二十二
チャイムが学内に鳴り響き、昼休みの終わりを告げた。数人の学生があわただしく教室に入ってくる。遅れて教室に入ってくる学生たちを目で追ったがそこに竹田の姿はない。
「佳奈、どうしたの?」
涼子がちょっと落ち着きのない佳奈を見て何となく喋りかけた。
「いや、別に・・・なんでもないんだけど。」
「そぉ、いやにきょろきょろしてるじゃない。」
まだ教授が教室に来ていなかったので涼子は話を続けた。佳奈が落ち着かない理由を涼子はわかっていたが、具体的な話は避けようと思っていた。
「・・・涼子、ごめん。ちょっと行ってくる。」
急に佳奈は立ち上がった。
「え、何。どこ行くの?授業はどうするの?」
「ごめん、ノート取っといて。今度何かおごるから。」
佳奈はそう告げると足早に教室を後にした。昨日大吾や隆正と話をしたことで迷いが晴れ、積極的な行動をとる気持ちになっていたのである。佳奈は教室を出るとかばんから携帯電話を出し竹田に電話をした。
「・・・プルルルル、プルルルル・・・」
呼び出し音が受話器に響く。なかなか竹田は電話に出ない。諦めかけたその時。
「もしもし。」
電話の向こうから、独特の低音ながらも艶のある竹田の声が聞こえてきた。
「もしもし、コー君?佳奈だけど。」
佳奈は少し安心して優しい口調で言葉を返した。
「ああ、どうした。」
「どうしたって、コー君授業は?受けないの?」
相変わらず落ち着き払った竹田の言葉に少し調子を狂わされる。
「ああ、授業か。まぁ、今日はレポート出したし、疲れたから帰るわ。」
「えぇ、また帰っちゃうの?もしかして山本君と一緒なの?」
「いや、山ちゃんとは一緒じゃないって。まぁさっきまでは一緒だったけど。」
「じゃあなんで帰っちゃうの?一人でスロット行くの?」
竹田はいつもより食いついてくる佳奈の様子に少し煩わしさを感じた。
「行かんって、今日は本当に疲れたから帰るだけだって。」
「ふーん。疲れねぇ。まだそんなこと言う歳じゃないでしょ。」
普通に考えれば竹田も佳奈も疲れを気にする歳ではない。しかし、不健康な生活を繰り返している竹田は周りの同級生たちとは疲労の溜まり具合が違う。佳奈とて夜のバイトをしているのでそんな竹田の疲れが解るし、佳奈自身も涼子たち友人より身体にきつい暮らしをしている。
「ねぇ、今コー君はどこにいるの?まだ学校?」
「・・・まだ学校だけど。もう駐車場に着いた所だから。」
ここは引き下がれないと思い、佳奈は諦めなかった。
「じゃあ、ちょっと待っててよ。今からすぐ行くから。」
「今からって、いいのか。授業じゃないのか?」
あくまで竹田はクールな口調で答える。
「いいの、堂々サボってる人がそんなこと言わないの!」
「そうか、そうだな。」
何を一人で納得しているんだと、少しの怒りと少しの微笑がこみ上げてきた。
「じゃあ、待っててよ。ホントに行くからね。」
「わかったよ。じゃあ、自販機のとこにいるから。」
竹田も佳奈の勢いに負け、帰るのを諦めた。先ほど飲んだばかりだが、缶コーヒーを買いに自販機に向かった。照りつける日差しが容赦なく竹田を飲み込んでいる、もう身体は悲鳴を上げていたが重いまぶたをこすり、佳奈をタバコを吸いながら待った。




