ー 雪辱戦、マジカルドア制圧任務 ー
「…てな訳で、すんごいデカい蛇を捕まえたのが私の唯一のお手柄って訳よ。初めてのミッションでやらかしたわー」
下番した私は、自宅でおやつを食べながら、もっちょんとチャーちゃんを相手に愚痴っている。私だって結構ショックだった。市民の安全を守ったと言えば聞こえはいいが、大事な作戦中に持ち場を離れたことには変わりない。
「それは主人殿に非はないのではないか。大きな蛇か…私は蛇が嫌いなんだ」
もっちょんが蛇に対する嫌悪感をアピールしている。尻尾がバッタンバッタンしている。仕方ない、背中をさすってやろう。よしよし。
落ち着きのないもっちょんを眺めながらチャーちゃんが薄ら笑いを浮かべている。…蛇を使ったイタズラとかやめてよ⁈
「そういえばさー、昨日珍しい感じの女の子を見かけたんだよね」
チャーちゃんが甘いミルク割りコーヒーを啜りながら話し出した。砂糖入れ過ぎは体に良くないぞ。
「兄ちゃんの好きなロリ女優いるじゃん?ショートボブにチョーカーつけたさぁ…クロエたん?じゃなくて、黒髪の」
「なんか変態っぽいからロリ女優はやめなさい。マチルダのことでしょ?」
どこでこういう失礼な言い回しを覚えてくるんだか…。
「そうそう、マチルダっぽい子が歩いてたの。チョーカーってなかなか見ないし人間が首輪するのも変だよなぁって。そしたら『何見てるの?』って声掛けられちゃった。ビックリしたよ」
テヘペロみたいな感じで話してるけど、他人をジロジロ眺めるのは良くないからね。
「で、チャーのことをジロジロ見た後で『また会いましょう』って言ってきたの。フランス語で。二度ビックリだよね」
「私はチャーちゃんがフランス語を知ってることにビックリだよ」
とりあえず軽口を叩いてみたが、見たこともない女の子の「また会いましょう」という言葉に何故かゾクリとした。
班長が潜入捜査に派遣されている中、私達B-3チームは脱法ドラッグの製造現場を押さえることになった。何となくこの前の雪辱戦といった雰囲気で、みんな異様な気合いの入りようだ。
町外れの廃工場で作られている脱法ドラッグ、通称「異世界への扉」は幻覚症状が強く、潜在的なPTSDが多いと言われている米軍兵士の間に急速に広まりつつあるらしい。多幸感が強く依存性が高い割に禁断症状が比較的軽く、ゲートウェイドラッグとして危険視されている。
「早く作った奴の顔を拝みてぇなあ!」
薬物大嫌いなゼンジさんが青筋を立てながら突入準備を進めている。たしかに、密造犯がどんな人物なのか気になる。廃工場でそんなドラッグを作れるのだったら、まともな研究所で薬を作れば人の役に立つ凄い薬が出来るんじゃないだろうか。
作戦はスムーズに進み、いざドラッグ工場に突入してみると、密造犯グループは予想通り3人しかおらず、他に人はいなかった。が、予想外の抵抗に遭った。
「セントリーガンなんて聞いてねぇぞ!ターミネーターか!」
どちらかというとED209じゃないか?などと呑気に妄想している場合じゃない。銃弾の雨が襲ってきている。威力の低い5.56mm弾であることだけが唯一の救いだった。
「畜生!コーディがやられた!」
声が上がったほうを見ると、コーディさんが壁にもたれかかっている。左肩に血が滲み、胸のアーマープレートにも穴が開いている。
「擦り傷だ…!気にするな!」
コーディさんが叫ぶ。見た目はボロボロだけど致命傷は負ってないらしい。
「ウェポンズフリー!オジン、セントリーガンを潰せ!」
「了解」
センサーを潰した筈なのに執拗に弾を吐き続けるセントリーガンを破壊するため、オジン先輩はグレネードランチャーを取り出した。
ポンという情けない発射音と共に榴弾が発射され、数十メートル先で爆発が発生した。
ライフルでは破壊出来なかったセントリーガンを一撃でスクラップに変えた後、敵の反撃は2人のガンマンだけになった。しかし、まだまだ敵には余力があるようで、どう見ても軍用の軽機関銃を景気良く乱射している。
「クソ、ラチが開かねぇ…あ⁈あいつ逃げるぞ!マコ!」
「追跡します!」
ゼンジさん、ブック、オジン先輩はガンマンに貼り付けになっているので、側方支援に回っていた私が唯一フリーの存在だった。1人で逃げ出した薄汚い白衣を着た密造犯を追って廃工場を出る。
「止まれー!逃げられると思ってんのかー!」
不味い、この先は住宅街だ。
交戦規則が更新されたので別に撃っても構わないのだが、流れ弾での二次被害は避けたい。射撃の上手いオジン先輩なら躊躇なく足を撃ち抜いただろう。
犯人を追って全力疾走しているが、息は上がらない。最近気付いたが、アドレナリンが出るような場面では体力が強化されるようになっているらしい。転生する時に女神が言っていた「丈夫な体」というやつだろう。女神様様だな、と考えつつ、M4をガチャガチャ言わせながら走る。
こちらを振り返って白衣を投げ捨てようとした密造犯が足をもつれさせた。チャンス!と思ったのも束の間、住宅が疎らに建つ路地にたまたまいた少女の腕を掴み、盾にするようにして立ち止まった。
少女の首にナイフを突きつけた密造犯が口を開いた。
「来るな!こいつがどうなってもいいのか!」
M4を構えて狙いをつける。人を撃つのは久しぶりだが、躊躇いはない。しかし、少女があのクソ野郎の脳漿まみれになってもいいのかと考えると、引き金を引くべきか迷ってしまった。
と、密造犯が喋りだした。
「何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」
いや、通りがかりの女の子を酷い目に遭わせてるのはお前だからね。ほら、その子も怖がってる…ようには見えないぞ⁈マジか⁈
「俺は剣とファンタジーの世界で科学チートする筈だったのに…何だよこれ!コロナで世界がメチャクチャになって尖閣で戦争とか、何でハードモードになってんだよ」
…全然知らない人には頭のイカれた奴が妄想を吐き出しているようにしか聞こえないけど、事情を知っていると理解できる話だ。こいつ、多分私と同じだ。
「落ち着け、話は聞いてやるからその子を離すんだ」
「俺を馬鹿にしやがって!畜生、騙された…俺は騙されたんだ!」
いよいよこれはやばいかな、と思った時、人質になっている少女が指をパチンと鳴らした。
すると、何故か密造犯の頭に植木鉢が落ちてきた。
脳天に植木鉢がクリーンヒットすると、密造犯はその場に崩れ落ちた。
一体何が起きた…?
解放された少女が薄ら笑いを浮かべている。少女の着けているチョーカーが紫色に光ったように見えた。正直、怖い。下ろしたM4を思わず構え直そうとしてしまった。
少女が口を開いた。
「お久しぶりね、マコ」
「ど、どちら様ですか…?」




