十七
日付が変わり、あたりは漆黒の闇が人も、まばらな車も、何もかもを覆っている。大吾と隆正は『アクアパレス』でラストまで居続けた。店を出て少し頬を赤く染めた大吾は、暗闇にまだ目が慣れず星空を見上げていた。大吾と比べ隆正の顔色は普段とあまり変わらない。
「大吾、どうする。この後、ほんとに竹田さんの彼女さんとメシ喰いに行くの?」
二人は佳奈から閉店後、少し話があるから何か食べに行こうと誘われていた。佳奈のことは綺麗な人だという印象を持っていたが、隆正は義理堅い人間である。先輩の恋人とどこかに行くのに少し抵抗があった。
「うーん、まぁいいんじゃないか、タカ。むこうから誘ってきたんだし、俺だって別に変な気は全然ないしさ。」
大吾は隆正に比べれば軽い部分もあるが、昔はやんちゃな時代もあった。もちろん先輩後輩の関係は普通の若者よりも心得ている。
「それによ、タカ。話によってはもしかしたら可愛い娘紹介してくれるかもしれんぞ。」
「そっか、それはアリだな。・・・じゃあ行くか。」
二人の意思は重なり、待ち合わせしているファミレスに隆正の車で向かった。隆正もだいぶ酒を飲んでいたが、表情に出ることがないので外からは酔っ払っているかどうかは解らない。時間が時間なだけに車の数は極端に少ない。すぐに待ち合わせの店に隆正の車は到着した。あたりを見回したがまだ佳奈が来ている様子はない。車を停め、サイドブレーキを引いた隆正を横目に、助手席の大吾がつぶやいた。
「どうする、先に入っとくか?」
「どっちでもいいけど・・・まぁ、ゆったりしたいし、先に入ろうぜ。」
二人は車から降り、店に入っていった。深夜だったのでなかなか店員が案内に来なかったが、バイト帰りなどによくこの店を利用している二人は、つかつかと奥にある喫煙席に行き、腰をおろした。
軽い食べ物とドリンクバーを注文し、店員が戻っていくと、早速隆正が立ち上がり、
「じゃあ、飲み物とってくるよ。コーヒーでいいか?」
と、タバコに火をつけだした大吾に聞いた。
「おお、悪いな。頼むよ。」
当然のように大吾も答えたので、隆正はカウンターのほうに歩き出して行った。彼らはジュースの類はほとんど飲まない、スロットをやっている時の影響なのか普段でもコーヒーばかり口にする。一種の職業病のようなものであろう。
隆正が席を立ち、一人になったので、大吾はなんとなく天井を見上げて吸い込んだ煙を照明に向けて吐き出した。
「ふぅー。」
今日はもう何本タバコを吸ったのだろうか、のどには違和感がある。大吾はかなりのヘビースモーカーである。竹田や隆正もタバコはよく吸うほうだが、二人に比べ明らかにペースが速い。『ヨンキョー』でスロットをやりはじめてから既に3箱目が無くなろうとしていた。旨みをもうほとんど感じないので呆然と天井を眺めていたが、ふと人の気配がしたので視線を落とした。隆正が戻ってきたのだと思ったが、少しぼやけて見えるその先には佳奈が立っていた。
「お待たせー。」
店にいたときより少し落ち着いたトーンである。プライベートな雰囲気が服装からも窺える、先ほどまでとは違い、派手さが無い。
「お疲れ様です、早かったですね。」
「うん、用事があるって言ってすぐ出てきちゃった。」
佳奈はかばんを脇に抱えながら大吾の向かいに座った。大吾はタバコの火を消しながら座りなおそうとしたが、佳奈が気にしなくていいと言ったのであまり体勢を変えずに少し座席の奥に体を運んだ。
「ねぇ、隆正君は?帰っちゃったの?」
やはり一対一だと抵抗があるのか隆正の姿が見えないことをすかさず確認した。
「あ、今飲み物取りに行ってます。もうきますよ。」
言葉通り、隆正は両手にグラスとストロー、ミルクを抱え座席に戻ってきた。隆正は佳奈を見て、
「お疲れ様です。」
と、礼儀正しくあいさつをし、大吾の隣に腰をおろした。
「こちらこそお疲れ様。ごめんね、こんな時間に。」
佳奈も隆正の態度に合わせて、言葉と表情を年上のものにした。
「全然平気ですよ。どうせ俺らいつもこの時間は起きてますから。な、大吾。」
「そうっすよ。佳奈さんの方こそ明日とか学校じゃないんすか?」
隆正ほどではないが大吾も普段の竹田などと話す口調とはだいぶ違う。
「あ、うん。・・・学校はあるけど・・・。」
佳奈は言葉を詰まらせた。表情も少しさえなくなり、軽い気持ちで誘われたわけではないと、まだ酔いがさめない年下の二人でも十分に理解することができた。




