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何もない日、恋しくなる?

朝、教室に入ると、

冷房が少し効きすぎていた。


外は真夏みたいに暑いのに、

教室の中だけ別の季節みたいだった。


「さむ……」


ミオが自分の腕をさする。


「カーディガン持ってくればよかった」


「毎回言ってる」


「学ばないタイプだから」


私は鞄を机に置く。


まだ一時間目前なのに、

校舎全体がもう少し疲れている。



その日は、本当に何もなかった。


小テストもなくて。


怒られる人もいなくて。


誰かが泣くことも、

特別笑うこともない。


授業を受けて、

ノートを書いて、

チャイムが鳴って。


ただそれだけ。


でも私は、

そういう日の空気が結構好きだった。



昼休み。


ミオは牛乳パックを持ったまま、


「見て」


と言った。


「なに」


「このストロー、一発で刺せた」


「平和だね」


「才能かもしれない」


「使い道なさすぎる」


ミオが笑う。


窓から入る風が、

私たち包み込む


遠くで誰かが笑っている。


購買のパンの匂い。


廊下を走る音。


たぶん今、

学校中で何百人も同じ昼休みを過ごしてる。


でも、

自分たちの机の周りだけ、

少し別の時間みたいだった。



五時間目は移動教室だった。


廊下を歩きながら、

ミオが急に言う。


「内海ってさ」


「うん」


「絶対、小さい頃静かな子だったでしょ」


「なんで」


「なんとなく」


私は少し考える。


昔の自分なんて、

ほとんど覚えていない。


「ミオは絶対うるさい」


「偏見!」


「今もうるさいじゃん」


「たしかに」


ミオがあっさり認めるから、

私は少し笑った。


窓の外は青空だった。


昨日まで雨だったのに、

今日は信じられないくらい晴れている。


夏の光が廊下に反射して、

床が白く見えた。



放課後。


ミオは珍しく部活の日で、

教室には私だけが残っていた。


静かだった。


誰もいない教室って、

急に広く感じる。


私は窓際の席に座って、

ぼんやり外を見る。


グラウンド。


揺れる木。


西日に染まる校舎。


さっきまで普通にみんないたのに、

放課後になると、

学校は少し別の場所になる。


その時、

スマホが震えた。


ミオから。


『部活だるすぎる』


私は少し笑って返信する。


『頑張って』


すぐ既読がつく。


『他人事だと思ってる』


『思ってる』


『ひど』


それだけ。


本当に、

それだけのやり取り。


でも私は、

その短い会話を見ながら、

なんとなく安心していた。


窓の外では、

夏の夕方の風が吹いていた。


今日もたぶん、

いつか忘れる。


でも、

こういう“特になにもない日”ばっかりが、

あとから急に恋しくなるんだと思う。

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