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黄金伝――砂の唄  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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第六話「血の金」


---


東へ向かう道は、一本ではなかった。


五人は村を出た。ヴァルターはまだ足が不安定だったが、馬に乗ることはできた。ソフィアの商会の馬車が、食料と資材を積んで後に続いた。


最初の三日は順調だった。


問題は四日目に起きた。


---


街道の途中に、検問があった。


兵士が十数人、道を塞いでいた。旗には領主の紋章があった。ソフィアが顔色を変えた。


「北の領主の兵だ」と彼女は囁いた。


「見逃してくれないか」とハルは言った。


「賄賂を積んでも通れないかもしれない。坑道のことを知っている可能性がある」


馬車が止まった。


兵士の一人が近づいてきた。隊長格の男で、目つきが鋭かった。


「商会の者か」と言った。ソフィアに向かって。


「そうです」とソフィアは答えた。声が落ち着いていた。


「荷を確認させろ」


「どうぞ」


兵士たちが荷台を開けた。食料と、衣類と、道具類が出てきた。目立つものはなかった。しかし隊長は満足しなかった。


「この者たちは何者だ」と今度はミナたちを見た。


「雇った案内人です」とソフィアは言った。


「錬金術師もか」


マティアスを指していた。


「薬草の知識がある老人を雇った。旅には役立つ」


隊長は老人を見た。マティアスは穏やかな顔をしていた。旅慣れた老人の、何も隠していない顔をしていた。


「通れ」と隊長は言った。


しかし通れなかった。


隊長の後ろにいた兵士の一人が、ヴァルターを指した。


「その男は」と言った。「顔に覚えがある」


ヴァルターが固まった。


「見間違いではないか」とハルが言った。


「違う。十五年前、この領地で問題を起こした錬金術師がいた。その男と顔が似ている」


十五年前。


坑道に消える前のヴァルターは、この地域で何かをしていたのだろう。ミナには分からなかった。しかし兵士が覚えているということは、小さな問題ではなかったはずだ。


「父ではない」とハルは言った。「旅の途中で拾った病人だ」


「拾った?」


「街道で倒れていた。このまま置いていくわけにもいかないので」


隊長は目を細めた。


ミナは状況を測った。逃げることはできなかった。馬車より早く動ける馬が、兵士たちにはある。戦うことも無理だった。数が違いすぎる。


「一つ、聞いてもいいですか」とミナは隊長に言った。


隊長がミナを見た。


「北の領主様は、今どちらにおられますか」


「何だと」


「取引をしたい、と申し上げたい。この商会は今、領主様との問題を抱えているようです。それを解決する手立てを、私は持っているかもしれない」


「お前が何を持っているというんだ」


ミナは懐から、ヴァルターの金のかけらを取り出した。手のひらの上に乗せた。


昼の光の中で、小さな金のかけらが輝いた。


「これは、ただの金ではない」とミナは言った。「これがどこから来たか、どんな意味を持つか——それを持って、領主様に直接話をしたい」


隊長は金のかけらを見た。目の奥が動いた。


「隊長」と後ろの兵士が言った。「どうしますか」


「本部へ連れていく」と隊長は言った。


---


領主の本拠は、半日の距離にある城だった。


五人は城へ連れて行かれた。牢ではなく、客間に通された。それだけで、隊長に判断力があることが分かった。


ミナはハルに囁いた。「ここで時間が取れる。その間に、何かできることはありますか」


「できるかどうか分からない」とハルは言った。「しかしソフィアなら、交渉を有利に進める方法を知っているかもしれない」


ソフィアはすでに部屋の中を見回していた。


「この城の構造から、領主の財政が分かる」と彼女は言った。「修繕していない箇所が多い。金に困っている。金に困っている権力者は、金の話に弱い」


「ではどう話す」とハルは言った。


「金の流通を押さえるより、商会と組んだ方が儲かる、と話す」ソフィアは窓の外を見た。「金は止めるものではない。動かすものだ。それを、領主に教えてあげる」


「上手くいくか」


「上手くいかなければ、別の手を考える」ソフィアは振り返った。「ハル、あなたには得意なことがあるでしょう。人から話を聞き出すことが」


「それを使えということか」


「領主の側近に会えれば、何か分かる。城の者を懐柔できれば」


ミナはヴァルターを見た。老人は疲れた顔で椅子に座っていた。


「大丈夫ですか」とミナは聞いた。


「問題ない」とヴァルターは言った。「ただ——この状況は、金の記憶で見た光景に似ている」


「どんな光景ですか」


「古代から中世まで、ずっと繰り返されてきた光景だ。金を持つ者と、金を求める権力者の間で、人間が挟まれる。金は人を動かし、人は金のために動き、最終的に血が流れる」


「血が流れるんですか」とミナは言った。


「歴史では、そうなってきた」ヴァルターは静かに言った。「しかし——必ずそうなるとは限らない。金の記憶が見せてくれたのは、歴史の結果だけではなかった。そうなりかけて、ならなかった場面も、あった」


「ならなかったのは、なぜですか」


「誰かが別の方法を見つけたからだ」ヴァルターは目を細めた。「金そのものではなく、金が何を意味するかを語った者がいた。そういう者が出てきた時だけ、血は流れなかった」


ミナは手の中の金のかけらを見た。


ハルに向かって言った。「領主に会う前に、一つだけ決めておきたいことがある」


「何だ」


「私たちは、この金のかけらを何だと言うか」


ハルは金のかけらを見た。


「本当のことを言うのか」


「本当のことを言える形で、言う」とミナは言った。「嘘は使わない。しかし全部を話す必要もない」


「それができるか」


「やってみます」


ハルはミナを見た。何かを測るような目だった。しかしそれは、初めて会った時の値踏みとは違う目だった。


信じてみるかどうか、迷っている目だった。


「分かった」とハルは言った。「お前に任せる」


---


翌朝、領主との面会が決まった。


領主は四十代の男で、疲れた顔をしていた。権力者の顔ではなく、追い詰められた商人の顔をしていた。ソフィアの読みは正しかった。


ミナは金のかけらを、領主の前の卓に置いた。


「これは」と領主は聞いた。


「何千年も前から人間の手を渡り歩いてきた金です」とミナは言った。「どこで生まれ、誰の手を経て、今ここにあるか——その記憶を持った金です」


「記憶を持った金」


「金は消えません。溶かされても、打ち直されても、金は金のままです。人間は死にますが、金は残ります。人間の手を渡り歩きながら、その時代の記憶を積み重ねてきた」


領主はミナを見た。


「それが、どうした」


「領主様が金の流通を押さえようとしているのは、金を力の源にしようとしているからです」とミナは言った。「それは正しい。しかし、金を止めると、金の力は死にます。金の力は動くことにあります」


「商人と同じことを言う」


「商人は正しいことを言っています」とミナは言った。「ただ、商人には言えないことを、私は言えます」


「何だ」


ミナは金のかけらを持ち上げた。


「この金のかけらを、領主様に差し上げます。条件は一つ。私たちを東へ向かわせてください。そしてこの商会を、今まで通り動かしてください」


「なぜそれに従わなければならない」


「金の記憶が、教えてくれているから」とミナは静かに言った。「金を止めた権力者は、歴史の中で必ず滅んでいます。金を動かし続けた権力者だけが、長く続いています。どちらを選ぶかは、領主様が決めることです」


部屋が静かになった。


領主は金のかけらを見ていた。


長い沈黙があった。


「行け」と領主はやがて言った。「商会のことも、今回は目を瞑る」


「ありがとうございます」


「ただし——東へ行って何を見つけても、それを俺に報告しろ。それが条件だ」


ミナはハルを見た。ハルは小さく頷いた。


「承知しました」


---


城を出た後、ハルはミナに言った。


「上手くいったな」


「上手くいったかどうか、まだ分からない」とミナは言った。「領主が約束を守るとは限らない」


「でも、今日は血が流れなかった」


「ヴァルターさんの言葉のおかげです」とミナは言った。「金を止めた者は滅ぶ、というのは——本当のことですか」


「本当のことだよ」とヴァルターが後ろから言った。「ただ、金の記憶が見せてくれたのは、もう少し複雑なものだった」


「どう複雑なんですか」


「金を止めた者が滅んだのは事実だ。しかし金を動かし続けた者が幸せだったかというと——そうとも言えない場合もあった」


ミナは歩きながら、その言葉を考えた。


「では、金とはどうすべきものなんですか」


「それが、私にはまだ分からない」とヴァルターは言った。「だから、東へ行く必要がある」


街道が、東へ続いていた。


地平線の向こうに、まだ見ぬ場所があった。


金の記憶が、その先を示していた。


---


(第六話 了)


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