第四話「東方の道」
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封印が、動いた。
ハルが金のかけらを岩に当て、ミナが両手を添えた瞬間だった。
音はなかった。光もなかった。ただ、重さが消えた。あれほど固く閉じていた岩が、まるで最初から扉だったように、すっと内側へ傾いた。
四人は息を呑んだ。
岩の向こうに、空間があった。
狭い通路が続いていた。壁は古い石積みで、人の手で丁寧に作られたものだった。坑夫たちの作業ではない。別の誰かが、別の目的で掘った通路だった。
「行こう」とミナは言った。
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通路の先は、広間だった。
天井が高く、壁に沿って台座が並んでいた。台座の上には、それぞれ何かが置かれていた。石の器、金属の板、丸めた羊皮紙。長い年月をかけて埃をかぶっていたが、腐っていなかった。密閉されていたからだろう。
中央に、一人の人間が座っていた。
椅子に腰かけ、胸の前で手を組んで。眠っているように見えた。
「父さん」とハルが言った。
声が震えていた。
ミナは足を止めた。
それは確かに人間だった。しかし十五年、閉じられた空間の中にいた人間が、このような状態でいられるはずがなかった。
「生きているのか」とソフィアが囁いた。
マティアスが前に出た。老人はヴァルターの傍まで近づき、顔を覗き込んだ。しばらく見ていた。
「生きている」とマティアスは言った。「息をしている。ただ——」
「ただ?」
「眠っている。深く。何かに引き込まれて眠っている」
ハルは父の傍に膝をついた。肩を揺すった。起きなかった。名前を呼んだ。起きなかった。
「なぜこんなことに」とハルは言った。問いかけというより、叫びに近かった。
マティアスは広間を見回した。台座の上の品々を一つずつ、燈籠で照らした。
「ヴァルターは、この場所で何かを見た」と老人は言った。「金の歴史を。人類と金が共にあった時間の全てを。そしてそれに、引き込まれた」
「引き込まれた」とミナは繰り返した。
「金は、記憶を持っている」マティアスは羊皮紙の巻物の前で止まった。「古い錬金術師たちは、それを知っていた。金は宇宙の完成の象徴であり、宇宙が始まってから今まで起きた全てのことを、その内側に刻んでいる。ヴァルターはその記憶に触れ、そこから出られなくなった」
ミナは中央の椅子に座るヴァルターを見た。
穏やかな顔をしていた。苦しんでいるようには見えなかった。夢を見ているような、静かな表情だった。
「引き出せるか」とハルは言った。「父を、そこから引き出せるか」
マティアスは答えなかった。
しばらく広間を歩き回り、台座の品々を見て回った。それから、ミナを呼んだ。
「これを見ろ」
台座の一つに、石の板があった。何かが刻まれていた。ミナには読めなかった。しかしマティアスは、声に出して読み始めた。
「『金の記憶に触れた者を連れ戻すには、外から声をかけなければならない。金の外にいる者が、声をかけ続けなければならない。金の内側にある時間は、外の時間とは異なる。一人では届かない。二人が同じ声で呼ばなければならない』」
ミナはハルを見た。
ハルも、ミナを見た。
「俺たちが」とハルは言った。
「二人で呼べば、届くかもしれない」とミナは言った。
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しかしその前に、問題が起きた。
広間の通路を誰かが来る音がした。一人ではなかった。複数の足音が、坑道の向こうから近づいていた。
ソフィアが顔色を変えた。
「まずい」と彼女は言った。
「誰だ」とハルは立ち上がった。
「領主の手の者だと思う。私を追ってきた」
「追ってきた?」
ソフィアは苦い顔をした。「商会を出る時に尾けられていた。気づいていたけど、撒けなかった。ごめんなさい」
足音が近くなった。
ミナは広間を見回した。出口は通路一本だけだった。逃げ場はない。
「ソフィアさん、領主の手の者は何のためにあなたを追っているんですか」とミナは聞いた。
「金のためよ」とソフィアは言った。「私の商会が扱っている金の出所を調べている。北の領主は、金の流通を国で管理したいと思っている。そのために商会を潰す口実を探している」
「では、この広間を見られたら」
「証拠を掴まれる。錬金術の隠し部屋、未登録の金の品々。それだけで商会を閉めさせるには十分」
マティアスが静かに言った。「出ていくしかない。交渉するしかない」
「交渉できる相手ではない」とソフィアは言った。
「できる」とマティアスは言った。「わしが行く」
「師匠」とミナは言った。
「老いた錬金術師が一人で坑道をうろついていた、で通せる。ミナ、ハル、ここに残れ。ソフィアも残れ。わしが時間を稼ぐ」
ミナは老人を見た。異論があった。しかし師匠の目を見ると、何も言えなかった。
やり慣れた者の目をしていた。危機を、多く経験してきた者の目を。
「気をつけてください」
「気をつけることは得意だ」とマティアスは言った。「若い頃から、逃げることだけは得意だった」
老人は燈籠を持って、通路へ入っていった。
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三人は広間で待った。
声が聞こえた。マティアスの声と、知らない男たちの声が、坑道の向こうから届いた。やり取りがあった。マティアスが何かを言い、男たちが何かを返した。しばらく続いた。
それから、静かになった。
足音が遠ざかった。
「行った」とハルが言った。
しばらくして、マティアスが戻ってきた。息が少し上がっていた。しかし表情は穏やかだった。
「大丈夫でした」とミナは聞いた。
「薬草の採集をしていたと言った。老人が坑道に迷い込んでしまったと言った。信じたかどうかは分からないが、今日のところは引いた」
「今日のところは」とソフィアは言った。
「また来る。時間はあまりない」マティアスはヴァルターを見た。「急がなければならない」
ハルは父の前に戻った。
「どうすれば呼べるんですか」とミナに聞いた。
ミナは石板の刻み文字を、もう一度見た。
「名前を呼ぶだけじゃない」とミナは言った。「同じ声で、というのは——同じことを思いながら呼ぶ、ということかもしれない」
「同じこと」
「坑道で感じた、あの感覚」とミナは言った。「初めて会ったのに知っている気がした、あの感覚。あれを持ったまま、呼ぶ」
ハルは少しの間、ミナを見ていた。
「難しいことを言う」
「難しくはないと思います。昨日も、一昨日も、気づいたらそうなっていたから」
ハルは父を見た。眠り続ける父を。十五年間、この場所で眠り続けてきた父を。
「やってみる」と言った。
ミナは頷いた。
二人は椅子の前に並んだ。
ミナは、あの感覚を思い出そうとした。坑道で金属の匂いを嗅いだ瞬間。丘の上で並んで夕陽を見た時間。古い羊皮紙に書かれた「また、来る」という言葉。
そして、ハルの横顔。
知っている、という感覚。
「ヴァルター」と二人は同時に言った。声が重なった。
広間が、一瞬揺れた気がした。
埃が、天井から落ちた。
台座の上の金属の板が、かすかに光った。
眠り続けていたヴァルターの、まぶたが、ゆっくりと動いた。
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東の商路に、今夜も隊商が行く。
金を積んで。宝石を積んで。どこかの王の財布を満たすために。
しかしその金が何を記憶しているかを、隊商の誰も知らない。知っていたとしても、立ち止まらない。立ち止まれない。
金は動く。人とともに。
人が動く限り、金は動く。
それが世界の仕組みだと、誰もが思っている。
本当にそうなのかどうかは、まだ誰も確かめていない。
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(第四話 了)




