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黄金伝――砂の唄  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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第五話「砂漠の神殿」


---


ヴァルターは目を開けた。


まず天井を見た。石の天井を。それからゆっくりと、周囲を見回した。台座を。品々を。燈籠の光を。


最後に、ハルを見た。


「ハル」とヴァルターは言った。声がかすれていた。十五年間、使っていなかった声だった。


「父さん」とハルは言った。


それだけだった。それ以上の言葉が、すぐには出なかった。


ミナは少し離れて、二人を見ていた。


ソフィアが隣に来た。声を出さずに、二人を見ていた。その目が、少し光っていた。


マティアスは広間の隅で、静かに座っていた。


老人の顔に、深い安堵があった。そして何か別のもの——これで終わりではない、という緊張が、安堵の下にひっそりとあった。


---


ヴァルターは水を飲み、パンを食べ、それからゆっくりと話し始めた。


「どのくらいだ」と最初に聞いた。


「十五年です」とハルが答えた。


ヴァルターは目を閉じた。


「そんなに」と言った。声に後悔があった。「お前を一人にしてしまった」


「今は関係ない」とハルは言った。「何があったのか、話してください」


ヴァルターは広間を見渡した。


「ここに入った時、見えたものがあった」と言った。「金の記憶が。人間が金と共に生きてきた、全ての時間が。一度に流れ込んできた」


「金の記憶」とミナは言った。


「そうだ」ヴァルターはミナを見た。初めてじっくりと見る目だった。「あなたがマティアスの弟子か」


「はい。ミナといいます」


「よく似ている」とヴァルターは言った。「昔、マティアスに話していた——いつか来るはずの二人に」


マティアスがヴァルターを見た。「お前、それを知っていたのか」


「うすうすは」とヴァルターは言った。「だからこそ、急いだ。急ぎすぎた」


ミナはハルを見た。ハルも、ミナを見た。


「私たちのことを、知っていたんですか」とミナはヴァルターに聞いた。


「知っていたわけではない」とヴァルターは言った。「しかし古い記録に、繰り返し出てくる。金の記憶が最も深い場所に触れる時、必ず二人が揃っている。男と女が。それが何度も記録されていた」


「金の記憶に、見えたものを教えてください」とミナは言った。


ヴァルターは少し考えた。


「全部を話すことはできない。膨大すぎる。しかし——最初に見えたものは、砂漠だった」


---


砂漠、とヴァルターは言った。


古い砂漠だった。何千年も前の。


そこに神殿があった。石の神殿で、柱が林立していた。神殿の奥に、光があった。金の光だった。


「エジプトの神殿だ」とヴァルターは言った。「ファラオの時代の。金はそこで神のものだった。人が触れることを許されないものだった。ファラオだけが金を纏うことができた。なぜなら、ファラオは神の代理だったから」


「金が神のものだった」とミナは言った。


「そうだ。しかし人間は欲する。神のものを欲する。それが全ての始まりだった」ヴァルターは目を閉じた。「金の記憶の中で、砂漠の神殿が崩れていく場面を見た。外から来た軍隊が神殿を壊し、金を持ち去った。ファラオは死に、神の代理は消えた。しかし金は残った。人の手から手へ渡りながら」


「金だけが残る」とハルは言った。「人は消えても」


「そうだ」とヴァルターは言った。「金の記憶の中で見た一番古い光景は、それだった。崩れていく神殿と、運ばれていく金と——そして金が運ばれながら映していた、無数の人間の顔」


広間が静かだった。


マティアスが口を開いた。「その神殿の金は今どこにある」


「分からない」とヴァルターは言った。「何千年もかけて、無数の手を渡り歩いた。今も世界のどこかにある。形を変えながら。金は溶かされ、打ち直され、別のものになる。しかし金そのものは消えない」


「金は消えない」とミナは呟いた。


「そうだ」ヴァルターは目を開けた。「それが金の本質だ。マティアス、お前も分かっていただろう」


マティアスは頷いた。


「消えないものを人間は欲する」と老人は言った。「自分が消えるから。消えない何かを手に持つことで、自分の消えなさを信じようとする」


「だから金を求める」


「そうだ。金を持てば、永遠に近づける気がする。権力者も、商人も、貧しい者も、みな同じだ」


ソフィアが静かに言った。「それは、間違っているんですか」


全員がソフィアを見た。


彼女は平静な顔をしていた。しかし声の奥に、真剣な何かがあった。


「金で生きている私が聞くのは変かもしれない。でも——金を求めること自体が間違いだとは、私には思えない」


ヴァルターはソフィアを見た。しばらく見ていた。


「あなたは」とヴァルターは言った。「誰ですか」


「ハルの幼馴染です。ソフィアといいます」


「ソフィア」ヴァルターは繰り返した。「間違いではない、と私も思う。ただ——」


「ただ?」


「金の記憶が教えてくれたのは、金そのものへの欲望は人を盲目にする、ということだった。神殿を壊した軍隊も、金が欲しかったわけではない。権力が欲しかった。金はその手段だった。しかし金を手に入れた後、何が残ったか」


「何が残りましたか」


「廃墟と、死者の名前だけが残った」ヴァルターは椅子から立ち上がろうとした。ハルが支えた。「ありがとう」と父は息子に言った。「立てる」


「無理しないでください」


「十五年寝ていた。もう十分だ」


ヴァルターはゆっくりと立ち上がった。足が不安定だったが、ハルが支えた。


「この話の続きは、外でしよう」とヴァルターは言った。「砂漠の神殿の話だけではない。金の記憶には、もっと多くのものがあった。お前たちに伝えなければならないことが、まだある」


「なぜ私たちに」とミナは言った。


ヴァルターはミナを見た。


「あなたたちが、封印を開けた。ということは、あなたたちがその先へ行く者だということだ」


「その先、とは」


「まだ見ていないものがある」とヴァルターは言った。「金の記憶の中に、私が見られなかった部分がある。私は途中で引き込まれてしまったから。その先を、見なければならない」


「誰が」


ヴァルターはミナとハルを交互に見た。


「二人が」と言った。


---


坑道を出ると、夜だった。


星が出ていた。


ヴァルターは星空を見上げた。十五年ぶりに見る夜空を、しばらく眺めていた。


「変わらない」と言った。


「何が」とハルは言った。


「星が。どれほど時間が経っても、星は変わらない」


ハルは父と並んで、空を見た。


ミナは少し離れて、同じ空を見た。


金属の匂いが、夜風の中にかすかにあった。


坑道からではなく、空の向こうから来るような匂いだった。


「金は星と同じものでできている」とミナは言った。


「そうだ」とヴァルターが言った。「古い星が死ぬ時、金が生まれる。金は星の死骸だ。だから消えない。星は死んでも、金という形で残り続ける」


「父さんが子供の頃に話してくれた」とハルは言った。「星と同じもの、という話を」


「覚えていたか」


「忘れない」


ヴァルターはハルを見た。息子の顔を、十五年ぶりに見た。


「大きくなった」と言った。


「当たり前です。十五年経ったんだから」


ヴァルターは笑った。かすれた、しかし確かに笑った声だった。


「その先へ行く前に」とミナはヴァルターに言った。「教えてください。金の記憶の中で、あなたが見られなかったものは何ですか。どこで途切れましたか」


ヴァルターは表情を変えた。


笑いが消えた。何か重いものが、その顔に戻ってきた。


「東だ」と言った。「金の記憶が東へ向かった時に、引き込まれた。遠い東の果て。金が大量にあると伝えられた、島の国の話になった時に」


「東の果て」とマティアスが言った。「黄金の国のことか」


「そうだ」とヴァルターは言った。「ジパング。金でできた宮殿がある国の話が始まった瞬間に——私は眠らされた」


風が吹いた。


荒地を渡る風が、砂を運んでいた。


「東へ行かなければならない」とミナは言った。


誰も反論しなかった。


---


(第五話 了)


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