あとがき
最後まで『めぐる季節は麦の道』をお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語を書き始めたとき、私の中にあったのは「大きな事件はなくても、人の心を動かす物語は作れる」という思いでした。
主人公は七歳の麦人と、七十二歳の祖母・恵子。
年齢は六十五歳も離れていますが、二人が並んで歩くと、不思議と同じ速さで季節が流れていきます。
春に桜を見上げ、初夏にホタルを待ち、秋に実りを分け合い、冬に雪を踏みしめる。
そんな何気ない一日一日こそ、あとになって人生の宝物になるのではないでしょうか。
恵子は特別な魔法使いではありません。
けれど、風の匂いで季節を感じ、人の表情から心を思い、花や野菜にも「おはよう」と声をかけます。
まるでジブリ作品に出てくるような、不思議だけれどどこか本当にいそうな人。
そんな恵子を通して、「自然と一緒に暮らす豊かさ」や「急がない時間の美しさ」を描きたいと思いました。
そして麦人は、少し理屈っぽくて、調子に乗ることもある普通の小学二年生です。
だからこそ、読者の皆さんにも、自分の子どもの頃や、お孫さん、あるいは身近な子どもの姿を重ねてもらえたなら、とてもうれしく思います。
この一年で、麦人はたくさんのことを教わりました。
でも、それは「教え込まれた」のではありません。
恵子と笑い、歩き、食べて、待って、季節を感じる中で、少しずつ心に積み重なっていったものです。
人は誰かの言葉だけでは変われません。
誰かと過ごした時間が、その人を育てていくのだと思います。
私は、季節は人を育てる先生でもあると信じています。
毎年同じように巡ってくる春も、去年とは違う春です。
それは景色が変わるからではなく、私たち自身が少しずつ変わっているから。
だから、何度見ても桜はきれいで、何度聞いても風の音は新しく感じられるのでしょう。
この物語を読み終えたあと、もし皆さんが外へ出て、空を見上げたり、風の匂いを感じたり、大切な人の顔を思い浮かべたりしてくださったなら、それ以上にうれしいことはありません。
そして、皆さんの人生にも、恵子のような人がいますように。
あるいは、誰かにとっての恵子になれますように。
季節は巡ります。
人もまた、巡り会います。
その巡り合いを大切にしながら、今日という日を、自分の歩幅で歩いていけますように。
またどこかの物語で、お会いしましょう。
心からの感謝を込めて。
まーサンタ




