第4章 カラオケBOX
「“マック”だろ」
「“マクド”でしょ」
二人は、春樹がおごったハンバーガーの後、マックポテトをつまみながら会話が弾んでいた。
「オタクどこの出身だよ?」
「ここが地元よ。あなたこそ、バカみたいに都会ぶっちゃって」
「俺のほうが田舎だよ。市外から来てるから」
「じゃ、英語じゃどう言うのかしら。後ろの外人さんに訊いてみてよ」
恵美莉は、春樹の背後に座るビジネスマン風の白人男性を見て言った。
「バカ、そんなことできないよ」
「あ、気づいちゃった」
「え、今振り返ったらマズイ?」
「大丈夫よ」
春樹は、恐るおそる振り返ってみた。
「ハイ!」
その外国人は、ビッグマックを食べながらスマイルで言った。
「思いっきり見てるじゃん」
「あははははは。バーカ」
恵美莉は、我慢できずに笑った。
「あーあのぅ、英語で“マクドナルド”ってどう言うんですか?」
春樹はおどけながら訊いてみた。
「'c Donald'.(ックダノーゥズ)」
「は? ダノン?」
「ダノーゥ。デス」
「ああ、ダノウ。…ダナウ。なんて?」
恵美莉はそんな春樹に失笑しながら、白人男性に
「ダナーズ」
と言うと、
「Yes, that's right!」
と返され、
「サンキュウ」
と、頭を下げて言った。
「ダノウって何? 俺の英語通じてた? マクドナルドって訊いたんだけど」
「バカね。全部日本語で訊いてたわよ」
「バカバカ言うなよ」
「ごめんね。菅生君オモシロ過ぎるんだもん」
「もうオタクは、笑わさない」
「それなら、“オタク”って言うのもやめてもらえません?」
「あ、ごめん。昔からの癖なんだ」
「なんかそれこそバカにされてるのかと。でも、別に怒ってるわけじゃないんですよ。誤解しないでね」
「じゃ、“お前”」
「バカか、お前!(笑)」
「はははは」
二人は店に響かないように、声を抑えて笑った。
「もう! 普通に名前で呼べばいいじゃないですか」
「川崎さんて?」
「下のほう」
「崎さん?」
「やっぱりバカか!(笑)」
「恵美」
「呼び捨てにするなら、莉まで言って欲しい」
「恵美ちゃん? 恵美莉?」
「春樹? 春樹君?」
(あ。あたし、この人にはまっていく・・・)
「もうそろそろ7時半になるよ。JOYに行かないと」
「はい。そうね」
恵美莉は席を離れる時、もう一度外人さんに頭を下げた。
二人が“カラオケJOY”に着くと、すでに小峠、佐々木、そしてみのりが二人を待っていた。
「すまない、遅くなって」
小走りに駆け寄る二人に、
「あれ? なんか二人、急に仲良くなってない?」
みのりが言うと、
「ほんとだ。カップルが来たみたいだった」
佐々木が言った。
「二人だけのほうがよかったんじゃないのか?」
小峠も言った。
「そんなことないよな。恵美莉」
「みんなと一緒がいいよね。春樹」
三人
「・・・・・・・」
二人
「ウソ! 冗談!」
BOXに入ると、ソフトドリンクを注文した。早速、佐々木が歌い始めて、5人は順にお得意曲を入れていった。小峠はピザも注文したが、その半分をみのりが食べた。
「何だよ俺のピザもうないじゃないか」
「練習上がりだから、お腹すいてたんですよー」
「じゃ、自分で頼めよ」
恵美莉は、みのりとカラオケにはよく来ていた。そこにはいつも颯介も一緒だったが、みのりと歌う曲はいつも決まっていた。二人はいつもの“西野カナ”を歌いまくるのだった。
5曲目を歌い終わると、恵美莉は、みのりを連れてトイレに行った。みのりは鏡の前で念入りに化粧直し。
「道場でシャワーして、直接来たから化粧がちゃんとできてないしー」
「ふるふるでLINEはOKね」
「恵美莉と菅生君、一緒に座ればいいじゃん」
「佐々木君はどう?」
「まあまあかな。でも彼女いるらしいわ」
「そうなのか!」
「でも私、気にしないから」
「え? 大丈夫なの?」
「私も彼氏いるもん」
「お。それこそ大丈夫?」
「恵美莉のほうこそどうなの?」
「春樹君、なんか気が合うのよ」
「彼女はいるか訊いた?」
「まだ、聞けてない」
「それ大事でしょ。いても気にしないほう?」
「気になる」
「じゃ、今日の課題は、それを確かめることね」
二人は部屋に戻ると、小峠先輩が熱唱中。みのりはそのリズムに拳を突き上げ、ノリよく飛び跳ねながら席に着いた。そこは、それまで小峠が座っていた場所だった。みのりはうまく、恵美莉を春樹の隣に座らせたのだ。
「ねえ、菅生さん。デュエット曲とか歌われるんですかぁ?」
みのりがねっとりとした口調で声をかけた。
「あまり歌ったことないよ」
「菅生さん、歌上手だったから、恵美莉と歌ってみてくださいよぅ」
「恵美ちゃんもすごくうまいもんね」
「え? やめてよ。あたしそんなに自信なんかないですよ」
「じゃ、恵美莉『あなたと』入れるね。菅生さん、歌ったことあります?」
みのりが強引に入力。
「絢香×コブクロの?」
「やめてってば」
その曲は、恵美莉がよく、颯介と歌っていた曲だった。恵美莉は、みのりのおせっかいに、思うところもあったが、戸惑いながら春樹とのデュエットに応じた。颯介とは違い、タイミングを合わせ難い気もしたが、それでも楽しんで歌うことができた。
「やっぱり二人とも上手。すごくよかったですよー」
みのりのテンションで言われて、春樹も嬉しそうに笑った。
「おう、よく息合ってたな」
小峠も声をかけた。
「彼女さんともよく歌うんですか?」
みのりがストレートな質問を放つ。
「え? 今は彼女いないよ」
(やった!)
「恵美莉! 彼女いないって。もう付き合っちゃいなさいよ」
「え? なん。何言うのよ。藪から棒に」
「そうだよ。お似合いじゃないか」
(え?)
「こいつも川崎さんのこと、気に入ってるし」
(ぇえ?)
「ちょっと何言ってんだよ。まだ俺は・・・」
(え、え?)
「よかったね。恵美莉!」
(待って、ちょっと待って、なんか違う。こんなの違う・・・・)
カラオケの後は、飲みに行こうかという話になったけど、恵美莉は断った。もしカラオケでお酒を飲んでいたのなら、春樹との交際を承諾していたかもしれない。でも、冷静だった恵美莉は、今日の話の進展に、一旦落ち着いて考えたいと思った。




