文化祭、実感
放課後。
教室の前には、
色画用紙と段ボールと絵の具が散乱していた。
文化祭準備期間が始まったのだ。
「絶対終わらないってこれ」
ミオがハサミを持ったまま言う。
「まだ一日目だよ」
「もう帰りたい」
「さっき来たばっかじゃん」
教室の後ろでは、
予算が足りないとか、
看板の文字がどうとか、
いろんな声が飛び交っている。
普段より騒がしいのに、
どこか浮ついた空気だった。
⸻
「内海、こっち押さえて」
「はいはい」
段ボールに布を貼る。
テープの匂い。
絵の具の水。
机を動かす音。
文化祭前の教室って、
なんでこんなに“学校”って感じがするんだろう。
ミオは真面目に作業してるかと思えば、
途中で急に落書きを始める。
「それ必要?」
「いる」
「絶対いらない」
でも、
ミオが描いた小さいキャラクターを見て、
周りの子が笑っていた。
そういうところ、
なんだかんだすごいと思う。
⸻
夕方になる頃には、
空が少しオレンジ色になっていた。
教室の窓から西日が差し込む。
誰かの笑い声。
廊下を走る足音。
遠くの吹奏楽部の音。
全部混ざって、
文化祭前だけの空気になる。
「ねえ内海」
ミオが脚立の上から言う。
「テープ取って」
私はテープを渡そうとして、
少し背伸びをする。
その瞬間。
ミオの手が、
私の手に軽く触れた。
たったそれだけなのに、
なぜか少しだけ変な感じがした。
ミオも一瞬黙る。
「……ありがと」
「うん」
それだけ言って、
私は視線を逸らした。
たぶん、
ミオも同じだった。
⸻
休憩、と誰かが言って、
みんな一斉に床に座り始める。
ジュースのペットボトルが配られる。
ミオは床に座ったまま、
天井を見上げていた。
「文化祭ってさ」
「うん」
「準備の方が楽しくない?」
「あー、わかるかも」
当日より。
終わった後より。
今この時間が、
一番“文化祭”な気がする。
完成してない教室。
散らかった机。
ちょっと疲れたみんなの顔。
その全部が、
あと数日で消えてしまう。
⸻
外はもう暗くなり始めていた。
先生に、
「完全下校だから帰りなさーい」
と言われて、
みんな渋々片付けを始める。
ミオは窓際に立って、
外を見ていた。
「今日の空きれい」
私は隣に立つ。
空は濃い青とオレンジが混ざっていた。
校庭のライトが、
少しだけ滲んで見える。
「なんかさ」
ミオが小さく言う。
「今、高校生って感じする」
私は少し笑う。
「今さら?」
「いや、なんか今日特に」
たぶん、
私も同じことを思っていた。
文化祭なんて毎年あるのに。
この放課後は、
今年にしかない。




