五
「じゃあ、頑張ってくれよ。」
「万枚出たら明日焼肉おごってくれ。」
バイトの時間が間近に迫り、竹田と大吾は出玉を流してホールを後にした。隆正はこの日バイトではなかったので、当然一人残って推定6の台を打ち続ける。
「いやぁ、俺ももっと粘りたかったって。」
大吾は本当に悔しそうな顔をしながら竹田に語りかけた。
「何言ってんだよ、お前のはヒキだけだろ。あのままやってたら絶対呑まれて終わりだぞ。」
「いや、今日の俺なら楽勝で万枚コースだって。むしろ俺が金太郎だから。」
「お前は相変わらずアホだな、よくそんなんで勝てるな。」
竹田は呆れながら、タバコに火をつけ煙を吐き出す。しかし内心ではそんな大吾のヒキの強さに羨ましさを感じていた。
結局竹田がやったキンパルはBIG4連BAR3連し、あっさり1400枚のコインを吐き出した。所要時間は40分ほどである。これは普通の人間から見れば考えられないことかもしれない、わずか40分で2万円ほど稼いだのである。しかし大吾の場合は、もちろん朝からやっていたので時間は掛かっていたが、一日で10万円の勝ちである。竹田はこの日かなり調子よく、都合5万ほど勝っていたが、大吾のバカみたいな勝利を間近で見せ付けられてしまって、なんとなくやりきれない気持ちになっていた。
「まぁ、でも一番やりきれないのは6に座って、ヒキだけの男に圧倒されたタカだな。」
そう竹田は自分に言い聞かし、大吾と車に乗り込んだ。大吾は隆正の車で「ヨンキョー」に来ていたので当然のように竹田の車に乗り、2人でバイト先へ向かった。
時計の針が23時を回った頃、隆正は一人、ラーメン屋『紫三発』のドアを開けた。
「いらっしゃいませ!!」
店内からは威勢のいい声が聞こえてくる。隆正は少し、くたびれた足取りでカウンター席の端に腰を下ろした。
「おぉ、タカ。どうだった!万枚いったか?」
カウンターの内側から竹田が声を掛けた。この店は竹田たちがバイトをしているラーメン屋で、夜中の2時まで営業している。ここでいつも竹田たちは20時から翌3時ごろまで仕事をする。
「ダメでした。あの後も結局大連チャンはなく、揉まれ続けて終わりました。7800枚しか出ませんでした。閉店間際に6確定の札が貼られたんですけどね。」
隆正は少し照れくさそうに独特の低い声で答えた。
「お前はホントにカスだなぁ。ヒキ弱の神か。」
そう言うと大吾が水とおしぼりをテーブルに置いた。
「そんなに言うなよ。俺なりに頑張ったんだ、結果としては14万近く勝ったんだからよ。」
「金太郎の6ならノルマ1万5千枚ぐらいだろうが、2万枚も狙えるんだぞ。」
言うだけ言って大吾は他の客に呼ばれたので隆正のもとを離れた。
「ちょっとヒドいですね、アイツ。そうそう万枚なんて出せないっすよ。」
「そうだな、14万勝ったって結果は普通に嬉しいことだもんな。まぁ、アイツの言うことは半分くらい聞いとけばいいんじゃないか。」
「そんなことより何食べる?いつもみたいにミソでいいか?大勝ちしてガツンと喰いたいかもしれんが、めんどくさいからあんまり喰うなよ。」
「そうですね、じゃあミソとライスで。」
隆正は竹田に注文を伝えると、トイレに入っていった。
「しかし今日は熱い日だったな、俺の周りの人間みんな勝ったもんな。なかなかないぞ、こんなことってさ。」
調理場に戻ってきた大吾に、しみじみと竹田は問いかけるように言った。
「まぁたまにはあるでしょ、こんなことでもないと俺らすぐパンクだよ。」
相変わらず大吾は上機嫌で、バイトの仕事にも今日は熱意を感じることができる。
「それより竹田君、今日バイト終わったらマージャンやる?やりたい気分じゃない?」
彼らはいつも閉店した後の客席で、明け方までマージャンをやっていた。竹田たちにとってこの『紫三発』という職場は最高の環境である。
「そうだなぁ、やるか。じゃあ茂野さんしだいだな。」
茂野とはこの店の社員で、歳は40近いがいまだに独身で竹田たちにとってはよき兄貴分という感じの人物である。もちろん彼もギャンブル好きで、パチンコもマージャンもバイトたちと一緒にいつも楽しんでいる。因みに店内でマージャンができるのも茂野の車にいつもマージャンパイが積んであるからである。
「茂野さん、今日って終わったらすぐ帰りますか?マージャンやってく気はないですかね。」
店の戸締りをするのは社員である茂野なので、いくら竹田たちがマージャンしたくても鍵をかける茂野がいないと話にならない。
「マージャンかぁ、こないだ竹田ちゃんにやられとるもんなぁ。」
「今日やれば取り返せますって、俺ら今日軽快に勝ってますんでたぶんすぐ振り込みますよ。」
竹田はあまり喋るほうではないが、このように人を持ち上げたり、おだてたりすることは非常に上手い。
「わかった、じゃあやるか。」
案の定、茂野はすぐにその気になり、あっさりとマージャン開催が決定した。
「マージャンやるんですか、いいですね。俺も行こうかな。」
ちょうど隆正がトイレから戻ってきて、この話に加わってきた。
「お前はのんびりヘルスでも行ってこい、4人おったら一人退屈してまうだろ。」
大吾は同級生ということもあって隆正に対しては本当にズバズバと物を言う。
この店のテーブルはどれも端が壁にくっついているので、4人で卓を囲むには都合が悪い。それゆえ彼らのマージャンはいつも3人打ちなのである。仕事が終わるのはだいたい3時ごろ、そんな時間にボーっと観戦するのは苦痛以外の何物でもない。それは隆正も十分承知している。
「わかったよ、今日は帰るわ。」
隆正はそれ以上は言わなかった、彼はもともと控え目な性格である。注文したラーメンを食べ終わったら、すぐ席を立った。
「じゃあ、頑張って下さい。あ、これジュース代です。」
「ありがとな、お前今からゲーセン行くなよ。」
「行きませんよ、俺は大吾みたいにキチガイじゃないですから。」
「ハハハ、そうだな。」
少しおぼつかない足取りで隆正は紫三発を後にしていった。
時計の針は日付が変わる頃を示していた。




