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35日目 BじゃなくてHだから

蘭子、おれ、蓮司。

また入院したんだってな?相変わらず馬鹿だなお前。まぁお前の事だから大丈夫だろ?

ところで今日明日でマルイウィークに路端カンパルノが来るの知ってるか?

お前好きだったろ?カンパルノ。

行こうぜ。

返事待ってる。


 既読




 2月4日、土曜日。

 私はこーちゃんと家に居た。

 幼稚園はお休みで、激辛に沈んだ私の胃腸も回復したのだ。

 そんな私は今、元カレ蓮司からのメッセージを見て、震えていた。


「誰が行くかボケェェ!!」

「っ!?」


 スマホをぶん投げながら叫ぶ私、びっくりするこーちゃん。


「私が好きなのは…高村さなちゃんだっ!!

 はぁ…はぁ…っ!!」

「おねえちゃん、まだおなかいたい?」

「こーちゃん…間違いなく蓮司の奴は私とヨリを戻そうとしてる…思わせぶりな態度取って…」

「たいへんだ」

「一番腹が立つのはっ!そんな蓮司に私が……っ!!惑わされかけているという事だっ!!」

「どうしたいんだ」

「蓮司を殺す……」

「おねえちゃん…………」

「こーちゃん、お姉ちゃんやるよ。うん、殺る。お姉ちゃん、最強の人間兵器手に入れたもんね」

「かっこいい」


 その人間兵器に昨日殺されかけたけど…昨日退院する直前にわさび顔にぶっかけてやった。

 白浜が退院するまでこの殺意は秘めておく……蓮司と、易者のババアだ…

 あの2人を混沌にて殺す事が目下最大の目標なのである!


 ……それはそうと。


「こーちゃん、マルイウィークに路端カンパルノ来るって。ちなみにお姉ちゃんはみんなより早く知ってたんだよ。なんせ、お姉ちゃん予知夢見れるもんね」

「きょうは、おるすばんしなきゃだよ、おねえちゃん」

「地球滅亡まであと66日しかないんだよ?こーちゃん。お家でゴロゴロしてたら地球、終わっちゃうよ?」

「おわっちゃう?」

「うん、終わる」

「みちばたかんぱるのって、だれ?」

「お姉ちゃんも知らないんだよね」


 芸能人らしいよ。


 我が母志乃は私達を食わす為に休日出勤だ。地球滅亡まであと66日しかないんだから今までの貯蓄でいいってのにご苦労なこった。

 金のかかる私立入学の可能性は潰えたってのにご苦労さん。


 そんな母から「お留守番しとくのよ?いい?あんたは出歩く度に入院するんだから」と釘を刺されてたけど…


「お出かけ♪」

「おでかけ♪」


 暇なので出かけよう。

 折角だから路端カンパルノとやらが何者なのかこの目で拝んでやろうではないかと言うことで、私達は忘ヶ崎のマルイウィークに足を運ぶ事にしました。もちろん、蓮司は既読スルーだ。死ね。


 隣の松浦さん家の前に置かれた鉢植えを蹴り飛ばしつつこーちゃんとスキップしながら歩くこと、1分。


「おねえちゃん、かぎは?」

「おや。忘れてた。こーちゃん天才!ジーニャス!」


 鍵をかけ忘れてたわ。おほほ。ごめんあそばせ。


 こーちゃんとスキップしながら一旦帰宅。もちろん、松浦さん家の生き残った鉢植えも破壊していく。


 いやぁ…楽しいなぁ♡休日にお出かけなんていつぶりだろう…ずっと無機質な病院に居たから空が青いよ…

 まるで病弱系ヒロインが病を克服した直後のような気持ちでるんるん♪しながら鍵をかけに家の前に戻ったら…


「よし…しばらくは戻ってこねぇはずだ」

「……」「……」

「サクッと貰うもん貰ってトンズラするぜ」

「……」「……」


 女世帯の我が桐屋家に唐草模様の風呂敷を担いだ髭面のおっさんが侵入していくところだった。


 *******************


 空き巣とは--

 家人の留守を狙い家に侵入して金品や貴重品を奪う窃盗行為、あるいはそれを働く人物のことを指す。


 予定変更。


 私とこーちゃんは空き巣から遅れてそーっと玄関から帰宅。

 奴は不用意にも土足で上がり込みバッチリ足跡をフローリングに残していた。


「(おねえちゃん)」

「(しっ!こーちゃん、今日はお出かけやめて泥棒観察しよ?)」

「(うん)」


 空き巣ってどんな事するんだろ…?

 私とこーちゃんの好奇心による密着が始まる。


 さて、奴はまず玄関から入って真っ直ぐ、リビングとダイニングキッチンの物色を始めるようだ。私ならまずトイレを確認するが、この男にはセンスがない。

 リビングには私達の朝食の残骸が残されてる。


「3人分の洗い物が手付かず…この家の住人はズボラに違いねぇ…テーブルに塗りたくられたマーガリンがそれを物語っている。俺ならば真っ先に拭く」

「(それはこーちゃんが遊んだやつ…)」

「(こーちゃん、わるくないもん。てについたからふいただけだもん)」

「おいおい流しの三角コーナーにも生ゴミが入れっぱなしじゃねぇか。ゴミも出してねぇ…俺ならば溜まる前に片付ける。誰だってそーする。おれもそーする」

「(いちいちやかましい空き巣だな)」

「(いまのうちに、つかまえよう)」

「(こーちゃん、目的を忘れたの?奴を観察するんだよ)」

「こんな家には金目のものはねぇ…生活の乱れは心の乱れ。この家の連中はろくに貯金もできねぇ連中に違いない…ん?これは?」


 空き巣が目をつけたのはテーブルに放置された私の参考書とノートだ。公立受験を控えてこの桐屋、真面目に勉強を始めたのだよ(受験は今月)


「おいおいなんだこりゃ!酷いな!!このガキ、三角形の面積の求め方で躓いてやがる!」

「(おねえちゃん、はずかしい)」

「(お黙り)」

「なになに?…名前は桐屋蘭子。この参考書…青藍高校せいらんこうこうのだ。偏差値75だぞ?受かるわけねぇ」

「(あいつ殺す)」

「(おねえちゃん、おちつくんだ)」

「……こいつ、数学は小学生レベルなのに…世界史はパーフェクだ……いや、こんなの所詮暗記科目だしな…」

「(ふざけんなお前サラエボ事件の概要言えんのか?)」

「(おねえちゃん!)」


 失礼極まりない空き巣野郎は土足でリビングをドカドカ歩き回って物色。こーちゃんのおもちゃ(ローザンベソス男爵人形)を踏みつけていく。


「(( ・᷄-・᷅ ))」

「(落ち着けこーちゃん!)」

「リビングは…洗濯物が散らかってやがる。ふん、どれも安物だな。生活水準が低いとみたぜ…おや?これは…」


 奴が見つけたのは私のお気に入りのTシャツ(スパイシーピンキー、50,000円)


「このセンス…恐らく娘のものだな…ふむ」

「(……)」「(……)」

「…スーーッハーーッスーーッハーーッ…おふぅ」


 ドン引きである。もうあれ着れない。

 しかしそれでも寛容な蘭子はキレない。人の家に侵入して人のものを奪い取るという摩訶不思議な生態を持つこの生物の観察を隠れながら続行。


「テレビだけデケェ…」


 それは松浦さん家からハワイ旅行券と引替えに奪い取った4K55インチのテレビ。


「怪しいな…おや?裏になにか…おっ!これは……」

「(あの茶封筒!まさか!?お母さんのへそくり!?)」

「(へそくり?)」

「けっけっけっ…ありきたりな隠し場所だぜ…って。なんだぁ?6,000円しか入ってねぇじゃねぇか…やはりシケテやがる」


 ほんとにシケてんな。


 へそくりすらその額。思わぬところで我が桐屋玄関の経済事情を突きつけられた私達。母の身を削るような倹約のささやかな賜物である6,000円は薄汚い懐に入れられた。


「現金はこれだけか?通帳と印鑑は?その他貴重品は……」


 ガシャガシャッ


 リビングを荒らしまくる空き巣犯。目につくものはとりあえずひっくり返すのが奴の生態のようだ。


「なんてこった、何も無いぞこの家…」

「(おねえちゃん、うち、びんぼうなんだね)」

「(お金が幸せの全てじゃないのよ?)」


 とりあえず現時点での戦利品はJCのTシャツとへそくり6,000円とダ〇ソンの掃除機。唐草模様の風呂敷に仕舞っていく。

 1階の物色を早々に諦めた空き巣は2階への侵入を試みる。


 しかし。


 つるっ!!


「あっ!?♂」


 ドンガラガッシャーン!!


 階段に放置されたこーちゃんのマトリョーシカに滑った空き巣が階段から転げ落ちた。


「(こーちゃんおもちゃ片付けなさいっていつも言ってるでしょ!)」

「(ちがうもん。あれ、おねえちゃんがぼうりんぐの、ぴんにするんだっておいたんだもん)」


 そうだった…今朝2階の廊下でボウリングした時のピン代わりだったっけ。


 背中から落ちた空き巣は背負ったダ〇ソンをへし折って破壊。マイナス59,800円。


「くそっ!片付けのできないガキは躾が悪い!!ここのガキはろくな大人にならないはずだっ!!」


 空き巣犯が言っております。


 ほんでもってめげずに2階へ到達した空き巣犯はまずお母さんの部屋に侵入した。


「(あのひと、おかあさんのたからもの、ぬすむつもりだよ)」

「(お母さんの宝物ってなに?)」

「(おかあさんがだいじにしてるしんじゅのねっくれすだよ。おとうさんがくれたんだって)」


 真珠のネックレスなんて持ってたんかい。


「ここは母親の部屋だな…ちっ!香水臭ぇ部屋だぜ。厚化粧に違いない」


 なかなかの慧眼だ。


 空き巣はお母さんの化粧台に目をつけました。

 物色。メイク系Y〇utuberになる気はないみたいでお母さん珠玉のコレクションは無視。


「……」


 でもルージュだけはしばらく見つめてポッケに入れてたから、多分変態さんなんだろう。空き巣犯は女性もののアイテムへの執着が強い…と。


「(おねえちゃん、なにかいてるの?)」

「(公立入試に出す作文)」


 化粧台を物色してた空き巣がいよいよ宝石箱に手をかけた。


「(おかあさんのねっくれす、とられる)」

「(真珠のネックレスなんて持ってんなら私にピエール・ガンバッテルマン買ってくれてもいいじゃん)」

「…こいつはァ…真珠の……偽物か。露店で買ったんだろう」


 なんと偽物。人工真珠ですらなく偽物だって。

 無惨にも捨てられた。


「他にもなにか…なんだこれ?なんて読むんだ?…読めねぇ…きんこう?…まぁいいや…ってうわっ!!なんだこりゃ!?手首がっ!!人の手首が絡み合って入ってやがるっ!!」

「(……)」「(……)」

「この女…じゅっ…呪術師だったのか!?ひぃぃ!!」


 なにか見てはいけないものを見たらしい。

 部屋から転がり出る空き巣と危うく鉢合わせるところだったけど慌てて階段を下って回避。

 私とこーちゃんは恐れをなした空き巣が逃げ出すのかと思って見守ってたけど……


「あーびっくりした…次」


 気を取り直して次、私の部屋らしい。逞しいメンタルだ。


 私の部屋を開けてまず空き巣が行った事…


「すぅーーーーっはぁーーーっ」


 それは深呼吸だった。


「……ここは間違いなく娘の部屋…女子中学生…匂い……」


 変態だった。


「(おねえちゃん、いいにおいするの?)」

「(どうやらお姉ちゃんには変態を惹きつけるフェロモンがあるらしいよ)」


 そこから奴の動きは早かった。


「下着は安物だな…しかし、これは何物にも変えられない至宝だ。くんくん」

「(……)」「(……)」

「ブラのサイズから推察するに…バストはBだな。残念な事だが…パンティの伸び具合から推察するにヒップは……86。平凡だ…俺の経験則によると恐らくウエストは58~60前後…」


 とんでもない変態だ。


「中学生は最高だな…ひとつも取りこぼすことは許されない」


 一つひとつをジップロックに詰めていく丁寧ぶり。この勤勉さを人生に活かせなかったのか…悔やまれる。そして私はHカップ(自称)である。


 さて、値段を付けられないお宝を手に入れた彼は満足気な表情を浮かべて荷物を背負う。

 今のことろ私の古着とへそくり6,000円しか手に入れてないけど…まさかこれで撤収するつもりか?


「……これは?」


 ヒヤヒヤしながら様子を伺ってたら空き巣が何かを見つけた。

 それは私の机に飾られてる家族の写真。

 お母さんとこーちゃんと私が高台公園で夢の共演を果たした時のやつだ。


 心温まる家族の写真。それを見て空き巣が固まる。

 自分が荒らした家の家族の姿になにか…感じるものがあるのか……


「……これが娘か。可愛いじゃないか。興奮してきたぜ」


 違った。


「充分だろう。ズラかるか」

「(おねえちゃん、ずらかるつもりだ!)」

「(そんなバカな!学生のバイトの日給くらいしか稼いでないのに……っ)」


 ……てかこれ、どうしよう。


 このまま110番しても警察が来るまでに逃げられる。そうなったら私の下着は取り返す頃には中年使用済みになってしまってるのでは…?

 じゃあ……止めるか?

 いや、でもなぁ……凶器を持ってたら怖いし……

 私は倒壊する建物の地面を掘って脱出できるフィジカル持ってるけど、こーちゃんも居るし……


「(おねえちゃん、おりてきた!)」

「(あわあわ!隠れろ!)」


 本気で帰る気らしい。

 私達が慌てて階段を降りて影に隠れるその横を何も気づかない空き巣がルンルンで帰っていく。

 住人がここに居るのに…そんなバカな…


 下着はいいとしてもシャツは取り返したいなぁ……


 なんて思いながらも私の足は重かった。こーちゃんを抱っこしてるからじゃない。めんどくさかったのだ。

 50,000円と中年男性と格闘する労力とを天秤にかけていた……


 その時。


「もぅ最悪、プレゼンの資料忘れちゃった!ちょっと蘭子ー!私の部屋から……」

「……」


 プレゼンとかカッコつけながら突然帰宅した我が母、志乃と空き巣がバッティングしちゃった。

 玄関先繋がる視線、固まる時、走る緊張。


「…………あの…(汗)」

「…………??えっと……蘭子の……お友達?(汗)」


 なわけあるか。

 数的有利を悟った私はこけしを手に判断する。


「お母さんそいつドロボー!!」

「どろぼー!!」

「えっ!?」

「なにぃっ!?どこから……っ!?」




 ……その後、住人が居るのに空き巣に入られた家としてしばらく桐屋家はご近所さんの注目の的となりましたとさ。


 私のバストサイズを知った証人が消え去るまであと65日…

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