六
清々しい朝の日差しが降り注ぐ中、竹田と大吾はスロット専門店『ルーニー』の入り口の前に来ていた。二人とも前日から一睡もしていなかったので、太陽の光がまぶたに痛みを与える。二人はバイトが終わった後のマージャンを7時ごろまでやり、朝食を食べに行った後でこの店に来ていた。なぜそこまで疲れた体を引きずって『ルーニー』に来たのかというと、この店にはモーニング台がある。モーニングとは朝一に店が当りを予め仕込んでおくサービスで、運よくその台に座ることができれば最小の投資で一度の当りは保障されるのである。彼らにしてみれば落ちている金を拾ってくるような軽い感覚である。無論モーニング台には設定を期待することはできない、しかし千円で遊べるというのが彼らにとっては魅力的なサービスだ。この日は平日であったので二人以外は毎日来ている通称『皆勤のおっさん』しか並んでいなかった。
「いやぁ、ダルいな。やっぱ茂野さんと一緒に帰るべきだったかな。」
茂野はマージャンをやった後、朝食を二人と一緒に食べに行ったが、さすがにそこで力尽き『ルーニー』には来なかった。
「確かにダルいね。ちょろっとやって帰ろっか。」
さすがの大吾も疲労の色が青白くなった顔から窺われる。無理もない、大吾は前日『ヨンキョー』のイベントに朝一から並び、そこからバイト、マージャンと一睡もせずにハイテンションを保っている。
「そうだな、今にも寝ちまいそうだもんな。ま、モーニングだけで帰ろうぜ。もしお前が粘る展開になっても容赦なく置いてくからな。」
「ハハハ、大丈夫だって竹田君。俺もそこまでキチガイじゃないからさ。」
「ウソつけ、お前は最強のキチガイだよ。」
そうこうするうちに時計の針は9時を示し、店員が入り口の鍵を開けるとともに開店を告げた。竹田と大吾は疲れた体を引きずり店内に駆け込んでいった。
目を覚ますと辺りは既に薄暗くなっており、一日の4分の3がもう終わろうとしている。疲れが抜けきらない体を起こし、タバコに火をつけた。不規則な生活のせいなのか食生活が乱れているせいなのか少し頭がクラクラしている。
「ちっ、いかんなぁ。」
一言つぶやき、タバコを灰皿にグリグリと押し付けた。竹田は今年21になる、普通なら肉体的に疲れや不調を感じる歳ではない。毎日吸う多量のタバコと運動不足、そして乱れた生活が体に悲鳴をあげさせているのではないだろうか。
「ブルルル、ブルルル。」
竹田が深いため息をついた時、ケータイがメールの着信を告げた。
「はいはい、誰ですか。」
ケータイを見ると同じ人物から4つもメールがきており、『佳奈』という名前がずらっと並んでいる。よくよく見ると着信履歴も同様の表示である。これを見て竹田は更にげんなりとした表情になった。
「あー、ったく。」
竹田は今更メールを入れてもややこしくなるだけだと思い、頭を掻きながら佳奈に電話をした。呼び出し音は3回で途切れた。
「もしもし、ちょっと!なんで電話出ないの!!」
威勢のいい声が寝起きの頭に響いてくる。
「悪い、深い眠りについてたんだ。」
「はぁ、寝てたの?こんな時間まで?」
「ああ、昨日バイトでその後なんだかんだで寝たの今日の11時ごろなんだ。で、どうした?」
少し興奮した佳奈とは裏腹に、竹田はいたって冷静な口調である。
「11時?バッカじゃないの。・・・別にどうしたってわけじゃないけどぉ、一緒に学校行けないかなぁって思って、電話したの。そしたら全然通じないしぃ。」
「そうか、ごめんな。明日は行くつもりだからさ。」
「そうか、ごめんな。って、そんなイイ声で言わないでよ。何にも言えなくなっちゃうでしょ。ホントにぃ、わかってるの?」
「んなこと言われてもよ、俺は普通に言ってるだけだぜ。」
「もういいよ〜。それより今日はバイトあるの?私今日は仕事休みだから今から遊ぼうよ。」
「ああ、俺も休みだから別にいいけど、今から?こんな時間から行くとこないだろ。」
もう時計の針は7時を回っている。街中の雑踏では家路につく人々が大部分を占める時間帯である。
「どうせ夜ご飯まだなんでしょ?ひとまず一緒に食べにいこ。もちろんおごりでね。」
佳奈は急に愛嬌のある可愛らしい口調になった。
「ちょっと待て、勝手に話し進めるなよ。」
「ダーメ、どうせしっかり稼いできたんでしょ?じゃあ、・・・そうだね、いつもの所に30分後に迎えに来て。」
「おいおい、30分後って、俺今起きたとこだぞ。」
「じゃあ、待ってるからね。遅れないでよ。」
それだけ言うと、佳奈は電話を一方的に切ってしまった。
「ったく、しょうがねぇなあ。」
竹田は時計に一度目をやり、ケータイをテーブルに置くと、足早に洗面所へ向かった。




