第三話「王の金庫」
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封印は、動かなかった。
二人で岩の前に立った。マティアスが言った通り、ヴァルターの記録に書かれた手順を踏んだ。ミナは左手を、ハルは右手を岩に当てた。
何も起きなかった。
「同じ問いを持っていないということか」とハルは言った。
「問いが何かも、まだ分からない」とミナは答えた。
マティアスは坑道の入り口側に立って、二人を見ていた。急かさなかった。ただ、待っていた。
「焦らなくていい」と老人は言った。「ヴァルターも、最初は動かなかったと書いている。時間がかかった、と」
「どのくらい」
「三ヶ月」
ミナは岩から手を離した。「三ヶ月、この坑道に通ったんですか」
「毎日ではない。しかし繰り返した」マティアスは少しだけ微笑んだ。「錬金術とはそういうものだ。一夜で何かが変わることはない」
三人は坑道を出た。
夜の荒地に出ると、星が広がっていた。
ミナは空を見上げた。星の光が、地面に薄く届いていた。
「金みたいだ」とハルが言った。
「星が?」
「薄く、遠く、でも確かにそこにある。金と同じだ」
ミナはハルを横目で見た。商人がそういうことを言うのが、少し意外だった。
「父親が言っていたんです」とハルは言った。「金は星と同じものでできている、と。馬鹿げた話だと子供の頃は思っていた」
「馬鹿げてはいない」とマティアスが後ろから言った。「古代の賢者たちも同じことを言った。金は天から来た、と」
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翌日の昼、村に馬車が来た。
商会の紋章が入った馬車だった。屈強な男が二人、御者台に座っていた。荷台には箱が積まれていた。
馬車から降りてきたのは、女だった。
三十代半ばだろうか。黒い旅装に、銀の留め具がついた外套を着ていた。顔は整っていたが、表情に警戒心が張り付いていた。絶えず周囲を測っている目だった。商会の者の目だとミナには分かった。値踏みと計算を同時にやっている目。
女はまっすぐハルの方へ歩いてきた。
「やっぱりここにいた」と女は言った。
「ソフィア」とハルは言った。驚いた様子はなかった。むしろ、来ることが分かっていたような落ち着き方だった。
「三週間も連絡がなかった。心配したでしょう」
「心配はしない。追いかけてくるだろうと思っていた」
ソフィアはハルを一瞥してから、ミナとマティアスに目を向けた。
「この人たちは?」
「錬金術師と、その弟子」
ソフィアの表情がわずかに動いた。計算の色が濃くなった。
「錬金術師、ね」と彼女は言った。「珍しい組み合わせだこと」
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ソフィアが何者かは、その夜すぐに分かった。
宿の食堂を借りて、四人で話した。ソフィアはハルの幼馴染で、今は北の都市で商会を経営しているという。ハルが商人になったのも、もともとはソフィアの商会で働いていたからだった。
「ハルの父親のことは、私も知っています」とソフィアは言った。「ヴァルター様には、子供の頃によくしてもらった。あの方が失踪した時、ハルがどれほど傷ついたか」
「余計なことを言うな」とハルは言った。
「余計なことを言わなければ、私はここまで来なかった」ソフィアは動じなかった。「それより、本題を話しましょう。ハルが父親を探しているのは分かった。それはいい。でも、あなたたちが坑道の封印を開けようとしていることも、村の者から聞きました」
マティアスが目を細めた。
「村の者が話したのですか」
「お金を払えば人は話す」ソフィアはさらりと言った。「封印の先に何があるのか、私には分からない。でも、金の話が絡んでいるなら、私にも関係がある」
「商会として、ということですか」
「ええ」ソフィアは机の上で手を組んだ。「私の商会は今、危ない立場にあります。北の領主が金の流通を押さえようとしている。金の流通を押さえるということは、商会を押さえるということです。もし封印の先に、何か金に関わる重要なものがあるなら——それが知識であれ、実物であれ——私はそれを使いたい」
「使う」とミナは言った。「商売に、ということですか」
「生き残るために、ということです」ソフィアは静かに、しかしはっきりと言った。「きれいごとを言う気はない。私は商人です。知識は使うもの、金は動かすもの。それが私の世界の論理です」
沈黙があった。
マティアスはソフィアを見ていた。
「あなたは正直な人だ」と老人はやがて言った。
「嘘をついても意味がない相手には、正直にする方が効率的です」
「効率的」とハルは苦く笑った。
「そうよ」とソフィアは言った。「ハル、あなたも商人でしょう。分かるはずだけど」
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その夜遅く、ミナはソフィアと二人になった。
宿の廊下で、たまたま鉢合わせた。ソフィアは水を汲みに来たところで、ミナも眠れずに外に出たところだった。
「一つ、聞いてもいいですか」とミナは言った。
「どうぞ」
「ハルを追いかけてきたのは、本当に商売のためだけですか」
ソフィアは少しの間、ミナを見た。
「鋭いわね」と言った。
「そうは見えなかったから」
ソフィアは水を持ったまま、廊下の窓の外を見た。夜の荒地が広がっていた。
「ハルの父親が失踪した後、ハルは変わった」とソフィアはやがて言った。「十五年で、少しずつ遠くなった。商会を離れて、各地を一人で歩き回るようになった。父親を探して」
「ソフィアさんは、それが心配で来たんですか」
「心配というより」ソフィアは少し言葉を選んだ。「あの子が一人でいることが、私には向いていない場所に思えて」
ミナはソフィアを見た。
「ハルのことが好きなんですか」
ソフィアは答えなかった。しばらく、窓の外を見ていた。
それから、「古い話よ」と言った。それだけだった。
ミナは何も言わなかった。
廊下が静かだった。遠くで、夜の虫が鳴いていた。
「あなたは」とソフィアが言った。「ハルのことを、どう思っているの」
「まだ三日しか経っていない」
「三日で十分よ。それくらいのことは分かる」
ミナは少しの間、考えた。
「分からないです」と正直に言った。「知っている気がするのに、知らない。昔から会っていた気がするのに、三日前に初めて会った。どちらが本当か、まだ分からない」
ソフィアはミナを見た。
その表情が、少しだけ変わった。計算の色が引いて、何か別のものが出てきた。
「おかしなことを言う弟子ね」とソフィアは言った。
「師匠も同じことを言われます」
ソフィアはかすかに笑った。
「おやすみなさい」と言って、廊下を歩いていった。
ミナはその背中を見ていた。
ソフィアは商人の歩き方をしていた。無駄がなく、目的地へ向かう足取りで。しかし角を曲がる直前に、一度だけ立ち止まった。
何かを考えるような、一瞬の停止だった。
それから、また歩き始めた。
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翌朝、ソフィアの馬車の荷台から、箱が一つ運び出された。
中に何が入っているか、ミナには分からなかった。
しかしハルは、箱を見た瞬間に顔色が変わった。
「それをここに持ってきたのか」とハルは低い声で言った。
「必要になると思ったから」とソフィアは言った。
「何が入っているんですか」とミナは聞いた。
ハルは箱を見たまま、答えた。
「父が残した形見だ。形見というより——手がかりというべきか。父が失踪する前に、ソフィアの商会に預けていったものだ」
「私の父が持っていたもの」
「そう。ヴァルター様が『いつかハルに渡してほしい』と言って預けていった」
ハルは箱の鍵を外した。
蓋を開けた。
中には、小さな金のかけらが一つ入っていた。
金貨でも金塊でもない。不規則な形の、純粋な金のかけらだった。砂粒より大きく、爪先ほど小さい。
「父はこれを、何と言って預けましたか」とハルはソフィアに聞いた。
「『これを持って、光のある場所に行きなさい』と」とソフィアは答えた。
ミナは金のかけらを見た。
小さな、ただの金属の欠片だった。それなのに、目を離せなかった。
「光のある場所」とマティアスが呟いた。老人はいつの間にか傍に立っていた。「坑道の最深部に、燈籠を持って行けということかもしれない」
「あるいは」とミナは言った。「もっと別の光を指しているかもしれない」
全員がミナを見た。
ミナは金のかけらを見続けていた。
「坑道で感じたあの匂い」とミナは言った。「金属の匂い。あれは、光と一緒に来ていた気がします。燈籠の光が岩に当たった瞬間に、匂いが強くなった」
「それは」とハルが言った。
「封印が、光に反応しているということかもしれません」
マティアスが、かすかに目を見開いた。
「ヴァルターの記録に、そのことは書いていなかった」と老人は言った。「しかし——」
「試してみましょう」とミナは言った。
ハルは金のかけらを箱から取り出した。手のひらに乗せた。小さな欠片が、朝の光を受けて輝いた。
「行こう」とハルは言った。
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(第三話 了)




