十八
最初に注文したサラダとポテトフライがテーブルに置かれた。隆正がそれらをテーブルの中央に移動させた。
「佳奈さんも食べてくださいよ。」
「ありがとう、でもそんなにお腹空いてないから。二人で食べてよ。」
時間が時間だけに佳奈は店を上がった後はあまり食べないようにしている。さらにこの日は気分的なものもあって食欲を損なわせていた。大吾と隆正はそんな沈んだ様子の佳奈に合わせるのも気まずいので食べ物に手を伸ばした。二人は酒が入っていたので楽しい雰囲気にしたいと思っていた。佳奈も店で、ある程度酒を飲んでいたはずだがそんな様子は微塵も感じられない。
少しの間沈黙が続いたが、テーブルの上の皿が空になって大吾と隆正がタバコを吸い始めた頃、佳奈がポツリと口を開いた。
「ねぇ、今日は竹田君と一緒じゃなかったの?」
この質問には簡単に答えることができる。大吾は少しほっとした。もっと返答に苦しむようなことを言ってくると思っていた。
「今日は竹田君とは一緒じゃないですよ、なんかレポートやらんといかんって言ってたけど。」
「えっ、そうなの。レポートやるって二人にも言ったんだ。」
ちょっと佳奈の表情が緩んだ。
「言ってたよな、タカ。」
大吾は当然のことを言っただけなのに佳奈の様子がガラッと変わったので、隆正にも同意を求めた。
「ああ、確かにそう言ってましたよ。俺が電話で話しましたから間違いないです。」
「そっかぁ、ちょっと安心したかな。」
やっと佳奈に笑顔が戻った。それを見て年下の二人も気が楽になり口を開くことができた。
「なんか竹田君と上手くいってないんですか?」
大吾が持ち前の明るい口調で佳奈に問いかけた。
「うーん。上手くいってないってことはないんだけど、最近なかなか一緒にいる時間がないのよねぇ。だから・・・さぁ。」
「あぁ、そういう心配なら大丈夫だと思いますよ。あの人はスロットばっかで、それ以外のことはあんまり興味ないと思いますから。」
大吾は先程までと違いいつもの雄弁さを取り戻している。
「大吾、ちょっとそれは言い過ぎだろ。」
冷静な隆正が口を挟んだ。
「えぇ、そうじゃないってこと?」
隆正の冷静な言葉はなぜか重みがある。
「いや、竹田さんは確かにスロット好きですけど、別にそれだけの人じゃないと思って。だけど浮気とかはしてないと思いますよ。」
ちょっと弁解っぽくなったが隆正はきっぱりと言い切った。
「そっかぁ、ちょっと安心した。なんか隆正君が言うとやけに説得力あるね。」
そんな佳奈の言葉と笑顔に隆正は少しドキッとさせられたが、表情に見せることはない。
「えー、なんすかそれ。俺の言葉はあてにならないみたいじゃないですか。」
大吾も笑いながらそんなことを言った。だいぶファミレスらしい雰囲気になってきた。
「ごめんごめん、そんなつもりじゃないって。結構本気で心配してたからさぁ。ねっ。」
「ねっ、って。言われてもなぁ。まぁでも、ちょっと竹田君もダメだよね。こんな思いを彼女にさせるなんてさ。」
「そうでしょ、ひどいと思うでしょ。だって私、スロットに負けてるってことでしょ?」
「いやー、そこは勝ち負けとかじゃないと思うよ。竹田君はただスロットが好きなだけだって。」
佳奈と大吾の会話は軽快に続いている。佳奈もどんどん持ち前の明るさが戻ってきた。
「じゃあ、どうすれば竹田君はもっと私に構ってくれるようになるの?」
「うーん・・・難しいな。」
大吾は返答に困ったので隆正の方を見た。
「何で俺に振るんだよ。」
「いや、お前なら、なんかいい考え出るだろ?」
「そんな無茶な。」
隆正もちょっと困った表情をしている。
「えぇ、無茶って、隆正君までそんなこと言う?」
佳奈はちょっと可愛く、かつ意地悪な顔をした。
「いや、無茶じゃないっすよ。あぁ、じゃあ竹田さんがスロットで負けた時とかに優しく声をかけたりしてみたらどうです。」
「おぉ、それはいいな。タカ。」
「え、なんで。負けた時なんて機嫌悪いんじゃないの?」
「いやいや、それは違いますよ。確かにちょっと機嫌悪いかもしれないですけど、負けた時ってなんかやたらと人恋しくなるもんですから。俺やタカもそうですから間違いないっすよ。」
隆正も隣でうなずいている。
「そんなもんなの?」
「そんなもんです。」
佳奈と大吾は掛け合い口調になっている。
「なんかあやしいけど、じゃあ、今度やってみるよ。」
「やってみてください。絶対竹田君もイチコロですから。」
やっと佳奈も納得したようである。最初はどうなることかと思ったが和やかな雰囲気になり、あまり話しはしていないが隆正もほっとした表情でタバコの煙を吐き出した。いつの間にか時計の針は2時を回っていた。




