宴の終わりに
「よし、出来た!私特製の鯖へしこチーズ餅!」
私はほろ酔い気分も手伝って、久しぶりのサシの女子会に気合を入れていた。しかも宅飲みなんて、どれだけぶりだろうか。たしか最後にやったは元の世界でマリーとだから…うん、かなり前だ。
「おおー、これは上級者向けの一品だね」
隠れ酒豪のペコが目を丸くしている。
「へしこの癖が強いから、あえて焼き目がつくまで炙ってクリームチーズと合わせてるんだよ。親戚のツテで美味しいへしこが手に入るんだ」
「へぇ〜、いいなぁ。あ、このカリっとしたのが美味し!」
「でしょ!へしことチーズと日本酒の組み合わせもいけるっしょ!」
私はいそいそと冷蔵庫に向かい、とっておきの酒を出してくる。
「秘蔵の『白菊』だ!味わってね」
「ははぁ〜、マコ様ありがたく頂戴いたしやす」
ノリノリで杯を交わす。たまにはこういうのもいいね。
ワイワイと話していると、いつの間にかYPDへの志望動機の話題になった。ペコがちょっと元気なさそうに語り出す。
「あたし、お兄ちゃんみたいにスポーツ万能でもないし妹みたいに頭も良くないし、一体何の取り柄があるんだろうなって悩んでたんだ。おまけに『あんたはちょっとズレてる』って友達にも言われてたし。
警察官になったのも、『頑張ればあたしでも誰かのヒーローになれるかな』って思ったから。ビビリのヘタレなのにね〜」
「へぇ、ペコは自信がないの?何でもできる万能選手なのに意外」
「自信なんてないよ〜!YPDに志願したのも、もっと追い込まれたら何か変わるかもしれないって思ったからだし。
…本当はね、毎日怖いんだ。いつ死ぬかもわからないのにって。でも、何もしなくて無能って言われるのはもっと怖い。
こんなの変だよね。全然、ヒーローじゃない」
「ペコ…」
おし、ここは一度殉職した経験のある私が励ましてあげようではないか!
「命の危険があるんだから、誰だって怖いよ。怖いことやってでも自分を変えたいって思えるのは強い証拠なんだから、そんなに気にしないでいいと思う。命知らずのヒーローなんて、死んだら周りのみんなが悲しむよ」
「…ありがとう。マコは優しいね」
火照った顔で微笑むペコはいつもより可愛く見えて、それ以上言葉を繋ぐことを躊躇ってしまった。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
ペコがトイレに行っている隙に皿を片付けていると、もっちょんが出てきた。
「主人殿、そろそろ山野女史を帰さないといけないのではないか?このままでは機を失してしまうぞ」
山野というのはペコの苗字だ。もっちょんはこういう所はキチっとしている。
「うん、まあそうなんだけど、折角だからもう少し鬱憤晴らししてもらってからでもいいかなって思ってさ。誰にも愚痴れないのって結構キツいんだよね〜」
「主人殿、後々面倒なことになるかもしれないから考え直したほうがいい。深夜の一人歩きは危ないし、そもそも今の主人殿は…「おおー、もっちょんが喋ってる〜!マコ、あたし猫語がわかるようになった!」
振り向くと、いつの間にかトイレから戻ったペコがいた。
やばい。
「はじめまして!あたしは山野朋恵、ペコって呼んでね!」
「にゃ、にゃー」
「ありがとう!もっちょんもあたしを心配してくれてたんだね〜。でも大丈夫!あたしこう見えて強いから」
「にゃー…」
「そうそう、わかるでしょ?こう見えて得意技は裏拳と後ろ回し蹴りでーす」
どうやら酔っ払ってよくわからなくなってるようだ。
もう1、2杯飲んでもらってスッキリ忘れてもらおう。そうだ、それがいい。
「ペコ、おかわり用意したからあっちに行こう」
「おお、いいね〜!お姉さんまだまだいけますよ〜」
もっちょんの冷ややかな視線を感じつつ、飲み直し開始。
そろそろ〆の一杯だなと考えていたら、だいぶ顔を赤くしたペコが突然お礼を言い始めた。
「マコ、いつもありがとう。おかげで今まであたしでもやってこれた」
「へ?何を突然⁈」
「あたし、何やってもトロいのに、仲間として一緒にいてくれて、優しく接してくれて助かったよ」
「うーん、要領の悪さなら私も人一倍だからさ」
「あはは、そういう所もマコだよねー。あたし、やっぱりマコが好き」
「はい⁈」
「匂いがね、お母さんと一緒なんだ。だからマコの匂い大好き!優しいところとか、お母さんに似てるかなと思ったんだけど、匂いだったよ。大発見!」
「…ああ、そうか。そうなんだー。同じ柔軟剤使ってるのかな?」
「そうかも!」
…酔っ払いめ。私まだ二十代なんですけど…!
「あら、もうこんな時間…マコどうしよう、終電なくなっちゃった」
「あー、今から歩くと大変だしこの辺タクシーもいないから、泊まっていく?」
「あざーす!助かりまーす」
「流石に私と同じベッドはアレだから、ソファでいい?毛布持ってくるよ」
「りょーかい!問題ナッシングだよ。…あたしはマコとなら同じベッドでもいいけど…」
前はよくマリーも泊まっていったし、リビングのソファはベッド代わりにもなるからこういう時に便利だ。
手早く片付けて毛布を用意して準備完了!実は私もちょっと飲み過ぎて、早く寝たい。
「もしシャワー使いたくなったらタオルは用意してるからご自由にどうぞ。飲み物は冷蔵庫に入ってるからご自由に!じゃあまた明日〜」
「ありがとう。おやすみなさ〜い」
毛布にくるまって半分眠りかけたペコが手を振ってくれた。私も笑顔で返す。部屋に引き揚げて、さぁ寝るぞ!
◇ ◇ ◇
…朝、目が覚めて気付いたんだけど、私、今は男だった…。
リビングに行って、寝起きのペコが恥じらいながら「おはよう」って声を掛けてきた時に悟ったね、やっちまったって。
流石に職場で噂になったりしたら面倒なので、この件はくれぐれも内密にってことでペコとは話がつきました。
チャーちゃんがそのやりとりを聞いていて、「別にやましい事してないんならいいんじゃない?」と漢気溢れるコメントを寄越してくれました。いや、そういう訳にはいかんでしょ。




