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6/8

既読、変な駆け引き

夏休みに入って、一週間くらい経っていた。

 

外は毎日うるさいくらい暑い。


蝉の声。

エアコンの室外機。

遠くを走る救急車。


昼過ぎの部屋は、時間まで溶けていきそうだった。


私はベッドに寝転びながら、

スマホを見る。


ミオとのトーク画面。


最後のメッセージは昨日。


『課題やった?』


『やってない』


『おわり』


そこから何も続いていなかった。


別に変な終わり方じゃない。


いつも通り。


なのに、

なんとなく送れなかった。


⸻


水族館に行く約束を思い出した。

まだちゃんと決まっていない。


“いつ行く?”


って送ればいいだけなのに。


私はスマホを閉じる。


また開く。


閉じる。


めんどくさい。


でも、

送らないままなのも変な感じがした。


その時。


通知が鳴る。


ミオだった。


『今日ひま?』


私は少しだけ安心する。


でも次の瞬間、

変な意地が出て、

すぐに返さなかった。


別に意味なんてない。


なのに、

なんとなく。


⸻


十分後。


『寝てる?』


さらに数分後。


『既読無視?』


私は思わず笑ってしまう。


でも、

その笑ったあとに、

少しだけ胸がざわついた。


なんだろう。


この感じ。


近い人ほど、

変に距離を測ってしまう時がある。


私はようやく返信を打つ。


『起きてる』


すぐ既読がつく。


『おそ』


『ごめん』


『許しません』


『怖』


やり取りはいつも通り。


なのに、

どこか少しだけ噛み合わない気がした。


⸻


結局その日の夕方、

私たちは駅前で会った。


空は薄曇りだった。


夏なのに、

雨が降りそうな色をしている。


ミオは改札前の柱にもたれて、

スマホを見ていた。


「おそい」


「五分だよ」


「体感三十分」


「盛りすぎ」


私は隣に立つ。


でも、

なんとなく目を合わせられなかった。


ミオも少し静かだった。


駅前は人が多い。


買い物袋を持った人。

部活帰りの高校生。

泣いてる小さい子。


いろんな声が混ざっているのに、

私たちの間だけ少し静かだった。


「……水族館どうする?」


私が言う。


ミオは少し間を空けてから、


「今日じゃなくてもよくない?」


と言った。


その言い方が、

ほんの少しだけ冷たく聞こえた。


私は「そっか」とだけ返す。


また沈黙。


変なの。


昨日までは普通だったのに。


⸻


その時、

ぽつ、と雨が落ちてきた。


「あ」


ミオが空を見る。


次の瞬間、

一気に雨が強くなる。


「うわ!」


「最悪!」


私たちは慌てて駅前の屋根の下へ走った。


周りの人たちも一斉に駆け込んでくる。


湿った風。


アスファルトの匂い。


近いはずなのに、

なぜかミオとの距離だけ曖昧だった。


ミオは前髪についた雨を払う。


それから小さく言った。


「……なんかさ」


「うん」


「内海が既読つけて返さないと、ちょっと焦る」


私は思わずミオを見る。


ミオは視線を逸らしたまま、

自販機の光を見ていた。


「別に怒ってたわけじゃないんだけど」


「……うん」


「なんか、嫌だった」


雨の音が強くなる。


私は少しだけ黙ってから言う。


「ごめん」


ミオは数秒黙って、

それからふっと笑った。


「内海、たまに変な駆け引きするよね」


「してない」


「してる」


「ミオもめんどくさい」


「知ってる」


その瞬間、

なんだか急におかしくなって、

私たちは同時に笑った。


雨はまだ降っていた。


でもさっきまでより、

少しだけ明るい音に聞こえた。


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