第八話「偽りの黄金」
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ハッサンの隊商に加わって、十日が過ぎた。
東へ向かう道は、西とは違った。
砂が増えた。風の色が変わった。昼は熱く、夜は冷えた。星が近かった。空が広かった。地平線まで何もない場所を、隊商の列が一本の糸のように進んでいった。
ミナはその景色の中で、何度も立ち止まりたくなった。
「歩け」とハルが後ろから言った。
「分かっています」
「分かっていても止まる」
「こんな空を見たことがなかったから」
ハルはミナの隣に並んだ。同じ空を見た。
「慣れる」と言った。
「慣れたくない」とミナは言った。「慣れてしまったら、感じなくなる」
ハルは少しの間、空を見ていた。
「慣れても感じる」とハルは言った。「何度見ても、この空は毎回違う」
ミナはハルを見た。
商人が、こういうことを言う。
「旅を長くしているから」とミナは言った。
「そうかもしれない」とハルは言った。「ただ——父が失踪してから、景色を見る目が変わった気がする。何かを探すために見るようになった。父がここにいるはずだ、この先にいるはずだ、と思いながら、どこへ行っても空を探していた」
「見つかりましたか」
「見つかった」とハルは言った。「思っていた場所とは違う場所で。廃坑の奥に」
ミナは前を向いた。
隊商の列が、砂漠の中を進んでいた。
「ハルさん」とミナは言った。「一つ聞いていいですか」
「何だ」
「父親を見つけた後、どうするつもりですか」
ハルはしばらく答えなかった。
「考えていなかった」とやがて言った。「十五年間、父を探すことだけを考えていた。見つけた後のことは、頭になかった」
「これからは」
「これからは——」ハルは砂漠を見た。「まだ分からない。ただ、この旅が終わっても、止まる気にはなれない」
「なぜ」
ハルはミナを見た。直接、目を見た。
「お前がいるから」と言った。それだけだった。
ミナは前を向いたまま、少しだけ顔が熱くなるのを感じた。
砂漠の風が吹いた。乾いた、熱い風だった。
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問題は、十二日目の夜に起きた。
ハッサンが、ミナとハルを天幕に呼んだ。
表情が、いつもと違った。笑い皺の深い顔が、今夜は固かった。
「話があります」とハッサンは言った。
「何ですか」とミナは聞いた。
「隊商の中に、よくない者が混じっているようです」
ハルが目を細めた。「誰だ」
「まだ特定できていない。しかし、金のかけらのことを知っている者がいる。どこかで聞いたのか、この隊商に入る前から知っていたのか——あなたたちを監視している者がいます」
「領主の手の者か」とハルは言った。
「それだけではないかもしれない」とハッサンは言った。「領主の利害だけではなく、金そのものを狙っている者がいる。金のかけらを手に入れようとしている」
「誰が指示しているんですか」とミナは聞いた。
「分かりません。ただ——」ハッサンは少しの間、躊躇った。「ソフィア様に、確認したいことがあります」
ミナとハルは同時に、ソフィアを見た。
ソフィアは天幕の端に座っていた。ハッサンの言葉を聞いていた。表情は動かなかった。
「聞いてください」とソフィアは言った。自分から。
「ソフィア様が北の都市を出られる前、ある商人から接触があったと聞きました」とハッサンは言った。「金の専門家として知られる、東方の仲介商人から。その商人は、ソフィア様が持っている金のかけらに興味を持っていると」
「本当ですか」とハルは言った。ソフィアに向かって。
ソフィアは答えなかった。
しばらく沈黙があった。
「接触があった」とソフィアはやがて言った。「ただし、私はその申し出を断った」
「断った」
「断った。でも——それがここまで追いかけてくるとは思っていなかった」
ハルはソフィアを見ていた。何かを測るような目だった。
「本当に断ったのか」
「断った」とソフィアは言った。声は静かだった。しかし奥に、何か複雑なものがあった。「ハル、私はあなたたちを売るようなことはしない。それだけは信じてほしい」
「信じている」とハルは言った。「ただ、全部を話していないことも分かる」
ソフィアは口を閉じた。
ミナはソフィアを見た。
「ソフィアさん」とミナは言った。「話してください。判断するのはそれからでいい」
ソフィアはミナを見た。
長い間があった。
「その商人は」とソフィアはやがて言った。「私の商会に、多額の負債がある者です。私の商会が傾けば、その者も困る。だから金のかけらを使って、商会の立場を有利にしようとした」
「あなたを利用しようとした」
「そうだ。しかし私は、あの金のかけらが単なる金ではないことを知っていた。ハルの父親の形見だと知っていた。だから断った」
「それだけですか」
ソフィアはまた黙った。
「……それだけではない」とやがて言った。「断った後、その商人が言った。金のかけらを持って東へ行く者がいれば、それを追え、と部下に命じた。あなたたちを尾けさせていたのは、その商人の手の者です」
「ソフィア」とハルは言った。「なぜ最初から言わなかった」
「言えなかった」とソフィアは言った。「私の商会の問題を、あなたたちに持ち込みたくなかった」
「持ち込まれてもいい」
「ハル——」
「俺は商人だ。こういう話は慣れている」
ソフィアは黙った。
「あなたが抱えてきた問題を」とハルは言った。「一人で抱えさせてきた。それは俺の落ち度だった」
天幕の中が静かになった。
ハッサンが静かに立ち上がった。「少し外を見てきます」と言って、出ていった。
三人が残された。
「分かった」とハルはソフィアに言った。「その商人への対処は、俺が考える。お前はこれ以上一人で抱えなくていい」
ソフィアは下を向いた。
「ハル」とソフィアは言った。声が、かすかに変わった。「ごめんなさい」
「謝らなくていい」
「謝りたい」
ハルは何も言わなかった。
ミナはそっと天幕を出た。
二人の時間があると思った。
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外は夜の砂漠だった。
星が降るように出ていた。
ミナはマティアスの天幕を訪ねた。
老人は起きていた。燈籠の前で、何か書いていた。
「師匠」とミナは言った。「隊商の中に、尾けている者がいるそうです」
「知っている」とマティアスは言った。
「知っていたんですか」
「三日前から気づいていた。ただ、まだ動く必要はないと判断した」
「なぜ」
「隊商の外に出るより、中にいる方が安全だからだ。砂漠で単独行動は危ない」
ミナは師匠の傍に座った。
「師匠」とミナは言った。「聞いていいですか」
「どうぞ」
「師匠は、ヴァルターさんが坑道に消える前から、あの廃坑のことを知っていたんですか」
マティアスは書く手を止めた。
「そうだ」と言った。
「なぜすぐに行かなかったんですか。ヴァルターさんが消えてから、十五年も経っている」
老人は燈籠の炎を見た。
「怖かった」とやがて言った。
「師匠が?」
「わしもヴァルターと同じように、引き込まれるかもしれないと思った。ヴァルターが消えたと分かった時、わしは——」マティアスは少し間を置いた。「先に行くことを恐れた」
「先に行く」
「金の記憶の先を、見ることを。ヴァルターが見られなかった東の部分を。それを見てしまったら、元には戻れない気がした」
ミナはマティアスを見た。
師匠がこんなことを言うのは、初めてだった。
「でも来た」とミナは言った。
「お前が弟子になったからだ」とマティアスは言った。「一人では来られなかった。しかし——お前のような者が来てくれれば、と思った」
「私のような者、というのは」
「見える者だ」とマティアスは言った。「金の匂いに、感じる者。あの坑道で感じたものを、感じられる者。そういう者と一緒であれば——引き込まれても、引き戻してもらえる気がした」
ミナは師匠の横顔を見た。
老人が、急いでいた理由が分かった気がした。
「師匠は、体の具合が悪いんですか」とミナは聞いた。
マティアスは少しの間、黙っていた。
「悪くはない」と言った。「ただ、長くはない」
「どのくらい」
「分からない。一年か。あるいは半年か」
砂漠の夜風が、天幕を揺らした。
「東へ着く前に」とミナは言った。声が少し震えた。
「そこは分からない」とマティアスは言った。「しかしミナ、お前に言っておきたいことがある」
「何ですか」
「金の本質は、わしにはまだ分からない。ヴァルターが見た記憶の一部しか、わしは知らない。しかし——」老人は書いていた紙をミナに渡した。「これまでわしが集めた全ての記録だ。東へ着いた時、お前が必要とするかもしれない」
ミナは紙を受け取った。
びっしりと文字が書かれていた。師匠の筆跡で。
「師匠と一緒に見ます」とミナは言った。
「そうできればいい」とマティアスは言った。「しかし——」
「師匠」
「うん」
「約束はできませんか。東へ着くまで」
マティアスはミナを見た。
老人の目が、燈籠の光を受けて揺れていた。
「約束する」と言った。「東へ着くまでは」
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翌朝、隊商の中から一人が姿を消した。
ハッサンが調べると、その者の荷の中に、金のかけらの絵が描かれた紙が見つかった。何者かへの報告書だった。
「逃げた」とハルは言った。
「情報を持ち帰ったということだ」とハッサンは言った。「先回りされる可能性がある」
「どのくらいで東の港に着きますか」
「順調なら、七日」
「急げるか」
「隊商の足では限界がある。しかし——」ハッサンは少し考えた。「先行する小隊を出すことはできる。荷を減らして、早く動ける者だけで先に行く」
ハルはミナを見た。
ミナは頷いた。
「行きましょう」と言った。
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(第八話 了)




