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71日目 ババア、長生きしてね

 卒業おめでとタコパが終わり…

 今日の夜はひどく長く感じる夜だった……

 そんな夜、陽菜はずっと私の話に付き合ってくれた。

 時刻は午前3時。

 3月12日日曜日。




「……で、私は奴にこう言った…お前はセオドア・ティーバッグ・バックウェルかよって」

「……蘭子、蘭子」

「なにさ」

「……私が眠気を押し殺して蘭子の話を聞いてるのは蘭子が北海道旅行の時どうやって網走刑務所に侵入したのか、について聞く為じゃないのよ」

「……じゃあ、修学旅行の自由行動中、私が消息を絶った空白の3時間についての話、する?」

「……戻ってきたらなぜか頭から風車生やして血まみれだったあれ?」

「あれ」

「……違う。それじゃない」


 ベッドですやすや眠るこーちゃんの頭を隣で撫でながら、不満気な眼差しで床の陽菜を見下ろす。

 聞きたいというのか……?とっておきのネタを。


「…………私が文化祭の箸焼き屋さんで六百八十万円稼いだ…あの伝説の売上記録を作り上げるまでの物語?」

「……嘘でしょ?」

「学校には売上ちょろまかして報告してたけど…あの時、私は一日で大金を稼いでたのよ」

「…………いや、それも今はいいや」

「じゃあなんだってのよ!!」


 この桐屋蘭子伝説。聞きたくないってんなら一体お前の目的はなんなんだ?言ってみろ。


「……地球滅亡の話」


 陽菜はそう切り出した。蘇るのは昨日の昼間、陽菜に晒した我が痴態。

 私は反応に困った後、アメリカ人も感服する肩のすくめ方で鼻を鳴らしといた。


「おいおい陽菜ちゃんよ。寝ぼけるのは一旦寝て起きてからにした方がいいぜ?何が滅亡するって?」

「……なに?嘘なの?」

「…………陽菜はさ、信じてんの?」


 急に真顔で問いかける私の変わり身に今度はお前がたじろぐ番だぜ。

 …が、陽菜の死んだ表情筋に変化なし。


「……分かんない。その時が来ないと」

「じゃあ忘れていいよ」

「……ただ、その時が来た時に「ああ、ホントだったんだ。疑ってごめん」って言わないように…疑いはしないでおくよ」

「なにそれ」

「……蘭子が泣くなんて、私の記憶の中では初めての事だからね」


 揶揄うように見つめてくる腐乱魚眼に殺意を目覚めさせたので一旦頭を叩いておくことにした。

 凶器はこちら、陽菜パパのゴルフクラブ(カーボン製)


 べシッ!!


「……痛いっ!?」

「それこそ忘れろ。あれはここ最近の忙しさのせいで脳の思考回路が一時的にバグった結果発生したバグだから」

「……いつもバグってんじゃん」

「忘れろ。あれは私であって私でないもの」

「……蘭子」


 図々しい隣に座ってくるな!


「降りてよ!私のベッドから!!」

「……私のベッドだし」

「じゃあこのベッドてめーが買ったのか?あ?」

「……違うけど」

「このベッドもこの部屋もこの家も……ここにてめーのもんなんざ一つもねーんだよ」

「……じゃあ私の一存でベッド貸せないから、こーちゃんくん、降ろして?」

「そんな事が許されるとでも?こーちゃん起こしてみろ?首が飛ぶぞ?」


 いつものペースで全てを無かったことにしようと努力しましたが……


「……蘭子。蘭子は今みたいに道化ピエロやってる方が私は落ち着くけど…たまには素を見せてもいいんだからね」

「……///」


 …え?この雰囲気……チューしていいの?


「……陽菜、ベロ出せ」

「……やっぱり普段から真面目になりなよ、アホンダラ」


 ……まぁお前がそう言うなら…


「……まぁ、陽菜よ?…信じるか信じないかはあなた次第とは言え、地球はあと30日で終わる」

「……正月から言ってたね。隕石だっけ?」

「今の人類に宇宙からの飛来物を防ぐ術がない以上、どうしようもない。直径10キロクラスの特大号が、この星の生命体を尽く殺し尽くすの」

「……蘭子はどうするの?」

「陽菜も知ってるでしょ?色々やった」

「……正月のペットボトルロケットの事じゃないよね?」


 まぁそれくらいしかやってないけどね。


「……真面目な話、誰が知ってようがどうしようもないもんはどうしようもない。仮に私が予知したその日に全人類が動き出したとて、100日で火星に避難できるわけでも、全人類を収容できる地下シェルターを作れるわけでもないし…」


 諦観。そしてせめて楽しく生きよう、その日が来るまで……それが私の出した結論。

 これはおちゃらけた普段の私、そしてその奥にある真面目な私、双方の結論。


「…………大丈夫、もう切り替えた」

「……蘭子、蘭子は…あと30日どう過ごしたい?」

「もう一度網走刑務所に挑戦したい」

「……あ、もう切り替わってる」

「……ま、いつも通り、なるべく楽しく。最期の瞬間、気持ちよく宇宙の塵になれればいいよ」

「……なら、蘭子の日常が少しでも続くように、私も、滅亡の予言は一旦忘れておく。自分の命日知って普段通りには生きられないし」


 …陽菜。

 お前のその優しさは、結局何に由来するものなのかな?


 親友の肩に頭を乗せて私は考える。

 陽菜自身も分からない、私と居る理由。

 こんな桐屋蘭子と、みんなが一緒に居てくれる理由。


「……地球が終わる時に心残りがあると、やっぱり気持ちよくくたばれねーよな」

「……何かあるの?」

「言ったじゃん。友達と喧嘩してんだよね。カンパルノ妹と…」

「……あの…小林君カラオケでボコした時の、あの子?」

「そ」

「……なら仲直りしとけば?」


 簡単に言うけどよ。


「喧嘩らしい喧嘩なんて今までした事ないから、仲直りの方法も分かんないんだよね…」

「……まぁ、こんな頭おかしい奴とまともに喧嘩してくれる相手、いないもんね?」

「そんな私が好きなんだろ?」

「……嫌いだよ」


 手伝おうか?と何も出来ないくせに珍しく気を利かせてくる陽菜に寝っ転がりながら無言で拒絶の意を示す。

 こーちゃんを抱きしめ、陽菜を蹴落とし、とりあえず目を瞑る。


 私の問題だから……とりあえず私がどうするのか考えよう。


 *********************


 やはり正面衝突だろう。


 つーわけで起きたら昼過ぎだったんだけど、なんか喧嘩してる美堂夫妻を放置してカンパルノ妹に会いにいくことに。


「……眠い」


 やっぱり陽菜も連れて行こう。一人は不安だ。

 しかし問題発生。


「私カンパルノ妹の家知らないや。姉の家は知ってんだけど……」

「……え?蘭子、路端カンパルノの家に行ったことあるの?」

「とりあえず、呼び出してみようか」




 愚地〇歩

 おいカンパルノ妹


 今すぐマルイウィークまで来いや



 ……あ、愚地〇歩は私のLINEのアカウント名。


「……送信…あ、既読ついた」

「……早いね」


 カンパルノ妹はいつも初動が早いことに定評があるんだ。

 しかし、その後返信が返ってくることはなく…


「ふざけんなてめー」


 スマホを地面に叩きつけ怒り狂う私を陽菜がなだめる。もし陽菜が居なかった目の前を歩いていたこのOLの命は無かったかも…


 で?どーすんの?


「カンパルノ妹はカンパルノ姉の世話しによくカンパルノ姉の家に行ってるらしい」

「……じゃあカンパルノ姉の家に行けばカンパルノ妹に会える可能性が高いって事だね…行けば?」

「電車賃ねーんだよね」

「……」


 陽菜、もうお前に貸す金は無いと言い出す。それに対して蘭子、借りた覚えはねー、貰ってんだと反論。

 忘ヶ崎駅前で二人の死闘が幕を開ける。

 結果としては空き缶で頭を殴られた私の敗北だった。

 今まで無断拝借してきた全額の返済を約束させられ(こんなものは無効だ。暴力によって結ばれた約束事がまかり通るなんて法治国家としてあるまじき事だろ?)一旦終息。


 このまま帰るしかないのか?と考えを巡らせた結果……









「……まぁそんなわけでここに来たんだよね」

「どういうわけですか?桐屋蘭子」


 占いの館『万華鏡』

 それは易者のババアの職場兼自宅。ババアの孫である孫と居間で対面。

 孫とは私とカンパルノ妹とでY〇uTuberなろうぜって約束した、我が家を吹き飛ばした下手人の片割れ。


「……はじめまして、美堂陽菜です。蘭子の保護者です」

「はじめまして……孫です」


 陽菜と孫、感動の初対面。


「ねぇ、孫ってさ、名前ないの?」

「不遜ですよ」


 シンプルな疑問に対してよく分からない牽制が返ってきたんでこの話題は一旦忘れて…

 本題。


「実はY〇uTubeチャンネルが早速解散の危機でさ……」

「乗っ取られたそうですね。何たる事ですか。前代未聞でしょう。一本も投稿してないチャンネル乗っ取られるなんて…」

「いやまぁそれもそうなんだけどさ…?あの…実はカンパルノ妹と喧嘩しちゃって」

「え?何故ですか?」

「強いて言うなら…………思想のすれ違い?」

「……?」

「カンパルノ妹がずっと無視してくんだよね。お前から連絡とってくんね?」


 孫「分かりました」と快諾。小学生のくせにスマホを持ってる孫がカンパルノ妹に電話をかけてくれるらしい。


 それまで暇なので仏壇の中を物色。


「……なんだい客かと思ったらお前かい」


 物色してたらババアが来た。ババアは私と、お行儀よく座ってお茶を飲んでる陽菜…じゃなくて死んだ魚の目を見つけて「ほぅ…」と一言。


「おぬし、このイカれ女の知り合いか?」

「……え?あぁ…えっと。保護者です」

「イカれ女って誰のこと?(怒)」

「……おぬし、死相が見えるの」


 仏壇の物色に忙しい私をよそに、ババアが陽菜の顔を覗き込んでそんな事を言う。これ、脅迫とかになるんじゃないのか?


「……え?私ですか?」

「うん。死相が出とる。目ら辺に…というか目が既に死んどる」

「……は?」

「ちょっと来るんじゃ。どれ。ワシが占ってやるわい。おぬしの運勢」

「……いや、いいです」

「遠慮するでないわい」


 死んだ魚の目がババアに連れ去られた。それと同時に電話の為に席を立ってた孫が帰還。


「戻りました、桐屋蘭子」

「おい孫、ところでおめー、学校どうした?昼間っからよ〜」

「春休みですし今日は日曜日です」

「……先に言えよ…バカ……///」

「なんで頬を赤らめてるんですか気持ち悪い」

「で?カンパルノ妹なんて?」

「桐屋蘭子とは話したくないそうです」


 ガーン。

 ショック……

 何がショックって、カンパルノ妹に拒絶された事に対してちょっとショック受けてる自分にショック。

 YouはShock。


「何をしたんですか?桐屋蘭子」

「そんなに怒ってるんですか……?(汗)で、チャンネルについてはなんか言ってました?」

「何も……どうするつもりなのでしょう」

「……孫、お前カンパルノ妹の家知ってる?」

「いえ……知りません」


 これは参ったぞ。


 参りながらお茶飲んでたら陽菜が返ってきた。なぜか泣いてる。


「…………蘭子…私……このままじゃ来週の火曜日に死ぬって言われた…ぐすん。五万円の数珠買わないと死ぬって……お金ない……ぐすんっ」

「香典包んでやるから泣くな」


 戻ってきたババアは五万円の数珠とやらを持ってた。どー見てもプラスチック製だった。


 陽菜との別れを惜しんでいたらババアが今度は私の顔を覗き込む。

 残念だけど、私に陽菜と同じ手は通用しない。


「……あんだよ?やんのかてめー」

「おぬしも何やら悩みがある様子じゃな。どれ、ワシが見てやろう」

「ふざけんな」

「寝不足じゃろ、おぬし」

「なっ……ぜそれを…っ!」

「ワシに嘘は吐けん。悩みも吐き出せば楽になる事もあるわい」


 吐き出せば……か。

 昨日の事を思い出しちゃう。


 *********************


 ババアの仕事場。

 それは自宅内に併設された暗幕のかかった怪しい密室。巨大な水晶玉を挟んで私とババアが向かい合う。危険な距離感…


「懐かしいの。おぬしと初めて会った時も、こんな感じじゃったわい」

「あの時はお前にここまでの殺意を抱く事になるとは思いもしなかった」

「ワシ、なんかした?」

「で?昨日のとんかつ吐けばいいのか?」

「手相を見せい」


 ミケランジェロが嫉妬したとまで言われるこの桐屋蘭子の手を舐め回すように観察するババア。そのしわしわの眼に映るのはなんなのか…


「…悔いが残っとる」

「クエが残ってる?」


 旬は過ぎたと思ったけど…白身の王様。これはスーパーに急がねば。


「なるほど、友人と仲違いしたか」

「なっ!?」


 何故それを……!?本当にこいつ!私の心を読んでいるのか!?


「『Agの鍵』ともあろう者が…やはり所詮は小娘じゃの」

「……くっ!私は騙されないぞっ!!」

「しかしどうやって仲直りしたものかと悩んでおるのか…」

「…………っ!!」

「感性は人並みじゃの」


 こいつ……もしかして本物なのでは?

 桐屋蘭子にかつてない戦慄走る。


「バ、ババア…」

「誰がババアじゃ」

「私はどうしたらいい……?正直、カンパルノ妹とかどーでもいいんだけど…このままじゃ私、すっきり死ねないからさ…」

「ふん……」


 アレクサンドロスが垂涎を飲む程美しい桐屋蘭子の手をもみもみしながらババアは私を導いてくれた。


「……ふむ。どちゃく相が出ておるな…前に進みたいなら前に、戻りたいなら後ろに退がればよい。さすれば、いいようになろう」


 いや、全然導いてくれなかった。


「つまりどう言うことやねん」

「ふむ……戻りたければ戻るがよし。戻れば何もかも元通りになろう。しかし前に進んで新しくやり直すのもまたよし」

「だから(怒)どう言うことやねん(怒)」

「ここから先は有料級じゃから」

「おめーが見てやるって言ったんだろ(怒)」

「この未来を示す五万円の数珠を買えば…」


 ぶん殴った。あと頬っぺ齧った。


「痛いわいっ!?ふざけるでないぞおぬし!?何考えとんのじゃ!?」

「うるせー(もぐもぐ)時間の無駄だったわ(もぐもぐ)」

「ワシの頬っぺ食うな!!」


 帰ろう。もうこんな場所に用はない。さよならババア。


「もう二度とここには来ねー。ぺっ!」

「全く……待てい」

「いいや待たない」

「待てって言っておるじゃろ。おぬしとワシの仲じゃ。本来は有料級じゃが特別に…だから待てってば!!」


 ずるずる


「引きずるな!痛いっ!!おぬしは『Agの鍵』なんじゃから!!その授かりし力!特別な存在としての特権を存分に振るえばよかろう!!」

「……?どゆこと?」

「仲直りの仕方が分からんのなら、巻き戻せば良かろう。おぬしは『Agの鍵』…つまりあらゆる時空と時間に接続できるヨ--」

「えっ!?もしかして私!時間巻き戻せる!?」


 そっか!

 カンパルノ姉が誘拐された時とか…

 並行世界だけど!並行世界の蘭子殺す時とか!!

 私過去を見てる!!

 私『Agの鍵』だった!!


「その手があったか!!カンパルノ妹と喧嘩した事実を、時間を巻き戻して無かった事にすればいいんだね!?」


 並行世界の蘭子を一人消した時みたいに!過去を改変すればいいのか!?


「ずんたった〜ずんたった〜どんだった〜♪」

「……(汗)」

「ありがとうババア。確かに有料級だったわ。長生きしろよ!!」


 ありがとうババア。

 さよならババア。

 ごきげんようババア。


 地球滅亡まであと29日…

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