表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/102

72日目 ???

 …こら



 むにゃ…



 起きんか



 むにゃむにゃ…むにゃ?



 むにゃ?ちゃうわ。おぬし、またわしを呼び出しおったな?



 …むにゃ?……はっ!?時空のおじさん!?



 わしじゃ。あらゆる時空と時間に接続する神、ヨグ--



 よく来たね歓迎するよ。ちょっと頼みがあんだけどさ、ええ?



 …………おぬしさ、そろそろわしの本当の名前知りたいと思わん?



 おじさんじゃん。時空のおじさん



 …………



 でさ、実はさ、友達と喧嘩しちゃったんだけどさ、仲直り面倒臭いなってさ、だからさ、喧嘩する前まで時間を巻き戻したいんだよね



 ……おぬし……そんなくだらん理由の為に時間を巻き戻すとか気安く言うでないぞ…ホント



 くだらないとはなんだ。こっちは深刻なんだよ。やって



 ……やりたきゃおぬし自分でやればええじゃろがい。おぬし『Agの鍵』なんじゃから



 やり方分かんねーもん。過去を覗いた事はあっても、過去までタイムスリップした事はねーもん。やって



 同じことじゃわい。時空の流れに乗って、過去に戻り、今のおぬしの意識をその時間のおぬしに重ねるのじゃ



 意識が戻るだけなの?物理的に戻るわけじゃねーんだ



 おぬしは所詮わしの力の一部を分け与えられただけの存在。今の肉体を過去に戻したり、複数の時間や世界に同時に存在する事はできぬ。せいぜい今の意識を、違う時間や並行世界に飛ばすのが限界じゃわ



 それって時間を巻き戻したって言える?



 巻き戻したというよりタイムスリップじゃの。おぬしの意識は時間を遡るんじゃから同じような事じゃろ



 今の時間を生きてる蘭子はどーなんのさ



 そのまま生き続ける。そして確定された未来は覆らん。過去に戻ったところで、おぬしが辿った未来の事象は繰り返される。これは運命じゃ



 ……は?じゃあ意味ねーじゃん。てか、予知した未来変えられたけど?



 それとこれとは話が違うのじゃ。同じ世界線で時間を巻き戻したところで、既に起きたイベントは運命によって決定づけられておる。時間を遡ってやり直したところで、世界の流れは確定しておるから、おぬしが行動を変えようと無駄じゃ。変えられる未来は、まだその世界線に訪れとらん未来じゃ。確定する前のイベントは、行動次第で変えられる



 ……?



 つまり現時点でこの世界線は今まさに新しい運命を更新し続けとる状態。今この瞬間より一秒後の未来はまだ確定しておらんが、一秒前の出来事は確定しておる。それは変わらん。おぬしの言っとる予知した未来を変えられたというのは、予知した時点での未確定の未来じゃから、変えられた。しかし今から過去に戻っても、今まで流れてきたこの時間と、そこで起こる出来事は変えることは出来んのじゃ



 ……??



 唯一運命を変えることが可能なのは、その世界線に存在しない別世界からの干渉による過去改変による未来の変更じゃ。おぬしが並行世界で産まれるはずじゃったおぬしを産まれなくした、あの時のように……



 …………???



 分かった?



 なんで……そんな…………面倒臭いシステムなん?



 それはあれじゃ。なんか……ほら、未来をホイホイ変えられたらなんか都合がよすぎるじゃろがい



 は?死ねよ



 おぬし大概にせえよ?



 じゃあもういいわ。さよなら。ばいばい



 おぬしの…………てか、なんかわしがこんな事言うのも変なんじゃが……おぬし、友達と喧嘩したから時間を戻してチャラにするとか…なんかそういうの……良くないぞ?



 なにが?



 そういうんじゃないじゃろ。青春て…喧嘩もええ思い出になるとか思わなんのかい。そうやって人と人は分かり合っていくんじゃないのか?



 黙れ。実体もない私の夢の中でしか存在できない存在のくせに。青春ってのはそんなに都合よくてキラキラしたもんじゃないんだよ。面倒臭いの



 おぬしの…人が親切で言ってやっとるのに…わしはおぬしを心配して言ってやっとるんじゃぞ



 うるさい説教おじさん



 じゃあおぬしこれからどうするんじゃ。自力で仲直りできるんか?ん?できんで困っとるからこんな手段に訴えとるんじゃろ?



 うるさいなー



 あのな?こういう経験を積んで人との関わり方学んでいくんじゃ人間は。この先もあるんじゃぞ?人と衝突してギスギスして……そんな事人生でいくらでもあるんじゃぞ?いちいちその度に逃げ出すんかおぬし。そんなんじゃまともな大人になれんぞ?



 は?大人になんてなれねーくせにっ!!知ってんじゃんっ!!



 …そんなに怒るでないわ



 お前が見せたんじゃん、未来の絶望をっ!!



 …今言ったじゃろ。まだ訪れとらん未来は変えられる。それに、なにも地球が滅亡するとは限らんのじゃないのか?



 だからってどーすんのさ。隕石を防ぐ術を持たない人類がどう行動したら未来変わるわけ?軽はずみな事言わないでっ!!



 …なんかおぬし、余裕ないの今日は



 いらいらしてんの!!おじさんのせいでしょーが!!



 …桐屋蘭子。わしは訪れる未来の可能性をおぬしに見せたにすぎん



 帰って!帰ってよ!!そんな遠回しで思わせぶりな説教聞きたくないの!!私の夢から出て行って!!私はどうせ死ぬなら、死ぬまでの時間をなるべく楽しく生きたいだけなのにっ!!



 …だったらもうその友達と関わらんかったらええじゃん



 …………それは……なんかモヤモヤするし



 時間戻して無かったことにできたとして、それをしたらモヤモヤせんのか?



 ……しないもん



 ホントに?



 ホントだもん……



 …ふむ。じゃがな……他人ひとには他人ひとの気持ちってもんがあるんじゃぞ?どうして喧嘩になったのか、向き合って考えた事があるのか?



 …あるもん



 ホントにぃ?



 ホントだもん



 だったら仲直りの仕方だって自ずと見えてくるはずじゃわい。それとな…時間を巻き戻して無かった事に…なんて考え方は、その気持ちを蔑ろにする行為じゃぞ



 ……分かってるもん



 ホントにぃぃ?



 ホントにぃぃっ!!



 ……全く仕方のない奴じゃわい。『Agの鍵』のよしみで特別に一回だけ、これを見せてやるわい



 …なによ、これって



 まぁ黙って見ておれ





















 --真っ白な世界に薄らとした光のスクリーンが浮かんでくる。白夜の中の劇場のようなその光景には見覚えがある。時空のおじさんが私に地球滅亡を見せた時と同じだ…


 スクリーンに映し出されたのは航空写真のような街並み。高く遠い空の上から始まるその視点はどんどん地上に降りてって…



 これは……マルイウィーク…



「二人とも僕の姉を見なかったかな?突然居なくなって困ってるんだ」



 今見せられている光景……これは、カンパルノ妹と初めて会った時の……



「桐屋さん!会いたかったよっ!」


「もし桐屋さんさえよければ…僕と友達になってくれないかな…?」



 ……



 カンパルノ妹と出会ったばかりの頃…喧嘩別れしたあの日のカンパルノ妹と記憶の中でその顔を比べてた。


 出会ったばかりの、バカみたいにテンションが高くて、なぜか頬を紅潮させて、目を輝かせて、泣いて、笑って……

 最近とは大違いだな……



 スクリーンが切り替わった。


 ここは……カンパルノ妹の部屋?


 やたらガーリーな色調とぬいぐるみに彩られた寝室でベッドの上を転がるカンパルノ妹の姿が俯瞰の視点から展開されてる。

 時空のおじさんが繋げた、過去、そして私の知らない時間の光景。

 乙女チックな部屋に似合わない日めくりカレンダーは2月の8日。カンパルノ妹と過ごした最初の3日間が終わった後か…



「……蘭子、桐屋蘭子…」



 クッションを抱きしめて顔を埋め、嬉しそうに破顔するカンパルノ妹の姿……



「可愛い女の子だったな…ふふふっ。僕についに、友達が出来るなんて…」



 控え目に言ってちょっと気持ち悪かった。



「…………ちゃんと仲良く…なれるかな」



 夜闇に溶けていくような呟きが私の胸の中に直接落ちてくるみたいに響いてた。




「どうしよう……遊びに誘って気持ち悪がられたりしないかな?」


「勇気を出すんだ……友達になったじゃないか…っ」


「……この文面は……キモイか……いや…桐屋さんだいぶぶっ飛んだ人だし…これくらいのテンションで行った方が……」



 私の知らないカンパルノ妹……

 私に見えない所でのカンパルノ妹。けれどそれは確かにこの世界に刻まれた記憶。時空のおじさんが私に見せたかったのは、カンパルノ妹の『気持ち』ってやつなのだろうか……


 それはつまり……カンパルノ妹が私の事をどう思ってて、どれくらい大切に想ってるのかって事で……



 私の見えないところで、メッセージを送るのに逡巡したり、会いに来る前に何度も鏡の前で服装をチェックしたり…


 カンパルノ妹って友達居ないんだな…


 あいつが普段どれだけ私と会うのに緊張して、考えて、私を楽しませようとしてたのか…


 ……全然その努力伝わって来なかったけどな。





「Y〇uTube……桐屋さんと……楽しみだな…これで僕もようやく……姉さんに並べるんだ。路端カンパルノの妹として恥ずかしくない人になれるんだ……」



 ……なんていいながらスマホを掲げて見つめるカンパルノ妹の顔は、とっても輝いていて…

 それはコンプレックスから逃れる為の手段としてY〇uTube始めるわけじゃないって事が伝わってくる声音で……



「…………楽しみだな…」



 本当に嬉しそうで。

 子供みたいな顔で。

 誰も見てない寝室で一人これからに想いを馳せるその顔に嘘はないはずで……











 ……いかに時空そのものと言えど、わしには人の心までは分からんわい



 おじさん……



 わしが見せるのはありのままの過去、現在いま、そして……未来の可能性じゃ



 ……



 分かりやすい奴じゃわい、こやつは…おぬしの友人にとってのおぬしは、かげかえのない存在である事は間違いないんじゃないのか?



 …………



 おぬしはどうなんじゃ?今のを見て、どう思ったんじゃ?



 ……おじさんはもしかして…知ってたん?私とカンパルノ妹がどうして喧嘩したのか、とか…



 そんなんいちいち見とらんわい。わしも暇ではない。じゃがわしは時空の神。全宇宙の事を知ろうと思えばそれは造作もない事じゃ



 ……



 カンパルノ妹にとっておぬしへの気持ちは、簡単に無かったことにしたり、無視していいものではないのではないのか?少なくとも…おぬしにとっては…



 ……



 ……答えは出たか?桐屋蘭子



 ……なんでもいいんだけどさ



 ……なんじゃい?



 私今日、大事な用があって早起きしないといけない気がするんだよね…


 ********************


 3月13日月曜日、朝。


「このおバカ、あんぽんたん!今日は高校行くから早起きしなさいって言ったでしょ!?」


 駅からダッシュをキメる我が母、志乃を追い抜かす速度で街を駆ける女……それが私、桐屋蘭子。


 今日は4月から入学予定の青藍高校にやって来てた。

 なんか制服の採寸とか、教科書貰ったりとか、色々あんだって。



 というわけでやって来ました、青藍高校。


 相変わらず制服姿が可愛い……桐屋蘭子、ここ最近にしては珍しくテンションが上がっております。


 てなわけで色々しに来たぞと言ったらなんか教室に案内されたんだけど、そこでは制服の採寸が行われてて、沢山の新入生予備軍と教師達がひしめき合っていた。


「じゃあ蘭子、お母さんは色々手続きあるから…大人しく採寸されてるのよ?」

「お母さんはさ、私をいくつだと思ってんのさ」

「あんたの精神年齢は100歳になっても3歳のままでしょ?」


 去りゆく母に中指立ててたら後ろから声をかけられた。


「じゃあ、採寸の方はこちらへどうぞ」

「……ふん、この桐屋蘭子の身体に触れられるなんて、光栄に思いなさいっ!?」

「……き、桐屋蘭子さんですね…(汗)」

「名乗りなさいよ、あんたも」

「あー…事務員の小橋です」

「…………あんた、出身は?」

「栃木ですけど…(汗)」

「言ってみなさいよ。栃木県の魅力」

「ないんだな、それが」

「……合格」


 この人の採寸なら間違いないだろうという期待を込めて順番に採寸していく。

 ブレザーとか、スカートとか……


「カッターシャツも採寸するよ」

「シャツは…サイズを選んでね」

「オーダーメイドで」

「……(汗)」

「ここ、ネクタイでしょ?ネクタイの採寸もお願い」

「ネクタイの採寸…?(汗)」

「私、妥協しないから」


 今までのキレをなくしてしまった小橋が狼狽し始めた。それを見逃す私じゃない。鋭い眼光を向けながら小橋を詰める!


「なに?嫌なわけ?……あんた…私の親がこの学校にいくら払ってるか、知ってる?」

「……え?もしかして……偉い方…ですか?」

「入学金だけよ」

「あの……さっきからなんなのかな?君は…あとね?さっきからずっと逆立ちだけどそれ、凄く採寸しずらいんだ…」


 こいつ……喧嘩売ってんの?




「あはは、やっぱり。なんだか騒がしいと思ったら桐屋さんか」

「何奴?」


 実はずっと逆立ちしてた桐屋蘭子、振り返る上下反転した視界の向こうに知己の顔を捉えた。

 その名は風花灯。


 とりあえず、ちゃんと立とう。両の足で。


「こんばんは、どうしてここに?」

「おはよう。私も採寸とか…色々」

「もももしや…風花さんの親御さんもいらしてるんでらっしゃいますか?」

「いらしてるけど……会う?」

「ええんでっしゃろか?」

「いいけど、怖いよ?」

「やっぱいいや」


 風花さんは私と話しながら優しげな微笑を返し一言。


「良かった」

「なにが?」

「一昨日のタコパの時、様子がおかしかったからさ…でもいつも通りに戻ったね」

「ご心配をおかけしまして……へへっ…」


 美しく微笑む風花さんを見つめてたら、ふと夢の中でのおじさんとの会話が蘇る。

 私はヘラついた頬肉を引き締めて「風花さん」と呼びかける。


「なに?」

「…風花さんはさ…私と居て……ウザくない?」


 虚を突かれたのか、風花さんはキョトンとした顔をした。

 でもすぐに先程の微笑みを顔に浮かべ直して一言。


「ウザくないよ。友達じゃん」

「……私が言うのもなんだけどさ…こんな変人と付き合うなんて、風花さんは私より変人だよね」

「……なんというか…珍獣を眺めてる気分で楽しいんだ」

「褒めてはないね」

「ところでさ桐屋さん、明日何の日か知ってる?」


 日付に意味を見出さない女、桐屋蘭子、この手の質問にはいつも困らされる。

 けど私、デキる女なので……


 今日は3月の13日…てことは……明日は……


「…知ってる。採用担当者へありがとうを伝える日」

「……それは知らなかったよ。覚えておくね。私が言いたかったのはね、ホワイトデーだよ」


 それくらい知ってますけど?こちとら、偏差値75ですけど?


「ほーん……で?」

「私、桐屋さんにバレンタインチョコ、あげたよね?お返しを期待してるんだけど…」

「人からの見返りを期待しちゃだめだよ?そんな意地汚い大人になったら親御さん泣くよ?」

「ホワイトデーをそんなに重たく考えてる人初めて会ったよ……まぁ確かにそうかもね。じゃあさ、お返しの代わりに…」


 風花さんがニヤニヤしながら近づいてきた。キス?キスですか?それともKISS?


「デートしない?明日」

「……っ!?…キュンッ!?」


 地球滅亡まであと28日にして、桐屋蘭子に春到来!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ