートキャリアを選んだらこれになっちゃって。あ、べ、別に太ってる訳じゃないよぉ!胸だから!」
と顔を真っ赤にしている。
分かった、元の世界で私にも経験があるやつだ。
男物の装具は女性の体型に合わないことが結構ある。ペコはYPDの中でもトップクラスの立派なものをお持ちなので、さぞ困っていることだろう。ここは横田歴の長い私が一肌脱ごうじゃないか。
「ペコ、女性用のプレキャリがあるからプレゼントするよ。用意するからちょっと待ってて」
「えっ?そんなのあるんだ!いいよー自分で買うから」
「気にしないでいいから。3時間後に出発なんでしょ?すぐ買ってくるから他の準備しといて。あとSサイズのアーマープレート」
「…わかった、ありがとー!マコから貰う初めてのプレゼントだね」
ペコの笑顔に少しドキッとしてしまった。
「何かお礼させてくれる?」
「うーん…そうだ!美味しいケーキ食べたい」
「わかった!今度この辺で一番美味しいお店を案内するから、予定空けておいて、ね」
「了解!ありがとう」
酒飲みのチョイスする甘い物は大抵ハズレがない。楽しみだね!ウキウキしながら横田基地のBXに向かう。ペコも嬉しかったのか、今まで見たことないような笑顔だった。
* * *
朝帰りの一件以来、マコはどことなく余所余所しかったけど、今日はお酒のお取り寄せの相談で盛り上がって以前と同じように自然に喋ることができた。色気のかけらもない話題だったけど、私らしくていいかな、なんて思う。
YPDの女性職員の中では意外とマコの人気は高く、今だってあわよくば私達の会話に混ざろうとウズウズしている人がいるくらいだ。いくら酒好きでもディープな地酒の話題なんて入ってこれないでしょう、へへん、ザマミロ。
私にプレートキャリアをプレゼントしてくれると言うので、お礼と称してデートの約束をしてしまった。マコとはそういう関係じゃないけど、もうこの際そういう関係になってもいいかな…なんてね!なんか照れちゃうなー、ふふふ。
出掛けていったマコを見送ると、ウズウズを止められなかった先輩女性職員の2人組が私に話しかけてきた。この人達、嫌いではないけどマコの話になるとちょっと攻撃的になるのが苦手なんだよなぁ。
「ねえあなた、マコはその…どうなの?」
ひどく遠回しな質問だ。
「アレの話ですかー?」
「あっ⁈うん、アレの話…って、もうそこまで進んでたの?あの、喋るのが嫌なら、いいけど」
この人、私がマコ秘蔵の地酒を飲ませてもらったことが悔しいみたい。
「そうですねー、好みもそうなんですが、なにより私にはすごく相性が良かったです、カラダ的に」
「カラダ的に…」
先輩が顔を赤らめながらゴクリと唾を飲む。
「なんかこう、ワイルドだけど繊細さもあって、しっくりくるといいますかー。全身に幸せが染み渡るみたいな、私何か感動して泣きそうになっちゃいました〜」
「ブフォ!!…あ、そう…」
先輩はとても残念そうな顔をしている。少し調子に乗り過ぎたかな。
「先輩も飲みたいんですかー?」
「の、飲む⁈」
「はい。マコが自慢してた地酒の話ですよね?すみません調子に乗っちゃって。同じ酒蔵のお酒をマコにお取り寄せ頼んだので、今度一緒に飲みませんか?」
「あー、あ、そう!そうそう、地酒!うん、気になってたんだ。じゃ、じゃあ今度お呼ばれしちゃおうかな」
「はい、是非〜」
意地悪し過ぎは良くないな、と反省。私も緊張してちょっと気が立ってしまってる。
マコを待つ間にSサイズのアーマープレートを装具庫から引っ張り出しながら作戦概要をおさらいしておく。
今回の任務は、迫撃砲で定期的に米軍基地を攻撃してくる過激派のアジトへのガサ入れ。ノーマルプロシージャに従うけど、抵抗の状況によっては制圧に切り替えるというYPDらしい作戦だ。インターポールから研修に来ているマルソー警部に視察してもらうためのお膳立てでもある、だって。ふーむ、危険の少ない作戦で安全に観てもらおうという心遣い、そのために私を増強要員兼マルソー警部の護衛として追加したってことね。
そんなに馴染みはないけど、制圧作戦も経験がない訳ではない。マコは私のことを「何でもそつなくこなす」と褒めてくれていたし、今日もきっと大丈夫。
着古した装備独特の、油粘土のような臭いが充満した装具庫から出てきたところで、マコとばったり会った。早っ!
ちょっと焦ったよ。
* * *
横田基地に急いで向かい、BXのMil Clothで女性用プレートキャリアを無事に発見し、サクっと会計を済ませた。私が使ってたやつと一緒の、少し型遅れのモデルだけど、使いやすさは折り紙付き。私が最期まで着ていたやつだけど…それは縁起が悪いから黙っておこう。いや、そもそも話しても通じる訳がないけど。
店員が変な気を回して「プレゼント用にリボンをかけますね」とラッピングしてくれたけど、はたして必要なのかなコレ?
BXに無ければ、ちょっと値は張るけどゲート前の『ファイブ・レイブン』で買うしかないかなーと考えていたところ、ちゃんと在庫があったので財布的に助かった。お値段2倍となると、プレゼントとはいえちょっと勇気が要るよね。
急いで戻って会議室に向かっていると、タイミングよく装具庫の前でペコに会った。Sサイズのアーマープレートはあまり使わないから、探すのが大変だったろうな。
「はいこれ、私とお揃いになるけど…」
「わ!ありがとー!お揃いかー、大事にするね!わざわざリボンまで…直接リボンで巻いてるのって、なんか面白いねー」
ペコがクスクス笑いながらリボンをほどく。やっぱりおかしいよなー、このラッピング。
ゴトゴトとアーマープレートを入れて準備完了。そろそろブリーフィングに向かう時間だ。
「じゃあマコ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい!気をつけて」
心なしかペコは自信ありげな表情をしていた。オールマイティ人間だから、楽勝ミッションぐらい簡単にこなして帰ってくるだろう。後ろ姿を見送りながら、やっぱりペコには無骨な装備はあまり似合わないなーと思った。
数時間後、携帯端末に入ったアラートメッセージは「作戦投入チーム壊滅」、続いて「全力出動」だった。




