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横田広域警察24時  作者: 魚河岸ボブ
第2章 頑張れ、新任捜査官
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ー ミッションの後始末 Side:班長 ー

 ターゲットの住むアパートに到着し、大家の立ち会いの下、お決まりのフレーズを玄関先で唱えた。

 返事がないことを確認し、ブリーチングの準備にかかる。リズがモスバーグの薬室にスラッグ弾を装填した。大家はフォアアームを操作した際のジャキンという音を聞いて腰が抜けたらしく、物陰に逃げてへたり込んでしまった。マスターキーでもドアが開かないとは、どういうことなのか?ターゲットの行動履歴から、爆発物などのトラップは仕掛けられてないだろうと推定はできているが…。無線からは、道路封鎖チームが不測事態に対処中であることが聞こえてくる。蛇が通行人の目の前に?

 嫌な予感がした。


 ドアノブに手をかけて回してみると、そもそも鍵がかかっていなかった。痛恨のミスだが、反省している暇なんてない。やられた、かもしれない。

「Shit!」

 悪態をつきながらリズがフォアアームを操作し、モスバーグからスラッグ弾を抜く。一流のショットガナーを自負するだけあって、瞬く間にビーンバッグへの再装填を終わらせた。

「Ready」

 リズの合図と同時に室内に踏み込む。

「警察だ、動くな!」「Police! Freeze!」

 室内はもぬけの殻だった。各部屋を丁寧にクリアリングしたが、PC以外にめぼしいものは無かった。


 被疑者を確保できなかったが、PCの押収は大成果だ。ラボで解析すれば、有益な情報が出てくるだろう。発砲せずに済んだのもありがたい。

 PCを携えて早々に引き上げ、リズはデブリーフィングをさっさと切り上げてその日のうちに解析に取り掛かった。


 翌朝、早く来いという催促の連絡を受け取って早朝出勤してみると、充血した目を輝かせながらリズが出迎えた。足早にラボに向かう。


「ハンチョウ、これ見なよ。こいつヤバいよ」

 テロの標的は我が国ではなかった。携帯電話の基地局に使用されている外国製(・・・)のデバイスを片っ端から乗っ取り、「本国」に大量のウィルスを送り込む…悪党ながら感心するヤツだ。

「これは扱いに困りますね」

 シフト明けのラボクルーが肩をすくめてみせた。放っておけば国際問題になりかねない。が…

「解析結果を簡単にまとめてくれ。副長から()に入れてもらう。リズはスーツに着替えを…」

「OK相棒、オメカシしてスタンバイだね。待ってろよ先生ども!」

 寝不足でハイテンションになっているリズに缶コーヒーを渡し、オフィスに走った。


 数時間後、呼び出しの電話が鳴らなかった代わりに署長室に呼び出され、新たな任務を与えられた。楽勝だが非常に機微なミッションだ。

 とりあえずリズを帰らせることにした。任務は明日からでも遅くない。


 横田広域警察は、与えられた任務なら何でもこなす。カウンターテロ、人質救出、情報収集…任務は多岐に渡る。そういう目的の為に作られた。

 今回の任務は簡単ではあるが、なにしろ大袈裟にしてはいけない。現場に派遣されるのは1人だけ、なるべく周囲にも姿を見られないように。そしてターゲットの確保。バレないようにするのが最優先だ。

 携行できる武器も限られる。アクセサリーを付けていない1911をコンシールホルスターに差し、予備弾倉は1本のみ。ロープロファイルの警護任務でも腰のベルトにP239と弾倉をズラリと巻いている同盟国のエージェントが羨ましい。とはいえ、今回の相手はおそらく武装していないからそこまで心配はしていない。彼の武器は、知識とコンピュータだ。


 データによると、彼は大陸から留学中の貧乏学生で、一見怪しいところはない。作り物のような潔白な人物。つまり、ひねくれ者の捜査官なら一発で怪しいと気付くだろう。実態は、大規模サイバー攻撃を一人で起こそうとしている天才だ。

 サイバーインテリ野郎の火遊びで我が国がトバッチリを受けることは是非とも避けたい。…サイバー分野での未熟さを力技で解決するのはスマートさに欠けるが、今更言っても仕方がない。この国の平和ボケと慢心と怠惰が生んだ自業自得。

 それに、奴等(・・)が気付いて動く前に身柄を確保し、色々と情報を得たい。


 張り込み先へはバスと徒歩で向かった。周囲に溶け込み、風景に同化する。大丈夫、バレてない。勿論、尾行されている気配もない。

 数日を市井の一人として振る舞い、住民の中に埋没し、気配を消す。路肩の石ころのように存在感を隠す。そうして完全に景色と同化した頃、幾重にも監視網がかけられている年季の入ったボロアパートに乗り込んだ。

 潜伏先には丁度良かったのだろうが、手の込んだ偽装身分証が仇になり、居所はバレバレだった。あとは玄関をノックし、踏み込むだけだ。

「こんにちはーN◯Kの者です」

 玄関に出てくるまでしつこく粘る。ようやく出てきたところでドア越しに手を掴む。身分証を見せながら簡単に状況を告げる。

「安全は保証してやる。お前の知ってること、やってる事を全部話せ。このままだとあいつら(・・・・)に消されるぞ」

 観念した顔で男はドアチェーンを外した。


 室内にはラップトップとデスクトップが1台ずつ置かれていた。貧乏学生にしては上等なものだ。とりあえず一方的に嫌疑をかけられている違法行為と今後の流れ、個人の権利について説明する。

 説明が終わると、若者が顔を紅潮させながら身の上話を始めた。


 曰く、少数民族出身の彼の一家は両親を不当に逮捕されて離散、極貧の少年時代をどうにか生き残り、唯一の娯楽だったネットカフェで知り合った友人の支えもあって、ほぼ独学でICT関連知識を習得した。その友人は実は活動家のメンバーであり、少年は政府に復讐することを決意して必死に勉強し大学に進学、もはやIT後進国となった日本で市場開拓するノウハウや、辛うじて現存するハードウェア開発技術を得るために留学を決心した。

 祖国の民主主義弾圧や他国への強面外交を繰り返す様子を見ているうちに、早急に事を始めたほうがいいと判断し、単独で活動しだした…生い立ちこそ同情したくなるストーリーだが、だからと言って我が国が巻き込まれていい理屈はない。


 奴等は口実さえ見つかれば執拗に喰らいつき、ハイエナのような自国の行動を正当化し、いずれ資源や利益を奪い尽くす。この自己陶酔に浸ったサイバーパンク野郎を今すぐどうにかしないと、日本からの攻撃と判断されるか、日本に対処能力なしと口実をつけて彼の国が我が国のサイバー防衛態勢に干渉してくるのは明白だった。


「で、言いたいことはそれだけか。貴様の話なんて知ったことか」

冷たく言い放つと、一瞬で表情が固まった。

「あいつらに俺達が蹂躙されるキッカケを作る訳にはいかないんだ。ワッパはめて一緒に来るか、今ここで鉛弾を食って眠りにつくかのどちらかだな」

 高圧的な態度を取ると、青年は観念したようだ。YPDの荒っぽい捜査手段は、尾鰭背鰭が付いてアングラ業界でも有名らしい。俺はこの国の子供達にコイツのような不幸な思いをさせたくないだけだ。悪気がある訳ではない。勿論必要がなければ発砲もしたくない。報告書作成が面倒になる。


 両手を差し出した青年の手首にナイロンカフを巻き付ける。

「賢明な判断だ。生きていればチャンスはあるんだ。いいか、わかるな?」

 悪そうな笑みをつい浮かべてしまった。正直な話、こいつは有能で、有益だ。


 今回は硝煙臭い仕事ではなかったので、いつもとは違った満足感を得ることができた。所轄に覆面パトの派遣依頼を済ませ、深呼吸をひとつ。まだ自分に人間らしい心があることを実感できたのは大きな収穫だった。

 帰ったら一杯やろう。この国の行く末に不安を感じるのは、今夜じゃなくていい。…そんなとりとめのないことをボンヤリと考えながら、到着した迎えの車に青年を押し込んだ。


 さて、仕事はまだまだ残っている。

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