70日目 怖い
「…マイプリンセス……いや、君はもうマイプリンセスじゃない」
「…カンパルノ妹」
「さよならっ!!」
「ちょっ……!待てよっ!!」
「…うーん……うぅん……」
「……」
「……ひなおねえちゃん。おねえちゃんが、うなされてる」
「……珍しい。年に一度あるかないかの珍事だね」
「おこしたほうがいい?」
「……起こそうか?」
「こーちゃん、いいのもってる」
「……ワクワク」
「みて、これ。ど〇きでかった」
「……それは、一時期流行ったパプーッてなるチキン……」
「いくぜ」
パプーーーッ!!
3月11日、土曜日。鼓膜の破裂と共に桐屋蘭子、起床。
「おねえちゃん、おはよ」
「……うん、おはよ」
朝ごはんは陽菜ママ特製のパンケーキだった。
「…………陽菜、言いたかないんだけど…あの店のパンケーキを見た後で見ると、お前の母ちゃんでべそ」
「……え?パンケーキ関係なくない?」
一方その頃陽菜のご両親は……
「またゴルフ?」
「仕方ないだろ?接待なんだ」
「このご時世にそんな言い訳……いいわよねあなたは……仕事であそびに行けるなんて」
「なんだと?」
「はいはい行ってらっしゃい。晩御飯は要らないわよね?」
「要るよ……」
「…………」
「あのな!俺だってたまには家族サービスとかしたいんだよっ!!」
「すればいいじゃないっ!?」
「……っ!!お前っ!!」
こんな事なら陽菜パパのゴルフクラブ、へし折っておけばよかったね……
「……もぐもぐ」
「おはよう、今日お母さん仕事だけど蘭子お昼ご飯は?」
「もぐもぐ……要らね。今日おかん達とご飯食べてくるから」
「あらそうなの?じゃあこーちゃん幼稚園休みだし……連れてってあげて?」
「やったぜ」
……はぁ?
「何言ってんのお母さん…」
「そんな事言わないで連れてってあげなさいよ」
「連れてくに決まってんだろっっ!!こーちゃん居なくてどうすんだっ!!(怒)」
「やったぜ」
「…………ちゃんと奢ってもらうのよ?」
昨日の夜、卒業式の打ち上げという名目のクラス会に不参加を表明した桐屋蘭子の元へおかんからLINEが届いた。
明日風花さんと雅も交えてプチ打ち上げしないか?というもの……
雅が来るなら金の心配はないな。
…ついでに開いたLINEの中で燦然と輝くカンパルノ妹とのトーク履歴を見てみた。この私がメッセージを送信してるのに既読無視。
既読付けてるあたりにツンデレ具合を感じるけど…
まぁ、今日も返信はなし。
「…………はぁ」
「おねえちゃん、いくよ?みて。ひなねえちゃんがおしゃれしてる」
「……4月からJKだから…」
「ひなおねえちゃん、かっこいい」
「……え?コンセプトはかわいいなんだけど…ありがと。蘭子……?どうしたの元気ない?」
うぁぁぁぁぁっ!!
「はぁーーーっ!!めんどくせぇぇぇぇえよっ!!」
「……?」
「おねえちゃんこわれた?」
「……いつも壊れてるよ?」
********************
さて、会場はどこやねんと思ってたけど、なんか適当な場所が見つからなかったから雅の家になった。
ちなみに雅の家は会社を経営してる大金持ちで見てるだけで殺意が湧いてくる系の豪邸なのだ。
「りょうきょしょ」
「なんて?」
滑舌モンスター、沖雅。実に20日ぶりの再登場だ。
玄関が既に美堂家の玄関クラスの広さを誇ってる豪邸で高そうな部屋着を身にまとった雅が私と陽菜、こーちゃんを出迎えた。メガネが金色で自宅仕様だ。
「きょーちゃん。久しゃしゅべりゅ。覚びょりぇちぇりゅ?雅だりゃ?」
「……?なんて?」
雅とこーちゃんは会ったことがあるらしい。私は覚えてない。
不遜にもこーちゃんを抱っこして奥に進むこのクソ野郎に続いて家が一軒入りそうなダイニングキッチンに向かうと、そこにはおかんと風花さんが待ち構えてた。
「あら、こーちゃんじゃない。久しぶり、圭だよ。覚えてる?一年ぶりだね!」
「……?」
おかんのことは覚えてないらしい。おかんの糸目から涙が一雫……
「……やぁ。桐屋さん、美堂さん。改めて卒業おめでとう。この子が弟さん?」
風花さんも早速こーちゃんに悩殺されてる。
「うん。こーちゃん」
「……このひと、だれだ?」
「こーちゃん、このお方は風花さんだよ。お姉ちゃんの友達。サカナハトモダチ、エサジャナイ」
「はじめまして。こーちゃんです」
「はじめまして、風花灯です。よろしくね」
風花さんのハンドパワーの籠った手に頭を撫でられたこーちゃん、プリンみたいに顔が蕩けてた。美しい……モナ・リザにも匹敵する芸術的光景が今、目の前にある。
……さて。
「雅、今日はフランス料理のフルコースに土産に寿司が付いてくると聞いてる」
「しょんにゃにょ無いにゃ」
雅(金持ち)がキッチンから出してきたのは巨大なたこ焼き器だった。
「……まさかっ…この豪邸でタコパ……?」
「りゃっぴゃりゃ、パーテャーちょ言りぇびゃ、テャコピャりょ?」
「……おかん、相変わらず翻訳不能」
「私は少し分かってきたわよ?陽菜もまだまだね」
「……じゃあなんて言ったの?」
「りょりょりょ、パーシバルちょび髭」
やっぱりパーティーと言えばタコパよ?だろ。
「りゃんこ。文句ぎゃありゅにゃりゃ去年にょ5,000円返えしりぇもりゃうりゃ」
「まぁいいんじゃない?たこ焼き好き」
「……えりゃきゅ素直にゃ」
「ね?蘭子なら「客にたこ焼き焼かせるつもりじゃねーよな?」とか言ってキレそうなのに」
「……おかん。タコパは自分で焼いてこそだから。おかんは食い意地ばっかり張ってるから食べることしか脳がないんだよ。過程を楽しめ」
「失礼ね(怒)」
そうと決まれば準備だ。
桐屋蘭子、圧倒的な手際で準備を進める。
「タコは買ってきたよ」
タコは風花さんの提供でお送りします。
うねうね……
「……(汗)」
「生きゅてりゃ」
「たこさん、かわいいね」
「風花さんタコ捌けるの?」
「豊洲で買ってきたんだ」
答えになってねーよ。
「しょーがねーな!この蘭子がテキパキ捌いてやるぜっ!!」
「おねえちゃん、かっこいい!」
「……蘭子、卵焼きすら失敗するでしょ」
「……見せてやるよ。陽菜。このミズダコを同じ海鮮系の死体に解体してやるぜ」
「……ごめん桐屋さん、それマダコなんだ」
家のバスタブが入りそうなデカさのキッチンでタコの公開処刑。
まずタコが暴れるのでシめる。
眉間に包丁を一刺し。これでシまる。シまったら一気にタコが白くなります。
「「「「おぉー」」」」
「シめてもまだ動くから…カラストンビには手を近づけないように気をつけつつ……内蔵を取っていく。こーちゃん、カラストンビって分かる?」
「しらない」
「タコのクチバシだよ」
「かっこいい」
「おかんはキャベツ切って。風花さんは生地作ってくれる?」
「あ、はい」「了解」
「雅と陽菜は……おめーら何しに来た?」
「……え?酷い」「きょきょ私りょ家りゃ」
シめたら内蔵を取っていく。頭のとこに入ってるから包丁入れて、手で抜き取る。この時墨袋を破かないように注意する。
あとは足を切り取って、塩揉みしてヌメリと臭みを取っていく。
「……この時揉みすぎて塩が入りすぎるとタコがしょっぱくなるから注意」
「「「「おぉー」」」」
十分ヌメリが落ちたら下処理は完了だ。
「ちな、タコとかイカは冷凍すると身が柔らかくなってまた違った美味さが出る。コリコリした弾力を楽しみたいなら生、ねっとりした舌触りを楽しみたいなら冷凍するのがオススメだ」
「「「「おぉぉーー…」」」」
後はぶつ切りにしていく。たこ焼き用なら火が通りやすいように細かくするのがポイント。
「陽菜…いや死んだタコの目、雅。喜べ、お前達に湯を沸かすという仕事をくれてやる。これでタコを茹でる……と言っても一分程度でお役御免のお湯だけどなっ!!ふははははははっ!!」
「……」「……」
タコを軽くボイルして、後は準備した生地と焼くだけ!!
じゅわわわわわわ〜…
「見てろ……これが桐屋流たこ焼きひっくり返し術!」
くるるるるんっ!!
桐屋家に伝わる十八の秘技のうちの一つ…最大同時に3個のたこ焼きをひっくり返す事で銀だこハイボールを上回る圧倒的効率で八個入りの舟を作る事ができる。秘技、天地返し。
完成だ。
「じゃじゃーん。どや?美しいやろ?」
「桐屋さんすごいや」
「感動しちゃ」
「蘭子、家庭科の評価2なのに…」
「おねえちゃん、かっこいい」
「……全部蘭子が作ったらタコパの醍醐味が…」
「熱いうちに食え?」
実食。
完璧な火の通り方と絶妙なタコの歯ごたえ、最適なるソースの選択の生み出す調和はもはやたこ焼きを超えていたと言えるだろう。
「もぐもぐ」
「こーちゃん、たこ焼きと白米を一緒に食べると飛ぶよ?」
「もぐもぐ(*^^*)」
広大なダイニングキッチンでタコパ。圧倒的敷地の無駄遣い。
陽菜が焼けば水っぽく、おかんが焼けば欲張って生地が大理石のテーブルを汚し、雅がひっくり返せばぐちゃぐちゃになり、風花さんが盛り付けたらマヨネーズかけやがり……
まぁワイワイ楽しくたこ焼きを突く光景を眺めながら……
「……それにしてもよくみんな同じ高校に受かれたよね。青藍だよ」
「陽菜は合格圏内だったからね。目を死なせながらよく頑張ったよ」
「……おかん?」
「風花さんとも、また高校で一緒だね」
「みんなと同じ高校に行けてよかったよ。ほんと……みんなともっと早く友達になってればよかった」
「……私だけゃ、高校違りゅりょきゃ…」
……高校か。
入学式が4月3日だから…高校生活はたったの7日間。
それでも、また高校でもみんなと同じになれた。
クラスも一緒だったらいいな。
「それぇにゃしちぇも、りょくりゃんこぎゃ受きゃっちゃりょりゃ…りゃんこ?」
「……ん?」
「聞いてりゃ?」
「お前の話聞いても理解できねーから聞いてない」
「あ?(怒)」
「桐屋さん」と風花さんがたこ焼きを口に押し付けてきた。熱い。
「……むぐっ!!むっ!タコが落ち……っ」
「おねえちゃん、ばっちい」
「……こーちゃんくん。私の髪の毛じゃなくてタコ食べな?(汗)」
なぜにこんな狼藉を?
「なんかテンション低くない?」
「……もぐもぐ(汗)そんな事はないけど…」
「確かに…あの蘭子が大人しくたこ焼き食べてるだけなんて……本当は何か企んでるんじゃないの?たこ焼きの中に爆竹とか入れてるでしょ?」
「おかんまで…」
「りゃんこ、きょのみゃみゃりゃ何事みょ無きゅ終わりゅりょ?」
「……いいじゃん、別に何事もなくても…私をなんだと思ってんだ」
「おねえちゃん、やみあがりで、げんきない」
「風邪でも引いたの?」と心配してくれる風花さんにおかんが「実は伝説の死病に感染した疑惑が……」って、また私の風評被害を広めてく。
友達と過ごす時間。
「……みんな制服どうするの?」
「記念に取っておくわ」
「部屋着にする」
「え?制服りょ?」
「蘭子は?」
「売った。メルカリで18,000円で」
「こら、蘭子!バカ!!何に使われるか分かんないのよ!?」
「大丈夫。雅の顔写真付きで売ったから」
「……にゃんで!?」
「おねえちゃん、そのおかねでぶいあーるごーぐる、かったもんね?えっちなびでおみてる」
「……え?じゃあお父さんが夜な夜な使ってるVRゴーグル、もしかして蘭子の?」
「なんで陽菜のパパが使ってんの?」
楽しいな。
「夏休みになったらみんなで海行こう」
「おお、風花さんが積極的だ…いいね」
「……いいねって…おかんはその前に痩せないと海で脱げないよ?」
「は?」
海……か。
海開きって8月?
みんなで海行って…海の家で焼きそば食べて?泊まっちゃったりとかしちゃって?
楽しそうだな。
夏はずっと先の話だけど……
なんでかな…………
********************
「たきょ焼きゃ、第二陣いくりゃ!!」
「桐屋先生、お願いします」
「……あー、ごめん。ちょっとベランダで外の空気吸ってくる…陽菜の目玉の死臭がすごくて」
「……は?」
風花さんに差し出される串をお返しして私は一人でベランダに出てきた。
流石社長宅、広いベランダ。高台公園みたいに町が一望できる。遠くに見えるのはもしかしてディズニーランドか?
……春の風が吹いてる。
前髪を揺らしながら椅子に腰掛けて青空を見上げる。外に出ても寒くないのは、もう春だからだ。
春……
春は好き。一年の中で一番好き。
なのに今はこの暖かさに不安が募る。肌を刺す冬の冷たさの方が不思議と安心出来てた。
それはまだ時間があるって事を実感できたから。
その時間がどこか他人事のまま日々を過ごす余裕をくれた。
何も知らない桐屋蘭子なら最後までいつも通りに過ごせたはず。
でも、あんなのが見えちゃったから…
信じちゃってるから……
みんなと過ごす時間とか、この先の未来の話とか、あとは…新しい友達が増えたりとか。
そういうのが増えるに従って、確実に縮んでいく残り時間が、確実に形容しがたい何かになって迫ってきてる……
残り時間が無くなってきたのを実感し始めたのはいつからかな?
急に情緒不安定だ。こんなの私じゃない。
「…………地球なくなったら、死ぬんだもんな…」
「……まだ言ってるよ」
「うわっ!?」
突然背後から現れた陽菜が私を上から見下ろしてる。
いけない……切り替えよう。
「……全く私がいないとたこ焼きも焼けないのかお前達は」
「……ううん。風花さんが蘭子以上の手際を魅せてるよ」
「なに?見過ごせんな。どれ、どっちが真のたこ焼きニストか勝負--」
「……待った」
戻ろうとする私の腕を陽菜が捕まえた。
「いやっ!触らないでっ!!」
「……いつものキレがないな」
ズルズルとベランダの柵まで引きずられた私は強制的に陽菜と並んで空を見上げるはめに…
「……さては私にたこ焼きを食わせないつもりだな?」
「……蘭子、なんかあった?みんな薄々気づいてるけど、元気ないよ」
「どんだけ私の情緒に敏感なんだよ。さてはみんな蘭子が大好きだな?」
「……私はともかく、みんなはそうだよ。蘭子がいないと、盛り上がらないからね」
こっちを見ずに遠くを眺めたままの陽菜がそんなことを言ったよ。
そういうことを言うからさ……
……あー…陽菜からこんな絡まれ方するのは初めてだ。
どうすっかな…………
「いや実はさ、友達と喧嘩してて……」
「……」
「一緒にやろうって言ってたY〇uTubeチャンネルの事でさ…カンパルノ妹なんだけど……」
「……え?ホントのホントにやるの?」
「どうなる事やら……とにかくカンパルノ妹のご機嫌を取らないと…目が死んでる陽菜の知見からアドバイスくれ」
「……謝ればいいと思うよ。詳細は知らないけど、どうせ蘭子が悪いんでしょ?」
「いや悪いのセクシー姉妹の日常だから」
「……は?」
……やっぱりそれしかないのか。
……さて、これでいいか?陽菜、満足した?
「ありがと、じゃ戻るわ」
「……待て」
痛い痛い痛いっ!腕切れるっ!!
「なんなの!?訴えるよ!?」
「……」
「そんなに二人きりになりたいなら…帰ってからいくらでも時間、あるじゃんよ///」
「……」
…………ほんとになんだよ、こいつ。
「……ほんとにそれだけ?」
「…………っ」
「……私はさ…時々よく分かんなくなるんだ。蘭子と一緒に居る理由が…」
「……?」
「……蘭子は私のお菓子勝手に食べるし授業中邪魔してくるしお金取るし家に転がり込んでくるしすぐ面倒に巻き込むし毎回辟易してるのに…ただ小学校からの腐れ縁ってだけで毎日一緒に居るよね」
「……嫌なら別に一緒に居なくていいじゃん」
「……そんな私だから、きっと他のみんなより気づく事もあるんだよ。例えば今のも、いつもの蘭子なら「腐ってんのはお前の目ん玉だろーが」とか言うんだよね。今日だってさ、いつもの蘭子なら真面目にテキパキたこ焼き作ったりしないし」
「私を勝手に分析しないでくれます?」
「……まぁ、そんないつもの蘭子じゃない今の蘭子が、案外ホントの蘭子なのかもね」
…………こいつ。
「……日本語で頼むわ、陽菜」
「……蘭子って人前で素を出さないよね。家族の前ですら…お母さんから聞いたよ?昔はもっと暗かったって」
「……ほんとになに?」
「……蘭子って私の生活の一部なんだ」
「何が言いたいのか分かんねーよさっきから。話がとっ散らかりすぎだろ」
「……私達の前で見せてる蘭子がホントの蘭子じゃなくても、いつもと調子の違う蘭子だと、私の調子も狂って気持ち悪い…私は蘭子がホントはどんな奴なのかなんて興味無いから、蘭子には普段通りでいてほしい」
「……迷惑なんじゃないのかよ」
「……ほら、やっぱり変だ。蘭子はそんなテンションでそんな返ししない。それが気持ち悪いんだよね」
「……うるせーよ」
……なに私を見透かしたようなことを…
なんかこいつ……
ムカつくな……
「……気持ち悪いからいつもの蘭子に戻って欲しいんだけど、どうすればいいか考えた」
「……なんで今日そんなに…陽菜、もういいから戻ろうよ」
「……やっぱり、何かあるんだったら吐き出すのがいいと思う。私も…それくらいは役に立ちたい」
「黙って?」
「……私は…蘭子と一緒に居る理由は分かんないけど、一緒に居たいから」
「…………」
黙れってのに……
どうしてくれんだよこの空気感…いつもの感じから完全に乖離してんじゃん。
こんなん陽菜じゃないし、私じゃない。こんなん私と陽菜の関係じゃないし…
「……………………なんでみんなは私と居て楽しいと、陽菜は思うの?」
「……蘭子が面白いから」
…今、そんな面白い蘭子じゃなくなってる。
「面白くない私とは、陽菜も居たくない?」
「……居たくない訳じゃないけど、気持ち悪い」
………………どうやら、面白くない私じゃダメらしい。
元に戻るには吐き出すのがいいらしい。
でも、私はそんな自分を誰に吐き出せばいい?
誰にも見せてこなかった自分を…自分ですら見てこなかった自分を……
それって陽菜でいいの?
……考えてみたけど、もし、自分が弱音を吐く相手が居るとすればって考えたら……
こいつしか思い浮かばなかった。
「……地球が終わるまであと30日しかない」
陽菜は私のその言葉を黙って受け止めてくれた。
「まだ言ってる」とか「いい加減目を覚ませ」とか、いつもならそんな事を言うのに、だ。
いつもと違う陽菜が、いつも通りに戻ろうとする私の調子を狂わせるんだよ。
もう、止まりそうにない。
「………………私達はあとちょっとで死ぬ」
「……」
「陽菜もこーちゃんもお母さんもおかんも雅も風花さんもカンパルノ妹も……みんなみんな…死ぬ。私は見た。予知夢で。何度も予知夢が的中するのも体験した…だから……」
「……」
「バカバカしいのなんて百も承知だけど…自分でも半分ふざけながら受け入れてきたけど…心のどこかで、いつもみたいふざけながら…まだ先の話とか……そんなわけあるかって……思いたかったのかもしれないけど……」
「……」
「残り時間が少なくなってきて……」
「……」
「みんなと過ごす時間とかが減っていって…みんなを見てたら……」
「……」
「…………っ」
怖い--
「……死ぬのが……怖い」
自分でも聞いた事ないような声が聞こえたよ。
喉が痙攣してるみたいで、上手く呼吸出来なくて、視界が霞んで……
自分の体に全くの未知の何かが起きてるみたいで、ちょっとパニックになった。
立ってられたのは隣で陽菜が支えてくれたからだ。
陽菜の体温を感じたから、今泣いてるんだって気づけた。
……こんなふうに泣いたのいつぶりだろう。
初めて感じるような気がするほど、久しぶりだ。
「……陽菜…死にたくない……っ」
「………………蘭子…ずっと言ってたその話…………本当の話なの?」
「……ホント……だから…いや……ホントなのかも……しれないし、ホントじゃないのかもしれないし……でも…分かんないし……ホントはホントの事なんて分かりたくないし……っ」
「……蘭子、落ち着…………ううん、ごめん。それで?」
「だから………………だから…………っ」
「…………」
「私……もっとみんなと遊びたいよ……っ」
陽菜はずっと私の肩を抱いて背中をさすってくれた。
どれくらいそうしてくれてたのか分からないけど……
多分……長い時間かな……
今日、私は生まれて初めて、誰かに自分の心をぶつけたような気がする--
「みんな、お待たせ」
「あ、桐屋さん戻っ…………て……」
………………待たせちまったな。
ベランダから帰参したたこ焼き職人、桐屋蘭子。たこ焼きを転がす風花さんはじめタコパの面々の出迎えを受けて……
ジジジジジッッ
打ち上げ花火(導火線着火済)を持って帰ってきました。
隣で陽菜がドン引きしてる。
「……りゃんこ、なにゃそりゃ」
「はなびだっ!おねえちゃんどうしたのそれ!」
「……聞いてくれ。今年の4月に地球は吹き飛ぶ。即ち、夏は来ない」
「まちゃ言ってりゃ……」
「蘭子、落ち着きなさい?いいからそれ、火を消して置きなさい?」
「黙れおかん。このまま終わっていいのか?」
この打ち上げ花火、去年の夏から寝かしておいた(かつ、いつでも取り出せるよう常に持ち歩いていた)とっておきのブツだ。
なんと発射時に八つに分裂して四方八方に飛び散るんだって。
「……蘭子(汗)」
「みんな……地球が終わる前に……夏、感じようぜ?」
「…………待ちゅりゃ、りゃんこ…お前、天井にょシャンデリャ、いきゅらきゃ知っちぇりゅきゃ?(汗)」
「雅……もう遅いっ!!」
膿を吐き出して、いつもの蘭子参上!
タコパは惨状!!
地球が終わるまであと…30日。




