十一
この日竹田は珍しく時間通りに学校へ来た。駐車場に車を停め、教室まで歩いていると、途中のベンチに佳奈とその友人たちの姿が見えた。昨日嘘をついたこともあり、なんとなく後ろめたい気分だったので、気づかれないようにこっそり通り過ぎようとした。
・・・気づかれたような気がした。なんとなく視線を感じる。しかし、何事もなく竹田はその場を通り過ぎることができた。背後では言葉こそ発しなかったが、佳奈が竹田を目でずっと追っていた。
教室棟の入り口にあるベンチ兼喫煙所で山本と顔をあわせた。教室にはいつもいないくせに、この場所ではかなりの高確率で山本と出会う。
「いやぁ、お疲れ様です。」
二人は今日の明け方まで一緒にマージャンをしていたので、互いに疲れた表情をしている。
「いやいや、ホント疲れたよ。山ちゃんの一人勝ちでさ。今日学校に来れたのが奇跡だって。」
竹田はタバコに火をつけながら呟いた。もう昨日から何本タバコを吸っているのか、少しのどに痛みを感じる。
「いやいや、たまたまやって。それより竹やん、『政治学』のレポートもう書けた?提出期限明日らしいやん。」
「いやぁ、俺まだ何もやってないって。山ちゃんは。」
「俺もだって。いやいや、マージャンしとる場合じゃなかったな。」
山本はレポートの存在自体を先ほど掲示板で見て知った。知っていて何もやっていない竹田と違い本当に焦っているようである。
「まぁ、一晩あればなんとかなるでしょ。」
竹田には全く危機感がないようである。レポートのことよりも今日もスロットに行くことの方が頭の中では大部分を占めている。
「余裕やな、竹やんは。結構あのレポートはきついと思うよ。」
「徹夜でやればなんとかなるって。それより今日はどこ行きますか。」
「いやいや、今日も行く気ですか?ホントにキチガイやな。」
さすがに山本も本気で呆れている。山本は竹田とは仲がよく、一緒にスロットをやったりマージャンをしたりしているが根は真面目な人間である。今日は早く帰ってレポートを書こうと思っていた。
「いやいや、今日は行かないんですか?レポートなんてサクッと終わりますよ。」
竹田がそう言った時、背後から声を掛けられた。
「竹田君、おはよ。」
竹田は反射的に振り返る。そこには佳奈とその友人の涼子がいた。佳奈はみんなの前では竹田のことを『竹田君』と呼ぶ。
「ああ、おはよう。」
竹田は少しやりづらそうに返事をした。レポートをやるといって昨日帰った手前、今の山本との話を聞かれたら具合が悪い。
「なに、また学校サボって遊びにいく相談?」
佳奈の表情は明るいが、なんとなく棘があるように思えた。
「違う違う、明日出すレポートの話だよ。な、山ちゃん。」
竹田の立場を考えてか、山本も話を合わせる。
「ああ、そやで。俺まだやってないから、何書けばいいか竹やんに聞いとったんや。」
竹田は心の中で山本に拍手を送った。なんて上手い言い訳だ。
「ふーん。そうなの。で、竹田君はできたの?」
佳奈はちょっとうさん臭そうな顔をしている。
「ああ、もう少しだな。昨日あれから明け方までやってだいぶできたよ。」
「そっか、じゃあ今日完成できるね。」
佳奈が少し納得した表情をした。竹田も表情には出さないが、ホッとしている
「キーンコーンカーンコーン。」
始業を伝える鐘が鳴った。
「じゃあ、先に教室行ってるね。」
佳奈と涼子は足早に教室に向かった。竹田は安心したせいか、またタバコに火をつけた。それを見て山本もポケットからタバコを出し、吸い始めた。
「いやいや、あんたも悪どい人やな。」
山本が笑いながら煙をはいた。
「そんなことないって、それより今日はやっぱりスロット行かん?」
竹田はまだそんなことを言っている。山本もさすがにこの言葉には違和感を感じた。
「今日は行きませんよ。」
そう言うと、山本はタバコの火を消し教室へ歩き出した。
「いやいや、待ってくださいよ。」
竹田もしぶしぶ山本の後を追って教室に向かった。




