第二十九話 尋常ではない事情
ランクⅤ 深海超巨大型〝大〟災害生物 〝海咬〟ケートゥス。
基本情報
全長 三キロメートル、体重 約四百トン
大体はぱっと見超巨大なミジンコ、といった姿をしているが、目が単眼、腹部に左右に開く巨大な口があり、ミジンコとはかけ離れている。
新人類歴五百二十年 七月十七日 アナスタシア大陸西方、カタユ市近海にて発見。
発見時の記録によると、全長は約二百メートルであり、カタユ市付近海岸から約二百メートル付近で何もせず、調査隊が近づくと離れていき、敵対的行動は取らなく、温厚だった。なお、動きは鈍重で遅く、調査隊が泳いで追いかけても追いつけるほどだったという。カタユ市付近海にて位置を変えず、ずっと海岸を単眼でじっと見ていた、と記されている。調査隊が近づくと普通は逃げていくが、月が出ている時だけは近づいても逃げず、じっと単眼で月を見つめていた、と記録されている。
そして三か月後の十月十七日。カタユ市付近海から姿を消す。
ケートゥスの痕跡はなく、なぜ消えたのかは謎に包まれている。
しかしその後、新人類歴六百二十年、七月十七日、正午。ケートゥスが突如としてカタユ市付近海に出現。出現時、当時の温厚さはなく、カタユ市含めたアナスタシア大陸西方の海岸付近の都市八つをその巨体で破壊。死傷者は数百万人にも上る。なお、残っている当時の記録によると、ケートゥスの全長は六百~八百メートルだと記されている。そしてその八つの都市を破壊した後。再度姿を消す。
なお、神災が発生したと言われている時期と同じであり、その原因についても現在調査中である。
そして新人類歴八百二十三年、ケートゥスが人類連合南方、第五支部近海に出現。第五支部に向けて触角などを使用し、破壊を試みるも、第五支部にいた最上級戦闘員以上八名によって阻止。
その後も約五年ごとに何度も破壊を試み、最終的に第五支部が半壊。特級戦闘員一名、最上級職員三名、上級職員数十名が合計で死亡した。
半壊後、再度姿を消し、新人類歴八百四十八年以降姿は確認されていない。
ケートゥスとの戦闘中、普通ではありえない〝出威〟を超高出力で使用していた。
その異常性と凶暴性、破壊総額などにより、神災以後、もしくは神災時に出現した生物が基本的に設定される災害生物にケートゥスがランクⅤ 深海超巨大型〝大〟災害生物 〝海咬〟ケートゥス、として新人類歴八百五十年、登録された。
その後、ケートゥスの出現は記録されていない。
***
――――コ コ コ コ コ コ コ コ コ コ コ コ … … … … …
《……全職員、動くな。上級職員以上前衛は止まり、それ以下は戻れ。後衛は待機。そして他遠征部隊に援軍を呼べ》
そういい、ナサは少し離れた場所にいるケートゥスを見る。周りの一般職員は現在阿鼻叫喚だ。
「ヴォルター、こいつは何故ここにいる」
「サアナ。第一ソンナこと気にシテる余裕はナイ」
――――コ コ コ コ コ コ コ コ コ コ … … … … … …
ケートゥスは現在なにもせず、無機質な鳴き声を発しながらただこちらを見つめている。
先ほど目の前にいたグローサー・バウムはもう切り株のようになっている。ケートゥスが触角らしき部分を振った。それだけで消し飛んだ。
〝海咬〟ケートゥス。現在六体しか確認されていない大災害生物。ナサはもちろん、MPE現在最高齢のバイオニア・ヘルツ総督ですらケートゥスを見たことはない。なぜ今、ここに現れたのか。そして全長も明らかに大きくなっている。
「……………動かナイぞ」
「それはいいことだ。このまま帰ってくれたらもっといいことだ」
バキ、バキ……という音をたて、ケートゥスが海から出て陸にあがり、こちらへと這う。なぜミジンコが這えるのか。
***
「なんじゃぁ、あれ……」
「ウムヴェルト君。どう思う?」
「ギルベルト……どう思うって……?」
「俺らが生きて帰れるか……だ」
ナサ、ヴォルターがいる木の下。一般職員はこちらに遅いが少しずつ這ってくるケートゥスを前に、動けずにいた。
「……今から逃げたら逃げられるかもしれないな……」
「それはいい案だ……まあ、逃げるわけにはいかないけどね……」
――――コ コ コ コ コ コ コ コ コ コ … … … …
そう軽口をたたいているうちにも奴は近づいてくる。近づいてくれば来るほど、勝てるのか、と思うほどに巨大。
《全職員に指令》
その時、通信威物からナサさんの声がする。
《全職員、すぐさま離れろ。あたりの災害生物も逃げ出してる。襲われることはほぼない。北の観測基地に行け》
「……逃げるか」
「……」
一般職員が逃げだした、その時
―――コココ……コッ……コッコッコッココココココココ
ケートゥスの鳴き声は高音に。そして早くなり、なにかを振る音が聞こえる。
俺の意識はそこで途絶えた。




